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vol.70 チャイコフスキーの手紙【手紙の助け舟】

こんにちは。
喫茶手紙寺分室、むらかみかずこです。
芸術の秋がやってきます。今回は大好きな作曲家・チャイコフスキーの手紙にまつわるエピソードをご紹介します。

わたしはクラシック音楽が好きなため、日々の癒しに定期的にコンサートホールに足を運びます。
これまで聴いた中でいちばん強く心に残っているのは、2019年4月、東京フィルハーモニー交響楽団演奏、アンドレア・バッティストーニ指揮 チャイコフスキー作曲「交響曲第4番」。
ラスト数分、呼吸さえ忘れてしまいそうになるほど引き込まれたことを、3年経った今もはっきりと思い出せます。

最大級の愛の言葉

この曲はチャイコフスキーのパトロンであり、最大の理解者でもあった、ある一人の女性に捧げられた曲とされています。その女性は「ロシアの鉄道王」とも言われた大富豪の未亡人、メック夫人。
メック夫人は初めて「交響曲第4番」を聴いたとき、「これは私たち二人のための曲です。私がどれほど幸せか、お分かりになりますか?」という熱い一文をチャイコフスキーに宛てて送っています。

これに対してチャイコフスキーは「書いているとき、たえず貴女を考えていた。人生を再び愛し、仕事への愛情が二倍の力で戻ってきたのはあなたのおかげ。自作にこれほどの愛を感じたことはない」と、こちらも最大級の愛の言葉を返しています。

1200通の文通と、たった1つの約束

二人は頻繁に手紙をかわし、互いを支え合いました。その数、約1200通。文通は14年間、続いたとされています。
そんな二人にはある固い約束がありました。それが「絶対に会わない」というものです。
深く理解し合う二人にとって、決して会わないことにどんな意味があったのか……。真相は二人にしかわかりませんが、二人は生涯において本当に一度も顔を合わさなかったそうです。

哀しみを芸術に変えて

チャイコフスキーはメック夫人の信頼に応えようと、数々の素晴らしい楽曲を後世に残しました。
バレエ音楽『くるみ割り人形』の可愛らしく優雅なワルツ、映画やテレビCMでもよく使われる『弦楽セレナード』『ピアノ協奏曲』など、誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。

恋愛面や結婚生活は決して幸せだったとはいえず、離婚後には自殺を図るほど精神的に追い詰められたこともあるチャイコフスキー。
強いだけではない、脆く弱い一面があったからこそ、自身の苦しみや哀しみと真摯に向き合い、それらを芸術として昇華させようとしたのでしょう。

ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)のポストカード

参考文献/『作曲家◎人と作品シリーズ チャイコフスキー』(伊藤恵子著、音楽之友社刊)


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むらかみかずこ | 喫茶手紙寺分室 note ライター
一般社団法人手紙文化振興協会 代表理事
歌とお酒とワンコ好き。京都在住。
むらかみかずこの手紙時間ブログ


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