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ご機嫌な「日比谷松本楼」【書きたくなる場所09】

お昼ご飯を食べに遠出をしたのはいつぶりだろう。最近は職場と家の行き来といった感じだったので、小雨で際立った森の匂いに胸が高鳴った。

春先、どこか穏やかな場所に行きたいと漏らしたところ、先輩が松本楼を教えてくれた。
誰にでも心や身体が何も考えなくていい状態を求めてしまう時があるはずだ。私が特段疲弊しているというわけではなく、人間そういう時間が必要だろう。そう思うと、最後に森で深呼吸したのは、何も考えず食事をしたのは、音楽に身を任せたのはいつだっただろうか。
今晩こそ自炊せねば。帰りに掃除用品買って。今週末はあれをやってこれをやって....と一つずつ「暮らし」を進めて、気づくと年を取っている。

松本楼での出来事

案内していただいた隣の席では、スーツ姿の男性が黙々とカレーを食べていた。他の席に目を遣ると、少し離れた席で二人の紳士が談笑している。テラスでは奥様方がお茶会を開いているようだ。

皆、各々の時間を楽しんでいる。松本楼でランチなんて羨ましい。私もカレーを注文した。正確には、ハヤシ&ビーフカレー。贅沢だ。

ハヤシ&ビーフカレー

カレーを食べていると、店内にスズメが入って来た。スズメは二人の紳士と私たちの間をちょこちょこ行ったり来たり。「人馴れしてるなあ」なんて言いながら、紳士も私たちも、しばらくの間スズメを眺めていた。スズメが出て行った後、入口から奥へ向かう着物の女性がちらりと見えた。2階か3階でお祝い事だろうか。

日比谷松本楼 ボア・ド・ブローニュ

日比谷松本楼の歴史は長い。
1923年 関東大震災で焼失。1971年 日比谷公園内で激化したデモの被害を受ける。様々なドラマを駆け抜け、現在も人々と共に歩む日比谷の名店だ。

そして私も今こうしてのんびりカレーを食べている。

「自分の機嫌は自分で取れ。」

仮にこんな事を言われたとして、あなたはどう感じるだろうか。
はじめてこの言葉を聞いたひねくれ者の私は、正直戸惑った。
誰かから思いやってもらうと嬉しいじゃないかと。

けれど、最近は少し違う。

ぼーっと恩恵を待っていれば日々は本当にあっという間に通り過ぎていくし、聞きたくないことや見たくないものと向き合わなければならない。そういうものだ。

だったら、せめて楽しいほうがいい。そう、これは暮らしを「こなさない」ための言葉だ。誰かから受け取った「せねばならない」から解き放たれる言葉。今はそう考えている。

今この瞬間も、取り留めもなく今の気持ちを書き起こして、文字という形を得た私の脳内ときちんと向き合っている。

だからこそ、今日のお昼は松本楼でハヤシ&ビーフカレーを食べたのでご機嫌です、と胸を張って言えるお茶目な自分を大切にしたい。

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櫟村 透美|喫茶手紙寺分室 ライター
想いの掛け合わせによって生まれるものや粋な人々に魅力を感じる。書く行為そのものが好き。大切な手紙を書きたいときは便箋からデザインする。Smiles: Project&Company 所属。


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