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「PINK BLOOD」 : 宇多田ヒカル

6/2 にシングル「PINK BLOOD」を発売した宇多田ヒカル。今回も姉さんがすごいのだ。

いま、around 40 の女性が、すごい。
とは、この記事の受け売りだが納得することも多い。

若さを武器に、踏ん張った20-30代を超えた先には、何があるのだろう。
今まで描かれてこなかったその先の40代女性の景色が最近ドラマで描かれていると記事にはある。その記事を読んで日も浅かった私は、今回の新譜をきいて、それを体現しているのが宇多田ヒカルなんじゃないかと思った。

曲を聴いた時、彼女が世の中へ投げかけたその歌詞に、心が動いた。デビューから活躍を続ける彼女がいま歌ったのは「自分自身を生きること」だった。なぜ、いまこの歌詞なのか? 彼女が歌うことにどんな意味があるんだろう?

彼女が社会進出した頃をふと振り返ってみた。

宇多田ヒカル、安室奈美恵、浜崎あゆみ、aiko、椎名林檎、モーニング娘。など、のちに奇跡の年とも呼ばれる、未来を牽引する歌姫たちがこぞってデビューを飾った1998年。

バブルの後、2008年のリーマンショックを前にした90年代後半〜00年代前半は、まさに平成のバブル全盛期とでも言えるのではないだろうか。もちろんさほど景気が良かったとは言えないかもしれない。でも、モーニング娘。の「LOVEマシーン」も「ラブレボリューション21」も、マツケンサンバも慎吾ママも、あの時代でないと受け入れられてないようなバブリー感がある。そのなかで、98年デビュー組はスターダムをかけ上がっていく。

そのあと、景気は再びへこんで行く。宇多田ヒカルはヒットを飛ばしつつも、結婚・出産・離婚・子育て・休止期間を経験する。彼女だけでなく、先述した98年組は、後発のアイドルやシンガーに流行を譲りはするものの、私生活と並行して独自の音楽活動を行っている。その結果、いまも確固たる地位を築き上げている人が多い。ロールモデルがあるようでない生き方を、彼女らは模索し自分の道を切り拓いて来たのだ。

2010年代。SNSによって昔よりも流行り廃りのスピードが速くなり、良く言えば誰もが活躍できる、悪く言えば誰もが社会の攻撃の的になってしまう時代になった。そんな中2020年代の幕開けとともに話題を席捲することになったのは、他でもない新型ウィルスだった。人々は活動を一度止めることを余儀なくされた。それは激動の中にをふっと現れた凪のようだった。

誰もが自分の人生や日常について思い直すことが増えた。
前置きが長くなったが、そんな2021年の6月2日、宇多田ヒカル姉さんのリリースした新曲が「PINK BLOOD」である。

他人の表情も場の空気も上等な小説も
もう充分読んだわ

私の価値がわからないような
人に大事にされても無駄
自分のためにならないような
努力はやめた方がいいわ

誰にも見せなくても
キレイなものはキレイ
もう知ってるから
誰にも聞かなくても
キレイなものはキレイ
もう言ってるから

みんなそろそろSNSで発せられるような言葉や、世間が貼ってくるレッテルがいかに馬鹿馬鹿しいかは気付き始めている。「映え」を求める人生が、本質ではないと、気付き始めている。

それでも世間の評価はときに人を傷つける。誹謗中傷によって人が簡単に壊れてしまうこと、今や顔すら見えないような人の評価が他人にとっての致命傷となったりする。

自分の価値もわからないような
コドモのままじゃいられないわ

心の穴を埋める何か
失うことを恐れないわ 
自分のことを癒せるのは
自分だけだと気づいたから

他人に評価されないことは一見孤独にも感じる。でも、自分自身が自分の価値をきちんと肯定できたときに、本当の自分を得られるのかもしれない。

宇多田ヒカルをどれだけ時代が評価し称賛して来たかは、誰の目にも明らかである。しかし彼女は時代に翻弄されることなく、自分としての価値基準で生きることについて伝えている。

「もう充分」経験をして来た姉さんが、他人の評価ではなく自分自身を生きろと、と言っている。初めてのルーブルはなんてことないと言ってしまうだけある、この説得力たるや(?)。世間に評価されながらも、自分の思う音楽を届けて人々を魅了してきた彼女の口から発せられるからこそ、余計にハッとさせられるし、そのような考え方が改めて肯定されるような気がする。

王座になんて座ってらんねえ
自分で選んだ椅子じゃなきゃダメ

これが、何回もチャート1位取って、日本どころか全世界で評価された人の結論である。これほどまでに自己を肯定することの重要性を歌って説得力ある人いる?王座ではなくて自分がしっくりくる椅子が一番良いらしい。

逆にここまで評価されたからこそ出てくる言葉なんでしょ、とも捉えられなくはないけど。

最近、個人的に将来や生き方について、他人に評価されたり示唆されることがあってモヤモヤしていた。もちろん他人のアドバイスは真摯に受け止めるべきで、ある基準として大切だが、それはあくまでも側面に過ぎない。彼らが自分の人生を丸ごと引き受てくれるか?違う。やっぱり、自分の人生に責任を持てるのは自分だけ。評価は基準にしか過ぎず、自分自身とイコールではないと思う。私たちは多くのシーンで、それを混同してしまう。だからこそ、宇多田ヒカルのこの歌詞は、そんな評価を気にする必要がないと改めて言ってくれるようだった。一方的な評価で自分のキャリアやスタンスが決定づけられるような単純な世界ではもうない。もうそういうレベルではないと信じたい。

みんな、自信持って、自分の椅子座っていこや。そう言ってくれている。100万の高級スツールに座って満足する人もいれば、100均の座布団で落ち着く人もいる。その価値は測れない。そういうことですよね、姉さん?

ところでわたしはヘリノックスの折りたためるアウトドアチェアが好きで家でも座ってる。

と、思ったことを脈絡もなく書いてきたけど、タイトルの「PINK BLOOD」ってなんだろう。主題歌になっている「不滅のあなたへ」を見たらわかるのかな。私は最初ピンク・フロイドと間違えそうになった。とりあえず今日聞いてからいてもたってもいられなくなってしまったけど、考察班のレビュー続報を待ちたい。



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