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月経周期と精神・身体の変化

 閲覧ありがとうございます。データサイエンティストの杉尾です。主にデジタルバイオマーカーの開発プラットフォームである(SelfBase)の機能開発や、そこで収集されたデータの解析を担当しております。

 今回の記事は、ロッテ様とPMS(月経前症候群)に関する研究の取り込みを進めさせていただく上で、月経周期やPMS・PMDD(月経前不快気分障害)の研究事例を調査している過程で得た知識である「月経周期の仕組みとそれに関連する精神・身体の変化」に関して、簡単にはなりますが、まとめさせていただきました。

 また、過去の記事ですが、「ウェアラブルデバイス(Fitbit)から取得したバイタルデータを女性ならではの不調にどう役立てていけるか」というテーマで、弊社のメンバーにインタビューさせていただいた記事もございます。お時間許すタイミングでご一読ください。


1. 月経周期とは

月経(生理)とは

 月経(生理)は、子宮の内側を覆っている膜(子宮内膜)が剥がれ落ち、それに伴い出血が起きる現象、つまり「不要になった子宮内膜の排出」のことを指します。
 女性の身体は約1ヶ月周期の自律性・内因性の「Circalunar Rhythm (概月リズム)」を持っています[1][2]。それは「月経のリズム」とも言われています[2]。その周期の中で、卵巣から卵子を排出し(排卵)、それに合わせて子宮内膜を厚くし、受精に対する受け入れ態勢を整えます。一方で、その周期内に卵子が受精しなかった場合は、準備した子宮内膜が不要になるため、体外に排出されます。

 ちなみに、「生理」とは昭和22年に労働基準法で「生理休暇」という制度ができたときに使われ始めた言葉のようで、医学的には「月経」と称するのが正確なようです[3]。

月経は主に
・下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン黄体形成ホルモン
・卵巣から分泌されるエストロゲンプロゲステロン
らによって調節されています[3]。もちろん他にも関連するホルモンはありますが、簡単のために割愛します。

  • 卵胞刺激ホルモン(FSH)

    • 卵巣に作用し、卵胞の成熟を促す

  • 黄体形成ホルモン(LH)

    • 排卵と黄体形成を促す

  • エストロゲン(卵胞ホルモン)

    • 子宮内膜を厚くし、着床の準備を促す

  • プロゲステロン(黄体ホルモン)

    • 排卵後に子宮内膜の状態を整えることを促す

図1. 月経におけるホルモンの流れ, [4]を参考に筆者作成

 下垂体からの分泌ホルモンもあるように、子宮や卵巣だけではなく、全身が影響を受けて変化しています。

月経の周期とは

 上述した通り、月経は複数の女性ホルモンの影響で起こっています。その月経の周期は、分泌・活性化する女性ホルモンにより、3つに分けることができます。

卵胞期(卵子放出前)
 月経終了後から排卵までの期間は、エストロゲンの分泌が多い時期で「卵胞期」と呼ばれています。月経に伴う出血はこの時期に発生します。(月経と卵胞期を分けて考えることもできます。)
 月経終了後、卵巣刺激ホルモンによって、卵子細胞(≒卵胞)が成熟させることで、受精できる準備を整えていきます。そして、卵胞は成熟するにつれてエストロゲンが分泌され始めます。

排卵期(卵子放出期間)
 卵胞期に成熟した卵胞から分泌されたエストロゲンの濃度が上がると下垂体から黄体形成ホルモンが分泌され、排卵が発生します。その時期を「排卵期」と呼びます。排卵された成熟した卵胞は卵管を通り子宮に移動し、受精するための準備を整えます。

黄体期(卵子放出後)
 排卵後から月経までの期間は、プロゲステロンの分泌が多くなります。その時期を「黄体期」と呼びます。排卵されず卵巣に残った卵胞は、収縮・変形し黄体になります。黄体はプロゲステロンを分泌し、子宮内膜を厚くさせます。子宮内膜は受精卵を育てるゆりかごになるところで、ここに受精卵が着床すると黄体が維持されて受精卵が育っていきます。妊娠が起こらない場合には、黄体は線維化して白体になります。それに伴いプロゲステロンもエストロゲンも低下すると、子宮内膜がはがれて月経が発生します。

2. 周期変動に伴う身体の変化

 女性ホルモンは常に周期的に変化していて、卵巣や子宮に影響を与え、妊娠や出産の準備を整えています。このように、連続した変化の流れの中に月経という現象があるのです。
 女性の身体はこのように複雑なホルモンの変化によって、守られていたり、逆に体調が悪くなるなど、様々な変化が発生しています。子宮頸がん、乳がん、一部の卵巣がんなどこれら女性ホルモンの異常などが原因で発生しています。

