見出し画像

馬の幸せ

私はこの2か月で、一気に動物とのふれあいを経験した。

家ではペットを飼ったこともなく、動物園はかわいそうだから嫌いで、鳥が苦手で、猫はそんなにかわいいとは思えず、犬は好きだけど出会えばかわいがるだけで身近にいるわけではない。牧場のふれあいコーナーは楽しいけど、それは大きくなってからの話で、子どものときは怖かった。

今から思えば、わりと動物と距離のある人生を送ってきたように思う。

ところが、ニュージーランドに来て、WWOOFをして、一転。
人間と、人間以外の動物との境界線がほとんどない生活。
犬、猫、鳥、羊、ヤギ、ポッサム、ハリネズミ、ウサギ、とっても身近に、当たり前にいて、いちいち感動もしなくなってきた。笑

そして、馬。

前回の記事で紹介した、3か所目のステイ先で、馬とふれあううちに、もっと馬のことが知りたい、仲良くなりたい、自分でお世話できるようになって、気軽に馬に乗って出かけれるようになりたい、と思うようになった。

ここで出会った「馬との経験あり」なWWOOFerたちは、家に馬がいる、近所で乗ることもあれば、車でビーチなどに連れて行って、そこで乗ることもある、などと言う。いわゆるペットみたいな、あるいは自転車みたいなちょっとした趣味のような感覚らしい。

え、なにそれめっちゃいい!私もやりたい!
でも、馬を飼うお金なんてないし、まずは経験を積まないと...
例えば、牧場かどこかで働いて、その間にいろいろ教えてもらうなんてできないだろうか?(わくわく)

ところが、日を重ねるうちに、疑問を抱くようになった。

馬は、「何か」のために飼われている

例えば、今滞在しているホースクラブでは、主にジャンピングの競技馬を扱っている。日々は軽い運動、ときどきはジャンプの練習、馬の意向ではなく、人間の意向でやらされている。

過去に輝かしい成績を残して引退した馬は、ブリーディングのため、人工的に発情させられて精液を採取されている。事実としては知っていたけど、この前その様子を目の当たりにして、衝撃を受けた。

個人から預かっている馬は、時々そのオーナーさんが乗りに来る。頻度や態度は人によって違うけど、少なくとも大切にはされている(はず)。

でも、ここには、それ以外にもたくさんの馬がいる。
全25頭ほどのうち、上に記したのは8~9頭の話。それ以外の16頭ほどは、正直”ほったらかし”である。

そこそこのパドックに放たれて、糞を拾いに人間が来る場合もあれば、それもない場合もあって、草を食べつくせば隣のパドックにうつされ、ただ食べるか寝るか。雨の日も、風の日も、暑い日も。

特に、ふだん誰も人が来ないパドックの馬たちは、たまに行くと極端に興奮する。物珍しがってるだけと言えばそうだが、それだけふだん、刺激がないのだろうとも思う。

もちろん、馬は乗られるのが好きとは限らないし、人間にかわいがられずとも、毎日ごはんが食べれて馬同士一緒に過ごせればそれでいいのかもしれない。馬同士はどんな話をしているのだろうか?

先日、ちょっとした事件が起きた。
私が、手押し車を押しながらパドックを移動中、勢いで大きく開いてしまったゲートから私の脇をすりぬけ、1頭の馬が隣のパドックへ移動してしまったのだ。

幸い、隣のパドックには誰もおらず、周囲の馬がちょっとざわついたくらいで特に問題はなかった。本人は、移動できたことが嬉しかったようで簡単には戻ってくれなかったので、私は他のスタッフに助けを求め、一緒に元のパドックへ連れ戻した。

連れ戻された馬は、しばらくパドック内を行ったり来たり、狂ったように走り回った。私は、とても申し訳ない気持ちになった。隣のパドックはしばらく使われておらず、彼のパドックより草が青々としておいしそうだったのだ。

画像2

そりゃあ右行きたいよな!!

画像2

でもそれは、私の判断ではできないの。今はとりあえず、こっちにいて。

そして、もう一つ。
ちゃんと元のパドックに戻った彼を「いい子だ」と思った自分に、あーこういうことだ、と思った。

人間の言うことをよく聞く馬がいい馬。
競技でいい結果を出す馬がいい馬。

人間に対しては散々、「自分の気持ちに正直に」とか「自分を大切に」とか言ってるくせに、馬に対しては言うことを聞きなさいと、従いなさいと。。
それってどうなの?

――馬は「何か」のために飼われている。
その「何か」とは、人間の利益だ。

馬周辺では、大きなお金が動いている。
いい血統で、優秀な成績を残した Charlie の精液はいい値段で売れるのだろうか。

まだ若い彼らは、これからトレーニングを受けて競技馬になるのだろうか。
今は何のケアも受けていない彼らは、トレーニングしたけどあまり活躍できなかったのだろうか。
あのオーナーに飼われているこの子は、オーナーが年老いたらどうなるのだろう。馬本人だって歳をとる。

馬の幸せってなんだろう?

こんなことを考えてる時点で、人間のエゴなのかもしれない。
馬はみんな、幸せに生きているのかもしれない。

ただ、馬と関わろうと思ったら、どこかでこの「人間の利益」を振りかざすことになりそうで、ちょっと要検討だと思った。

もちろん、馬と仲良くなりたいという私だってエゴだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?