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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁

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2023年6月の記事一覧

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第9話

【前回の話】
第8話 https://note.com/teepei/n/n8a703ed9546a

「…というわけだがね、どうだろう、君がこれから乗り込むべき船は、いや、戦艦と言っていい、もはや世界を制圧していると言っても過言ではない状況にあるのだ。さあ、同志よ。我らが靴下のもと、世界をこの手に」
 そう突き上げられた拳を眺め、靴下のもと、とはよほど低い位置だなと想像しつつ我に返っていたことを

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第8話

【前回の話】
第7話 https://note.com/teepei/n/n2aeff38d2a73
***

靴下は素晴らしい。

人生の哲学がそこに凝縮されている。
検品を任されて三カ月を過ぎる頃、私は靴下の魅力に完全な降伏を示していた。
 さらにこれを製造する工程に各職人がいることを、まるで世界の奇跡のように思いこうべを垂れていた。いいか。間違ってはいけない。こうべを垂れた気持ちで、ではない

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第7話

【前回の話】
第6話 https://note.com/teepei/n/n454734821cc5

「いらっしゃいませ」
 工場と聞いていたはずで、外観も伴い重く暗い内部を想像していたが、ここはどこなんだ。
 真っすぐ続く幅の広い廊下、というよりも通りと言った方がよいだろうか、所々にテーブルと椅子がある。両脇にはおそらく何かしらの店だろう、それが立ち並び、さらには二階、三階、四階と重なる。人の

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第6話

【前回の話】
第5話 https://note.com/teepei/n/n4779324f8789

遠近が狂うほど大きな施設とは言え、見えてはいるからそこに向って歩くとある程度の距離は目安がついた。まだ残っている家にひと気はなく、見かけたとしても先ほどと同じくらいの老人がぽつりぽつりといるだけだった。動ける人間のほとんどは、労働力としてあの施設にいるのだろう。曇り空なのかスモッグなのか、渦巻

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第5話

【前回の話】
第4話 https://note.com/teepei/n/n90aaaf608eae

「ありがとうございました」
 少女の支払いで降り、相変わらず呑気な声を残してタクシーが去ってゆく。幼い少女にそこそこのお金を持たせている設定は如何なものかと思いつつ、あっさり支払いを頼った自分は見ないことに決め込む。
 どんよりとした空は曇りのせいでもあるが、スモッグのせいでもあるんじゃないかと

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