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パンツに穴があったら入りたい。


パンツと靴下に穴が空いていた。


いつ穴が空いたのかは分からないが、各々にぽっかりと丸い穴が出来ていた。



偶然が生み出した穴はアートである。



どの穴空きパンツや靴下を比べても一つとして同じ穴はない。同じような使い方をしているのに、全く同じ穴が空かないのは趣がある。


日常のほんの些細な”ズレ”が積み重なって様々な穴が生み出され、世界に一つだけの穴が下着にプリントされる。たしかSMAPもそんな曲を歌っていた気がする。



突然のカミングアウトになって恐縮だが、私は穴が好きだ。


穴って何かこう、そこから何か出てくるんじゃないかというワクワク感があってとても良い。


小さい頃に家族で度々海へ潮干狩りをしに行くことがあったのだが、砂浜に出来ている穴をじっと見つめて何か出てくるんじゃないかと、スコップ片手に待ち構えていたのを覚えている。


恐らく今考えるとその穴は貝やその他の小さい生物の住処につながる穴だったに違いないが、そこから身長2メートルのおっさんが出てくるかもしれないし、逆にめっちゃ小さいおばさんが出てくるかもしれないというワクワクがあった。


ところで、穴は穴でも人間の体に空いた穴からは予想外のモノが出てくることは早々ない。耳の穴からキリンは出てこないし、鼻の穴から黒霧島が出てくることは一生ない。だから私は人間の体に空いた穴には興味がない。あくまでも何か出てくるんじゃないか、という可能性を少しでも感じさせる穴が良いのだ。

もし自分の部屋の壁に穴が空いていたらどんなに退屈しないだろうと、子供の時によく考えていた。そこから毎日違う動物やモンスターが出てくるという妄想にふけっていた。


言い忘れていたが、穴が醸し出している”どこか異世界と繋がっている感”もとても良い。想像を膨らませるだけで、時間が経つのを忘れることができる。


穴の奥には異世界が広がっていて、私たちと全く異なる生活を送っている知的生命体がいる。彼らは人間の世界をシュミレートして楽しんでいる。この世界はシミュレーションでつくられた仮想空間なのだ。彼らによって私たちが今日何を食べるか、何処に行くかは勿論のこと、パンツや靴下に空ける穴までシミュレーションされている……



「早く捨てな」


パンツの穴から出てきた2メートルのおっさんの声でようやく現実世界に引き戻された私は、穴の空いたパンツと靴下を捨てた。


めっちゃちっさいおばさんが出てこない穴に用はないだろ?とおっさんが私に言う。たしかにそうかもしれない。


「今日燃えるゴミじゃね?」


おっさんは私よりゴミの日を把握している。そうでしたねと私は呟き、穴の空いた下着たちをまとめてゴミ捨て場に向かうためにパジャマから着替える。


帰りにぷっちょ買ってきてね、というおっさんの声を背に玄関のドアを開く。



さて、次はどんな穴を空けよう。もう7連続でおっさんが出てきてるのでそろそろおばさんを引きたい。







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