 このように男性に比べて、複雑な身体構造を持っているのにも関わらず、女性の方が男性よりも寿命が長いのはなんででしょうね。逆に男性がフラジャイルすぎるのかな。

 さて、次にその変化を周期ごとに整理していきたいと思います。以下の図は、周期ごとの、各女性ホルモンの変化及び基礎体温などの変化を示した図になります。一般的に女性はこのサイクルを繰り返しています。

図2. 周期進行に伴う身体の内的変化, [4]を参考に筆者作成

卵胞期

  • エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度が低くなります。

  • その結果、厚くなった子宮内膜が崩れて剥がれ落ち、月経の出血が発生します。

  • 卵胞期初期では、卵胞刺激ホルモンの血中濃度がわずかに上昇し、それが刺激となって、卵巣でいくつかの卵胞が成長を開始します。

  • また卵胞期後期に、卵胞刺激ホルモンの血中濃度が低下するにつれて、卵胞のうち1つだけが発育を続けて成熟していきます。この卵胞からはエストロゲンが分泌されるようになります。つまり、エストロゲンが上昇し始めます。

  • 月経が始まると体温が下がり、約2週間ほど低温期が続きます。

排卵期

  • エストロゲンの血中濃度は低下し、プロゲステロンの血中濃度が上昇し始めます。

  • 黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの血中濃度が急激に上昇します。黄体形成ホルモンは黄体を作るために重要なため、その上昇は著しいものになっています。

  • 排卵すると体温は上昇し、次の月経までの約2週間ほど高温期が続きます。排卵後に分泌されるプロゲステロンによって体温を0.3~0.5℃程度上昇します[5]。

    • また、2週間たっても高温期が続き月経にならなければ、妊娠の可能性が示唆されます。

    • 逆に、体温が上がらず低温期が続いていたら、排卵が起きていない可能性があります。

  • 排卵の前後に下腹部の左右どちらかに鈍い痛みを感じることがあります(中間痛)。

黄体期

  • 黄体がプロゲステロンを分泌するようになります。

  • エストロゲンの血中濃度は高いまま維持されます。

  • プロゲステロンの働きによって心拍数の増加が見られます。

  • 黄体期に体温を少しだけ上昇(0.3~0.6℃)させ、月経が始まるまで維持します[6]。この体温の上昇を利用して、 排卵が起きたかどうかを推定することができます。

  • エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度が上昇すると、乳房内にある乳管が拡張します。その結果、乳房が膨らんだり、圧痛(触れると痛むこと)が生じることがあります。

  • 卵胞刺激ホルモンは、黄体期になるとまた低下し、黄体期後半になると、次の卵胞発育を促進するため増加します。

  • 黄体形成ホルモンの血中濃度は低下していきます。

  • 受精が起こらなかった場合は、黄体は退化してプロゲステロンを分泌しなくなり、エストロゲンの血中濃度も低下して、厚みを増していた子宮内膜が崩れて剥がれ落ち、月経の出血が起こります(次の月経周期の始まり)。

 上記のような現象が、正常なサイクルで発生するため、逆にそれらが観察できないと、周期が乱れている、不調の表れとも考えることができます。

 また、月経に伴う女性ホルモンの変動は、時には様々な不調を引き起こします。その不調が重度の場合は、以下のPMSやPMDDといった症候群としてカウントされるようになります。

3. PMSとは

 PMSは、月経前症候群(premenstrual syndrome)の略語です。月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものを指します[7]。
 発生原因は、女性ホルモンの変動が関わっていると考えられています。排卵のリズムがある女性の場合、黄体期に黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモン、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が大きく変動します。特に、黄体期に卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが急激に低下し、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことが、PMSの原因と考えられています[7]。しかし、それだけが原因だと特定されたわけではなく、複雑な要因によって発生するものだとされています。

