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ついなちゃんのスクールライフ

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TechpanCreateによる1stついなちゃん二次創作【ついなちゃんTake me high!】内のエピソード【ついなちゃんのスクールライフ】を、再編集の上で改めて公開。
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2024年7月の記事一覧

【小説】序章【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】序章【ついなちゃんのスクールライフ】

20XX年、春。

神奈川県・厚柿市に隣接する神域。
小高い丘の上に建つ、荘厳な社がひとつ。
朱塗りの大鳥居、白木の材も眩しい本殿、そしてその向かい側に建つのは生活感溢れる社務所。社務所の玄関には丸太を荒く削いだ看板がぶら下がっており、墨痕鮮やかにこう記されている。

【御剣神宮】

その、ゆかしき社…御剣神宮に続く石段を、橙色の地に鶴の刺繍が入った着物を着た小柄な銀髪の娘が、下駄の音も軽やかに歩

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【小説】事の起こり【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】事の起こり【ついなちゃんのスクールライフ】

そもそもの事の起こりは、半月程時を遡る。

神奈川県・厚柿市郊外。
坂道を登った丁度てっぺんにある、白い壁も眩しい新築の一軒家。

そのリビングで、セーターにジーンズ姿の、背が高く少しだけ赤ら顔の目鼻立ちの整った紳士が、コーヒーを飲みながら寛いでいる。

彼の名は鶴賀荒人。相模原市にある鉄鋼会社の営業マンを生業とする、温厚篤実な男だ。

「あなた、コーヒーのお代わりは要る?」

ダイニングから長い

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【小説】新しい家族【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】新しい家族【ついなちゃんのスクールライフ】

それから数日後。
ついなは、祖父の宝庵に伴われ、大きな荷物を抱えて荒人と楓の家にやって来た。

「これからは荒人殿を父と崇め、楓殿を母と崇め、身を慎み、己を律して過ごすのだぞ。たまには文のひとつも送れ」
「おじーちゃん…」
「哀しそうな顔をするな。今生の別れではない。儂が関八州に用があって出向いた時は必ず時間を作って逢いに来る故に、心配するな」

ついなに向かって力強く、諭すようにそう言った宝庵は

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【小説】体験入学前夜【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】体験入学前夜【ついなちゃんのスクールライフ】

神奈川県・厚柿市。鶴賀家の一室。

「…はぁ」

ベッドの上で、パジャマ姿のついなが枕を抱いて、不安げに溜息をついた。

「どうしたの、ついなちゃん?眠れないの?」
そう言いながら、楓がマグカップをふたつ乗せたお盆を持ってついなの部屋に入ってきた。マグカップからはかすかに湯気が昇っている。

「ホットミルクよ。眠れない夜はこれに限るわ」

そう言って楓は、かわいらしい熊の意匠が施されたマグカップを

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【小説】硝子の転入生【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】硝子の転入生【ついなちゃんのスクールライフ】

和親のいざないを受けて教室の中に入って来た、華奢な少女の姿を見て、教室中が驚きに包まれた。

その少女の肌は透き通るように白く、大きく見開かれた瞳は琥珀色をしている。
何より驚かされたのは、真珠色に輝く彼女の見事な長髪だった。頭の両脇でツインテールに結び、ボリュームを抑えるかのようにリボンがきつく巻かれている。それでも尚、結んだ髪の先端が地面スレスレに届きそうな案配だ。恐らくリボンを解き、ツインテ

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【小説】奇妙な邂逅【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】奇妙な邂逅【ついなちゃんのスクールライフ】

その日の放課後。

ついなは弘子と共に、第二美術教室に続く長い廊下を歩いて居た。

「へぇ…弘子ちゃん、美術部のマネージャーやってるんや」
「はい。Excelの扱いに慣れて居るのを買われまして、部員の方々のスケジュール管理を任されてますの」
「スケジュール管理?」
「ええ、ウチの学校の美術部は少々特殊でして…学園祭や体育祭の時に、各クラスの掲示物等の作成で部員が手分けして指導に当たりますの。それで

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【小説】夕餉【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】夕餉【ついなちゃんのスクールライフ】

ついなが体験入学を開始してから幾日か過ぎた。

第一校庭にあるサッカーグラウンドで、2年B組の生徒が体育の授業に没頭している。

「そりゃーーー!!」
勇ましい掛け声と共に、体育服姿のついながサッカーボールを蹴り飛ばす。
ボールは凄まじい勢いで遥か遠くのゴール目掛けて飛んで行き、ゴールキーパーを任された男子生徒が手を出す間も与えずにネットに突き刺さった。

