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vol.88 手紙と言霊【手紙の助け舟】

ごきげんよう。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
二十四節気も「大寒」に入り、一年で一番寒い季節になりました。しかも稀にみる大寒波がやってくるとの予報で少々心配していた時に紅梅が咲いているのを見かけました。グレーな冬景色に濃い紅色が鮮やかに目に映り、元気をもらえました。

さて、ふだんは忘れているのに折に触れて思い出す言葉があります。

「言霊の幸はふ国」

古くは万葉集の歌にこの言葉が詠まれていますが、その意味するところは「言葉の力で幸福がもたらされる国」。国とはもちろん日本を指しています。昔から日本では言葉には霊力が宿ると考えていたのですね。

手紙のマナーにも言霊を意識したと考えられるものがあります。たとえば年賀状に「去年」と書かず「昨年」とするのは、おめでたい時に別離や死別を連想させる「去」の漢字を見せない配慮の表れです。
また、慶弔の手紙に「忌み言葉」は縁起が悪いため使わない方が良いとされていますよね。シーンごとに色々ありますが代表的なものを挙げてみましょう。

◯お祝い
去る、切る、離れる、別れる、終わる、壊れる、冷めるなど。
「宴がお開きになる」の”お開き”も元はおめでたいことに対して”終わる”としないために代わりに使うようになったと言われています。

◯お悔やみ
死(四)、苦(九)、繰り返す、追って、続いて、再びなどの言葉はマナー違反とされます。
お悔やみの手紙で特に注意したいのが”重ね言葉”です。たびたび、ますます、くれぐれも、まだまだ、などは、不幸が重なることを連想させるため使わないようにします。

言葉で幸せに

使わない方が良い言葉についてばかり述べてしまいましたが、言葉に霊力が宿るなら、言葉を適切に使えば人にも物事にも良い影響を及ぼすはずですよね。

大正時代に書かれた手紙の作法についての指南書『作法文範 書翰文大観』の巻頭の口絵には「言霊乃佐吉播布国ことだまのさきわうくに」と大きく記されているそうです。
言葉は本来 人を幸せにするために使うものであり、言葉をしたためる手紙は人の幸せにつながるものでなければならない。100年前の人々もそれが手紙の本質的な役割だと考えていたのではないでしょうか。とても興味深いです。

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田丸有子(たまる・ゆうこ)|喫茶手紙寺分室 note ライター
手紙文化振興協会認定 手紙の書き方コンサルタント
子供の頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの文通好き。
切手に描かれている美術品や絵画の実物を鑑賞するための美術館巡りが趣味。目下ステイホームで始めたベランダガーデニングに夢中。
blog: 手紙魔Yukoのお手紙ライフ




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