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リモートマネジメントの悩みの構造②”1on1で信頼関係を築けない”

前回の記事で、情報共有の悩みを取り上げました。チームや組織全体のコミュニケーションも一瞬一瞬を見れば基本は1対1の関係です。人の意見をどう受け止めてどうフィードバックするかの連鎖で成り立っています。

数年前から日本でも注目され一般的になってきた1on1ミーティング。上司と部下が一対一で話し合い、部下の成長を促進する定例の場として実施されていると思いますが、なかには形骸化していたり、どうやればいいのか分からないという声も耳にします。

1on1をやっている人たちから聞いた困りごとと考え方のコツ

そこで、先日開催したセミナーでは1on1にまつわる困りごとを集めました。自ら上司側として1on1を実施している人、自分なりに工夫している人からの情報です。

困りごと
🌼1o1が導入されたのでやることになっている。導入研修はあったが実施状況は人それぞれ。
🌼「問題は起きていないので1on1は必要ない」と言ってやらない人がいる。
🌼「あの件はどうなった?」といつものミーティングと変わらない内容になっている。
🌼ここぞとばかりに部下からのお願いが増えて上司が困っている。
🌼部下が話した内容を覚えていられない。
🌼どこまで雑談的な要素を入れるべきか悩む。
🌼経営層が1on1をやっていない。
考え方のコツ
🌼ハウ(どうやるか)ではなくビーイング(どのような心持ちでやるか)が大事。
🌼上司が「部下のための時間」と考えることでうまくいった。部下が「自分のための時間」と思えることが1on1成功のカギ。
🌼上司は意見を言わないで「どうだった?」と質問する。あるいは質問ことも我慢する。部下が喋りたいことに耳を傾ければ、良い情報はおのずと出てくる。
🌼部下の質問に答え過ぎると上司の的を当てに来てしまう。
🌼サイボウズの「ザツダン」はやりたい人だけがやる、部下の成長促進が義務ではない、内容は本当に雑談でいい、業務時間中にやる。(参考記事「雑談は仕事です」)

前回記事の構造図でいえば、今回は関係性や企業文化のレイヤーの話といえます。企業の文化を扱うというと、大きくて曖昧で難しい感じがしますが、1on1は意図をもって関係性や企業文化をつくる、小さくて具体的な捉えやすい機会だと思います。1on1ミーティングなどを通じて関係性・企業文化が築ければ、その上のレイヤーでは複数のメンバーで多様な情報やアイデアを交えて解決していけるのではないでしょうか。

図2

1on1の困りごとや考え方のコツを聞いているうちに、関係性にもレベル感があると感じたので次の図のように整理しました。1on1をやる前の関係やどういう関係を目指したいかという目的が影響しています。もとにした意見は少ないですが、このように状況を分けることで「今はこの状態」「このレベルを目指したい」といった対応がしやすくなるのではないかと思います。

1on1に関する関係性のレベル

図3

関係性レベル別に考え方のコツや対応ノウハウを整理しました。

レベル0:無関心・対立関係 
1on1にどういう意味があるかをできる限り伝えてみるのはよいでしょう。セミナー参加者から聞いた考え方で、これはいいと私が思ったのは、1on1を「クローズドな空間で普段と違うことを上司に伝えられる貴重な時間」と捉えること。

それでも関心を示さない人や抵抗する人に無理強いしても効果は出にくいです。意味があると思う人で進めていくことで、残りの人もその環境に巻き込まれる時機が来るかもしれません。

レベル1:関係づくり開始
相手の話した内容を覚えていなければいけない、と気負いがちですが、近い将来いつでも相談しやすい関係になれることを目標に置き、今は定期的な場で関係性づくりをしていると考えれば少し気が楽になるかもしれません。

面談のカルテをつけるのも一つの手ですが、1on1を双方にとっての意味ある場と捉えるなら共同作業で記録をとってもいいかと思います(ただし、記録に残したくないことは残さないように気をつける)。

どのくらい雑談を入れるか悩ましい時は、相手の希望を勘繰るよりもお互いの希望を出してみるとよいのでは。

レベル2:管理・依存関係
上司が部下を管理監督する思考パターンのまま1on1を実施しているケースです。上司が自分にとって意味のある仕事の話にフォーカスしています。部下のための時間と捉えられるか、部下も自分のことを話していいのだと思えるかが転換ポイントです。

逆に部下から仕事のお願いが殺到して困っている上司もいます。この時間しか相談できないと思われていたり、部下が上司に答えや解決に向けた行動を期待して依存しているためです。

前者の対処法としては、他の機会でも相談できる環境や関係を築くこと。後者は、部下に問うことで自分で考えるように促したり、他の人を相談相手として紹介するなどして組織全体の問題にしていくことが対処法として挙げられます。上司にも逃げ道があれば1on1が怖くなくなるかもしれません。

レベル3:自立・対等関係
お互いに1on1の場をつくる当事者というフラットな関係です。

出てきたテーマへの対応は、直属の上司以外の人が適していれば交代してもよいでしょう。一対一で話すよりもチーム全体で考えたほうがよい内容ならチームミーティングの場に持ち込んで複数メンバーの多様な視点や強みで解決していきましょう。

1on1をやることで毎回小さな発見があったり、行動の後押しになっていると実感できれば1on1の慣習は続いていくのだと思います。

編集後記

1on1導入の背景にも、問題解決に直結する施策として導入したのか、相手を尊重してコミュニケーションをとる文化として導入したのか、幅があるかもしれないと私は思った。

問題解決のための施策と考えられている場合は、結果との因果が見えないものは無駄と思われやすい。「それをやるとどういう結果につながるのかエビデンスを提出せよ」という具合に。

文化なのだとしたら、「職場のいたるところで、人を大事にしたやりとりができるといいよね」「色々話しておくと結果的に仕事もスムーズにいくし」くらいに考えて、1on1で気持ちのいいやりとりを実践すること自体が既に文化としての結果を出していると言える。

その先の経済的な成果との因果関係は証明するのが難しいし、長期的に問題解決やイノベーションに寄与するかもしれない基盤を築いておく行為なので、短期的には確かに必要性は薄い。それでも組織が抱える問題が顕在化しやすくなった、解決に向かった協力行動が起こりやすくなった、などの効果はそれほど長くない数か月ほどの期間でも確実に表れるのではないかと思う。

リモートマネジメントの悩みの構造③“理想を共有できない”に続く)

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