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vol.22 手書きしなくなった時代だからこそ 【手紙の助け舟】

こんにちは。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
天高く馬肥ゆる秋、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回も前回に引き続き万年筆についてお話しします。
先日『手紙の書き方講座』を行ったとき、「最近の若い人たちは万年筆をもらっても喜ぶのだろうか」とおっしゃっている方がいらっしゃいました。そもそも使う機会がないのではないかと。確かに最近は履歴書すら手書きしなくても良いと聞きますし、万年筆を使う機会は意識して作らない限り無いかもしれませんね。

もう一つ馴染まない理由として、万年筆は高価なものという固定観念があるのではないでしょうか。最近は1000円前後で購入できる万年筆もあります。敷居が高いと思っている方がいるとしたら、最初は安い万年筆から使い始めて、慣れてきたら高価なものへと段階を踏んでいくと良いでしょう。魅力的な万年筆に出会い、いつか手に入れることを励みに過ごす時間も悪くありません。

初めての万年筆

私が学生だった昭和50年代〜60年代、万年筆は卒業記念や入学記念といった人生の節目を迎えた人への贈り物として定番でした。万年筆を初めて手にしたのは高校に入る時、両親からの入学祝いでした。パイロットの黒いフォルムの万年筆で、キャップの先にぐるりと金色の縞がほどこされて冠のようになっている細身の万年筆でした。当時すでに「手紙魔」と呼ばれていた私にとって、万年筆は実用的でとても有難い贈り物でした。

万年筆で文字を書くと背筋がピンと伸びるような折り目正しい心持ちになります。他の筆記具で書く文字より少し見栄え良く上等に書ける気がします。エレガントなフォルムやペン先は見るだけでも眼福で、持つこと自体に喜びを感じます。良い道具を使えば、それに見合う使い手でありたいと願う気持ちが自然と湧いてきます。そして、長く付き合っていく間に育まれる感情に目を向けさせ、物を大切にする価値を気づかせてくれるのです。こんな筆記具は他にありません。人生の節目に贈るものとして選ばれる理由もそんなところにあるのではないでしょうか。

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もし万年筆を贈る機会が有るとしたら、その時は実際に書いた肉筆の手紙を添えてみてはいかがでしょう。その文字を見て、万年筆の魅力に気が付くかもしれません。手書きしなくなった時代だからこそ、万年筆という類まれな筆記具の魅力に気付く機会も同時に作りたいなと、そんなことを思う秋です。

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田丸有子(たまる・ゆうこ)|喫茶手紙寺分室 note ライター
手紙文化振興協会認定 手紙の書き方コンサルタント
子供の頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの文通好き。
切手に描かれている美術品や絵画の実物を鑑賞するための美術館巡りが趣味。目下ステイホームで始めたベランダガーデニングに夢中。
blog: CORDIALLY YOURS 手紙魔の手紙物語



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