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【書評】 半導体は大事だけど、とんでもなく脆い


読後感

  • 昨今ニュースで「半導体が欠かせない」「半導体のサプライチェーンが寸断されてしまう」などの報道を目にすることが増えた。

  • それでも実際に「半導体って何?」と聞かれると、私には答えられない。さすがに教養が必要では…と思っていたところこちらの本を見つけたため、すぐに手に取った。

  • 読後感としては、なるほど半導体がいかに世界経済にとって重要か、そして半導体のサプライチェーンがいかにグローバルの生産体制に依存しているかを理解することができた。

  • 一方で半導体の仕組みや、前工程や後工程など実際に製品に組み込む半導体が完成するまでのプロセスの詳細を理解することはできなかった。当然ながらあくまで本書は「教養」を身につけることが主眼だ。従って半導体の重要性とサプライチェーンの脆弱性を学べただけでも、本書の役割は十分に果たしたと言っていいだろう。

Key Takeaways

半導体なくして製品なし

  • 半導体は日常生活に欠かせないものとなっている。それは様々なセンサーやカメラなど電子機器そのものが高度化する中で、部品として半導体が欠かせなくなっているためだ。

半導体はほかの何物にも代えられない…電子機器を構成する1000個の部品のうち、たった一つの半導体が不足してしまうだけで電子機器が製造できないという事態が発生します。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 99-100). Kindle Edition.

半導体は水平分業。川上にはやっぱりアメリカ

  • 半導体産業はもともと垂直統合型だったが、現在はグローバルな水平分業が進んでいる。基本的な部分だが、エッセンシャルな情報だ。

水平分業において設計専門の会社を「ファブレス企業」、前工程を担う製造専門の企業を「ファウンドリ企業」、後工程を担う会社を「OSAT(OutsourcedSemiconductorAssemblyandTest)」といいます。さらに、半導体メーカーのうち設計から製造、販売まで自社ですべてを行う(垂直統合)企業を垂直統合型デバイスメーカー/IDM(IntegratedDeviceManufacturer)と呼びます。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 419-422). Kindle Edition.
  • ここで重要なのが、半導体といえば中国や台湾だ、という認識の誤謬である。確かに半導体製造を席巻しているのが中台、そして韓国である。しかし半導体産業の川上、設計に強いのはなおもアメリカのようだ。

ファブレス企業では米国が強く、台湾や中国の企業があとを追う形になっています。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 1342-1343). Kindle Edition.

半導体はお菓子ボックスではない

  • 半導体は自分の都合に合わせてすぐに調達できる「お菓子ボックス」ではないことも学んだ。例えば自動車。新型コロナの感染拡大で自動車メーカーは需要が落ち込むと予想したが、予想以上に需要が旺盛に。慌てて半導体を発注しても、すぐには調達できなかった。そのため自動車の納品が遅れるという現象が発生したのだ。

自動車業界が今までどおりの生産を再開しようとしたときには、すでに半導体の生産ラインに空きはなく、半導体の供給が滞るという事態が発生したのです。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 142-143). Kindle Edition.

テスラは自分で半導体を設計

  • テスラは半導体を自ら設計することで、最新の自動車の開発に必要な半導体をより早く手に入れることができるようになった。記憶が正しければ、アップルも自社で半導体を設計することで競争力を保っている。利益率の高い川上工程を自社に組み込むことで、コストを抑えながら自社の利益率と競争力を上げる戦略だ。あらゆる電子機器メーカーが今後、半導体の設計に乗り出す時代が来るかもしれない。

EV最大手の米国テスラは半導体を自社で設計し、半導体の製造企業とのつながりを強め、一部の半導体設計を内製化することで市場での競争力を高めました。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 480-481). Kindle Edition.
  • テスラ関係でもう一つ。自動車にどれほどの半導体が使用されているかを把握するための目安となる数字が以下の引用。

例えばテスラが販売しているEVには1台あたりおよそ十数万円の半導体が使われているといわれています。テスラが販売するEVは世界中で1年間におよそ100万台生産されているため、このEVにおいて1年間に使われる半導体の総額は1000億円ほどです。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 1007-1009). Kindle Edition.

在庫を増やせばいいじゃない?

  • 半導体のサプライチェーンが脆弱なら、在庫を増やせばいいじゃない。マリー・アントワネットばりに豪語する人がいそうなものだが、どうやらそうもいかないらしい。各メーカーは自社特有の製品に合ったオンデマンドの半導体を使用するため、そもそもそれぞれの半導体は小ロットのようだ。

一般的な半導体の場合は最先端の製造装置で作るものとは異なり、多品種少量生産品です。そのため製造しているすべての種類において在庫を保管しようとすると管理の煩雑さが増すため、一般的な半導体もストックは難しいといえます。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 1256-1258). Kindle Edition.
  • とはいえ自動車は汎用的で、かつ最先端ではない(古い)半導体が使われるケースが多いようでもあり、その場合は在庫ストックは有用だ。

特に自動車や産業機器のような、汎用の半導体を多く使い、かつ全体の製造コストに対する半導体のコスト使用量が多くない業種については、万が一に備えていくらかの在庫を確保しておく意味はあると私は考えます。

高乗正行. ビジネス教養としての半導体 (Japanese Edition) (Kindle Locations 1271-1273). Kindle Edition.

See you next time…

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