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未来のカラス 15

30年経つと、
最初のチップの入った富裕層が次々に
火星へと到達した。

毎年毎年、火星への船は数万人単位で
地球から出ていった。


指導者も変わっていくが、
チップの制御により
同じ事しか言わなくなった。


地球の資源枯渇の問題や
ウェッジ達のようなカラス達の問題から
地球を出ざるを得なかった。


一方火星では
チップを埋められた理性的で
従順な人間が
クリエイティブのかけらもない
均一で効率的な街をどんどん
拡大していった。


まるでマウスの実験のようだ。

何も疑問を感じることなく
過ごした。


しかし問題が起きた。

ハレー彗星の火星接近により
火星の地表温度が100度に高くなっていた。


とても生物の住める環境ではなく、
外にも出られず、
建物は次第に焦げていき、
酸素はなくなって水も乾いていった。


巨大な街、
すなわち火星のステーションでは
死ぬに死ねない人間で溢れ、
それでも数十年前に地球を飛び出した
人間達が火星着陸の時点で
毎月毎月焼け焦げて死んでいった。


移住どころか集団自殺であり
地表温度の上昇は予期せぬことだった。


一方、かつて大都市と言われた場所は
人も少なく、
娯楽もなく、
ただひたすら農業や畜産物の育成を
淡々とこなすだけだった。


これが当時ウェッジの父達が
叶えたかったOneWorldなんだろうか?

病院は延命措置のベッドだらけで
寿命を全うするまで植物人間だった。


人間は激減し、
富裕層から順に火星に行った人間は
もう戻ってこれない。

片道分の燃料しか積めないからだ。

ロボにより街の清潔さは保たれていたが
電気はなく、夜は暗かった。


繁華街ではたまに人を見かける程度で
都市としての機能は最早人間では
コントロールできなかった。


量子コンピューターやAIの作る未来は、
完璧で従順、理性を保ち犯罪のない世界を
作り上げてしまった。


人間のエゴは行き着くところは
こうだったのか…


世紀の大発明のチップは
文明を必要としなかった。

人間の感情や欲求を
ことごとく潰したのだ。


ただの動く肉だった。


この数十年で火星移住は
無駄な計画と証明してしまった。

宇宙までコントロールできないことを
指導者達は分からなかった。

科学の分野でどれだけ計算しても
地球より火星移住の方が
適したと答えがでていたからだ。


皮肉にも
すでに数億人規模の人間が
火星到着と共に死んでいき、
火星ステーションも燃えてチリとなった。


自ら理性を捨てて
エデンに着こうとした
人間は蛇にそそのかされた知恵に
ずっと気づかなかったのだ。

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