 症状は、

  • 精神神経症状として情緒不安定

  • イライラ

  • 抑うつ

  • 不安

  • 眠気・睡眠障害

  • 集中力の低下

  • 自律神経症状としてのぼせ

  • 食欲不振・過食

  • めまい

  • 倦怠感

  • 身体的症状として腹痛

  • 頭痛

  • 腰痛

  • むくみ・お腹の張り・乳房の張り

と、多岐にわたる症状が挙げられます[7]。
 子宮がん検診を受診した20〜49歳の日本人女性1187人を対象に、PSQを用いて月経前症状の評価を行った研究があります[8]。その結果に基づくと、対象の女性の95%が月経前症状に苦しんでいることが判明しました。また、日本人女性における中等度から重度のPMSおよびPMDD(後述)の有病率は、それぞれ5.3%および1.2%でした。PMSや後述するPMDDに関しては、別の記事で詳しく言及したいと思います。

4. PMDDとは

 PMDDとは、月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder)の略語です。PMSにおける精神神経関連における症状が強く出ている場合、「重度のPMS」からなる精神疾患の可能性が考えられます[7]
 この名称がついたのは1994年と比較的新しく、2013年に「抑うつ症状群」の一つと捉えられるようになっています。なおPMDDは月経がある女性の1.8~5.8%が該当するとされ、これは「重症のPMS」とみなされていた人たちの割合とほぼ一致しています[7]。
 PMDDかどうかの診断には、「DSM-5」と呼ばれるアンケートを利用します[9][10]。DSMは「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の略語です。DSM自体は、米国精神医学会が定めた、精神疾患の治療をしたり、精神医学の研究をおこなっている人へ、精神疾患の基本的な定義を記したものになります。その第5版である「DSM-5」を利用して、PSDDかどうかを診断することができます。つまり、月経というメカニズムに起因した精神疾患であり、女性特有の精神疾患症状ということになります。

5. 最後に

 この記事では、月経に関して、基礎的な知識を整理しました。私自身は男性で、月経を体験したことがない身です。これまで身の回りの女性からその辛さなどを聞くことはあっても、体験としてジブンゴト化はできないでいたと思います。ただ、発生の仕組みをこのように理解すると、考え方が変わりました。その周期の中でどのような変化が発生しているのかを理解すると、「そんなものすごい変化が発生してるって、それは辛い時はあるに決まってるやん」と具体を理解できたことと、それを超えた神秘性を感じることができました。リスペクトですね。

(ちなみに、諸説あるかもですが、男性は精子を作るためのホルモンの周期性を持っているだけで、このようなロングタームな周期性は持っていないはずです。女性はごいすーです。)

 それはさておき、この月経に関する調査をした目的は、月経と心拍変動の変化に関して調べるためです。これらの内容をもとに、心拍変動に関係する論文を既に読み漁っておりますので、エビデンスに基づいた内容をまとめていきたいと思います。

 他にもこんな記事を書いています。

 弊社では、デジタルバイオマーカーを作成するために、多くのウェアラブルデバイス・医療機器を扱い、データの取得・分析を実施しています。その上で、欠かせないのは、機器同士のデータの比較や既存の医療機器とのバリデーションです。それぞれの機器にはシステム上の仕様や扱われる環境(使われ方)による誤差の発生の仕方の癖があります。それらを比較検証し、自社サービス及びデジタルバイオマーカー作成のための分析に活かしております。上記の内容は、一部に過ぎないので、より詳細をお聞きになりたい場合は、弊社までお問い合わせ下さい。

参考文献

[1] https://www.sccj-ifscc.com/library/glossary_detail/513, access day: 2023-09-14
[2]
 珠希松本, 尚久後山, 哲也木村, 達也林., and 敏夫森谷. 2008. “生体のゆらぎ現象から心身相関を探る : 心拍変動から評価した自律神経活動動態と月経前症候群・月経前不快気分障害との関連(第6回池見賞受賞論文).” 心身医学 48 (12): 1011–24.
[3] https://rblc.jp/blog/post-245/, access day: 2023-09-14
[4]
 https://www.fujipharma.jp/patients/dysmenorrhea/menstrual_cycle/, access day: 2023-09-14
[5]
 https://w-health.jp/fetation/temperature/, access day: 2023-09-14
[6]
 https://www.healthcare.omron.co.jp/bijin/shittemiyo/body02.html, access day: 2023-09-14
[7]
 https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13, access day: 2023-09-14
[8]
 Takeda, T., K. Tasaka, M. Sakata, and Y. Murata. 2006. “Prevalence of Premenstrual Syndrome and Premenstrual Dysphoric Disorder in Japanese Women.” Archives of Women’s Mental Health 9 (4): 209–12.
[9] https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/premenstrual_dysphoric_disorder/, access day: 2023-09-14
[10]
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル; 日本精神神経学会日本語版用語監修, 医学書院: 171-174, 2014


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