ぴぴーっ

ホイッスルの音が響き、体育教

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【小説】銀座へ行こう【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】銀座へ行こう【ついなちゃんのスクールライフ】

それから一週間が過ぎた。

土曜日の朝。
ついなが起床して身支度を整え、朝食を済ませて寛いでいると、不意に玄関のチャイムが鳴った。

ぴんぽーん

「はーい」

ついながとことこと玄関に出て、玄関の覗き窓から外を伺うと、そこには美奈が立っていた。さっぱりした白いYシャツにジーンズ、スニーカーと言う動き易そうな格好だ。

かちゃ

「美奈ちゃん!」
ついなが驚いてドアを開けると、美奈の後ろに私服姿の

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【小説】ついな、怒る【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】ついな、怒る【ついなちゃんのスクールライフ】

ついながスクールライフを始めて3週間が過ぎた、ある夕方。

若冲が部活動を終えるのを、校門の側で待っているよしのに、すっと近づいたふたつの影があった。

「?」

怪訝そうな顔つきをしてよしのが振り向く。と、そのふたつの人影はいきなり各々の懐に手をやり、中から大きめのハンカチと手錠を取り出した。
異常を察したよしのが逃げようとする間もなく、ふたつの人影はよしのの手を乱暴に掴んで後ろ手に手錠をかけ、

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【小説】修羅の如く【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】修羅の如く【ついなちゃんのスクールライフ】

一方その頃。

倉庫が軒を連ねる街外れの一角では、ついなが脳裏にイメージした通りの容姿をした不良グループが、なかなか姿を見せない若冲を待ちわびて焦れていた。

「ねぇヨッシー、この作戦、ひょっとして失敗だったんじゃないかな」
そう言いながらガムを膨らますのは、ピンクと黒の駮になった髪をシニヨンにした少女…四葉心愛。

「あのバカ白髪の事だから、自分の恋人を掻っ攫われたら、顔色を変えてすっ飛んで来る

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【小説】裁きの雷鎚【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】裁きの雷鎚【ついなちゃんのスクールライフ】

気がつくと、ついなは誰かの膝を枕に横たわっていた。

がばっ

ついなが、バネ仕掛けの玩具のように身を起こすと、そこには斎鬼が地面にキチンと正座していた。
「良かった。やっと気がついたかや」
斎鬼の顔に安堵の色が浮かぶ。
「…誰?」
「妾の名は斎鬼。【御剣神宮】が神使じゃ。さる筋からの依頼により、影からついな殿の事を見守っておった」
「何でウチの名を」
「依頼主より聞いておる。…然し、心配したぞ。

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【小説】明かされる秘密【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】明かされる秘密【ついなちゃんのスクールライフ】

「それにしても」

野菜スティックをあらかた食べてしまった斎鬼が、ふと話題を変える。
「ついな殿の棒術はまっこと見事であったの。半刻足らずで破落戸を全て叩き伏せるとは。意外であったぞ」
「それなんやけどね…ウチにも良ぅ判らんのよ」

ついなは斎鬼に、よしのが誘拐されて激昂した際、脳裏に聞こえた声の事を話した。

「何かね…『ウチに任しとき。悪いようにはせん』って言われて、その声に身を委ねたら、後は

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【小説】さよなら、だけどさよならじゃない【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】さよなら、だけどさよならじゃない【ついなちゃんのスクールライフ】

事件が終わって後、ついなの学生生活は、何事も無く過ぎて行った。

そして…いよいよ最後の登校日と言う日。

キーンコーンカーンコーン…。

始業を告げるチャイムが鳴ると同時に、2年B組担任の徳島和親が静かに教室に入って来た。

「おはよう、皆の衆」

和親が朝の挨拶をする。そして教室を見渡すと、俯きがちに視線を臥せているついなに声をかけた。

「ついなちゃん、前へ」

かたっ

ついなが席を立つ。

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【小説】空の上から【ついなちゃんのスクールライフ】

【小説】空の上から【ついなちゃんのスクールライフ】

神奈川県、厚柿市のとある一軒家。

「いってきまーす!」

ノースリーブのTシャツにジーンズ、上からYシャツを羽織って裾を鳩尾で結び、踵の低いパンプスを履いた、肌が白く真珠色の髪が見事な少女…如月ついなが、カバンを手に外へ出る。

「待って、ついなちゃん。忘れ物よ」

玄関から声をかけ手を振るのは、ついなの養母…楓。

「そそっかしいのは厚柿市に来たばかりの頃と少しも変わらないわね。はい、この書類

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