【作品紹介】瓦に蛙 / かわら に かえる
先月下旬には完成していた 瓦に蛙。
去る「災厄を喰らう」という記事で取り上げていた根付ですが、ようやく首尾が整ったので御紹介させて頂きます。
瓦に蛙
軒瓦の上に大きなヒキガエルが一匹。まるで門番のような佇まいです。
この根付の名前は「瓦に蛙」。
これもまた「丸鼠」や「草履に蛙」と同じく古典的な題材です。
1:小さな命に寄せて
作品紹介の前に、少しだけ余談を綴らせて頂きます。
此度は、穏やかな心持ちで製作を続けることが出来たように思います。それはやはり、カエルの魅力がそう感じさせてくれたのでしょう。
カエルは、根付ならではの言葉の遊び(カエル=帰る)が備わっていることもあり、親心が自然と湧いてくることが影響しているのかもしれません。
また、種が豊富だという点も、カエルの魅力を高めていると思います。種によって機能や格好が異なる手足や、肌の質感、そしてフォルムなどなど。カエルの多様な特徴は、作者のフェチな部分を反映させやすく、多様な表現を促してくれるように感じています。
本作に取り組む中で、根付という掌に載るような彫刻には、小さな命が相応しいと改めて思い至りました。これからは、古典的お題のみならず、他の作品にも積極的に登場してもらおうと考えております。
それでは、作品紹介に入らして頂きますね。
2:キャラクターが意味すること
「 瓦に蛙 」
それは、捻りも何にも感じさせない素朴な名前。
しかしながら、瓦やカエルといったキャラクターには、古典的な題材ならではの想いが込められているのです。本作は、こうした先達の想いを礎にしながら、更なる願いを込めて製作してみました。
本項では「瓦に蛙」を構成する各キャラクターについて、独自解釈を交えながら触れていこうと思います。
まずは「瓦」に注目してみましょう。非常にシンプルなキャラクターですが、様々な事柄を想起させてくれる存在だと思います。
この瓦は、軒瓦(軒先に施工する瓦)と呼ばれています。
この一枚の瓦で、建物・家屋を表現していることは言うまでもありませんが、古の先達たちが、数多ある建築材料の中にあって、あえて瓦を採用した理由を想像してみようと思います。
まずは、風雨を防ぐという大切な役割を担っている部材であったこと、加えて、当時の一般的な屋根材(杮葺き・茅葺)と比べて防火性能に富んだ材料だったことに因ると僕は捉えています。更に深読みすれば、瓦が武家や裕福な商家くらいしか使えなかったことから、富を象徴する建築材料であることも指摘しておくべきでしょう。
また、軒瓦の円形の面に施されている紋は「三つ巴」と呼ばれるもので、水の流れや魔除けの表す文様と言われています。(※武家だけではなく武運神を祀る神社などでも使われている紋)
といった具合に、何の変哲もない一枚の瓦ではありますが、そこには様々なメッセージが内包されていることが窺われます。
この瓦の上に、主役のヒキガエルが鎮座しているわけです。
ヒキガエルについては去る記事でも記した通り、呪術性の強い生き物として古より認識されています。本作では、呪術力の象徴とも言えるイボイボや、いかつい手足を更に強調してみました。
そして、私が満を持して出番を請うたヤモリです。
これは従来の古典作品「瓦と蛙」には登場してこないキャラクターですが、後進ならではの気軽さで彫り加えることにしました。
多くの方がご存知だと思いますが、このヤモリには「矢守」の他に「家守」という当て字が存在します。なんでも、家屋の中に隠れ潜み害虫を食べてくれたことから「家を守る」という意を込められた漢字をあてがわれたとか … 。それは小さな生き物ではありますが、ヤモリもまた縁の下の力持ちには違いないようですね。
3:家内安全の願い
このような意趣を内包したキャラクターで構成された本作「瓦に蛙」に込められた願いをまとめれば「家内安全」と言うことになるでしょう。
火や水に類する災厄から家・財産を守る。
家人の無事を願う。
そんな願いを込めながら彫り進めていったわけですが、本作においては、更なるパワーアップを目指すべく、2匹の小さなキャラクター達に2つの特長的な役割を担ってもらうことにしました。
その一端が、ヒキガエルとヤモリの顔が向いている方向に表れています。
彼らの顔は真逆を向いています。つまり、ガマガエルの顔を鬼門(北東)に向かせれば、ヤモリの顔が裏鬼門(南西)の方向に顔を向けることになるわけで … 。それ即ち、鬼門と裏鬼門に対する布陣を固めると言う風に捉えて頂ければ幸いです。
加えて、瓦の表裏に彼らを配置した点にも意趣が含まれています。
瓦の表裏は、家の内外を表しています。故に、瓦の表に配したガマガエルには屋外の守備を、そして瓦の裏に配したヤモリには屋内の守備を任せるといったところになるでしょうか。
このように、愛すべき小さな生き物たちに重責を与えてみたわけですが、物言わぬ彼らの顔には、確固たる自信が漲っているように思われてなりません。そんな彼らの面構えを見て安堵する作者なのでした。
と云ったところで、毎度お馴染み「作品紹介」とは言えないような「作品紹介」をお開きにさせて頂きましょう。
なお、本作に興味を覚えた方は、クリーマのショップの方にも足を延ばして頂けると嬉しいです。お時間の許す時にでもどうぞ。