見出し画像

ラストラン 

6月末、京都府南丹市美山で、全日本ジュニアロードレースが行われました。

降りしきる雨の中、男子ジュニアクラス(2006年2007年生まれ)には、全国の高校生約100名が出場しました。

参加したのは高3YAMATO。
インターハイ出場が叶わなかったため、高校の主要な大会は今回が最後となります。

レースはスタート

序盤から一気にペースが上がり、さらに雨ということで、集団はいくつも分裂し、力ある選手が次々に脱落していきます。

YAMATOも後ろの集団に取り残され、あわや中切れで終了か、という場面もありました。それでもチームメイトと協力しながらなんとか先頭集団に復帰します。

レース終盤、脚が攣り、誤魔化しながら走行を続けます。

しかし最終ラップ、完全に脚が悲鳴を上げ、

それでも、なんとか脚を動かし、

最後は、一人になりながら、力の限りペダルを踏み続けました。

27位 完走


YAMATOにとって、最後の大会は悔しい結果となりました。3年間成績上位には食い込めませんでしたが、悔しい経験をしたランキングは、全国トップではないかと思います。

レースは、年を追うごとにハイペースになっています。
過去3年の男子ジュニアのトップ選手のタイム(同一コース距離80km)を確認すると
2022年 2時間4分
2023年 2時間2分
2024年 2時間0分

ジュニア選手の実力はかなり上がっているように感じます。しかも2024年は雨の大会でした。


レースを観戦して、良かったところもたくさん見えました。

まずは落車しなかったこと
落車して怪我をしたり、他の選手を巻き込んだら大変なことです。雨の中、下りのスピードは80km近く出ています。一歩間違えれば命の危険もあります。無事、帰って来れただけで良かったです。

整備の行き届いたロードバイク
雨の日は特にトラブルが出やすいものです。パンクすることもなく最後まで力を伝えてくれました。整備してくれた自転車屋さんにも感謝です。

全国のトップ選手の力を感じれたこと
あまりにも実力差があると差を感じることさえできません。これから世界に羽ばたくであろう選手と一緒に走れ、何が違うのか感じれたことは大きな収穫です。

集団内の位置どり
どこに位置すれば少ない力で集団についていけるか、どこにいれば必要以上に脚を使わなければならないか、どこにいれば千切れるか、2時間の間にじっくり感じることができたと思います。

最後まで踏み続けたこと
ラスト脚が攣って千切れた地点でもう勝負には絡めません。単独の状態です。最後は軽く流してゴールすることもできました。そこを踏み続けてゴールしたことによって、3年間の思い、これからの未来を感じることができました。最後まで見守ってくれた人、一緒に走ってくれた選手、高校3年間一緒に汗を流し練習してくれた仲間、監督コーチ、そして自分自身の身体、一切トラブルを起こさなかった自転車への恩返しだと思います。


思ったような成績が出ないと、どうしてもダメなことばかり探そうとします。天気がダメ、機材がダメ、練習環境がダメ、サポートがダメ、そうやってダメなところばかり探していると、実は自分自身がダメになってしまいます。

視点を変えれば今回のレースがいかに良かったか、いくらでも見えてきます。今までのやり方ではうまくいかないことがわかれば、これからのトレーニングにつながります。それも一つの収穫です。
もし機材トラブルがあったとすればどのようにすれば機材トラブルを抑えることができるかに目を向けることができ、もしかしたら日本一のメカニックになれるかもしれません。

自転車で思ような結果が出ないとしても、違う世界に飛び込むチャンスを手に入れることになります。ラッキーです。決して自分自身がダメな人間ではありません。一つの試合で得られることは、視点によってたくさんあります。選手として、また見守る立場としても、ダメなところを探すのではなく、可能性を見つけられる人間になりたいものです。今回も収穫の多い大会でした。これからどのような方向に進んでいくか、本人が決めることです。


ここから先は、完全にプライベートなことなので書こうかどうか悩みました。でももしかしたら誰か一人でも参考になるかもしれませんので、追加しておきます。

レース終了後、YAMATOが、意外なことを口にしました。
なんだかとても言いにくそうに、そして少し目を潤ませながら、それでも意を結したように
「一日家で休ませて欲しい」
と言いました。

私には言葉の意味がわかりませんでした。
「えっ、なんで?明日学校じゃろー?」
そんなふうに返しました。

しかしこの何気ない一言に、いち早く危険を察したのは、一緒にレース観戦をした娘でした。
「YAMATOを家に連れて帰って」

娘に言われて、ハッと気づきました。

普段は離れて暮らしているせいか弱音や愚痴をいっさい聞いたことはありません。ゆっくり話ができるのは正月休みだけです。しかし、2年半の間、身も心もかなり極限の状態だったのではないかと思います。特にこの数ヶ月は強烈だったと思います。「一日家で休ませて欲しい」その言葉の裏に、さまざまな葛藤と闘ってきた様子が目に浮かびました。見逃してはいけないSOSだと感じました。

私は子どもの気持ちをわかっているつもりになっていましたが、YAMATOの気持ちを今まで何も感じ取れていなかったと思いました。実は以前、私が娘の気持ちを感じ取ることができず、4年もの長い間、もがけばもがくほど沈み込んでいく蟻地獄なようなところへ突き落としてしまいました。その時の経験から、娘はすぐにYAMATOの気持ちを理解して手を差し伸べました。

身体の限界もそうですが、心も限界を超えると、取り返しのつかないことになります。自分の心と身体、壊れても誰も責任を取ってくれません。熱もない、怪我もしてない、それなのに休んだら「サボり」とか「怠けている」と考えてしまいます。真面目な人ほど口にしません。でも何も言わず我慢していると、イヤでも身体が不調を訴えてきます。

それは身体の内側に向かっていく場合もありますし、同じ心の闇を持つ仲間を求めて家を出ていく場合もあります。全く正反対のようですが根本は同じだと思います。内側に向かう例としてうつ病や燃え尽き症候群もその一つだと思います。そうなったら何もやる気がせず、修復するのに相当な時間と環境の変化が必要になります。限界を超える前に、言いたいことを言って、やりたいことをやって、自分自身を守らなければなりません。今回はそれができました。手遅れでないことを願いたいです。

人によっては、「当たり前のこと」とか「甘えているだけ」「わがままなだけ」と感じるかもしれません。でもそれが言えなく、どんどん深みにハマっていく子どもがいるのが現実です。真面目で文句ひとつ言わない子どもは、親や統率する側にとって楽で都合のいい子どもに感じるかもしれません。でも大きな危険や闇をはらんでいる可能性があります。そのことをYAMATOと娘に気付かされました。

実際YAMATOは、いくつも苦しみや不安を胸の内に抱えていました。ただ私にできることは、代わりに解決することではなく、考え方をアドバイスするだけです。よく子どもの悩みを親が全て抱え込んでしまって、本当に苦しんでいる人がいます。でもそれは違うと思います。子どもの問題を横取りしてはいけません。自分で解決してこそ成長です。

たとえ親が子どもにアドバイスできなくても問題ありません。解決してくれそうな人を紹介するとか、本を一冊紹介するだけで十分です。そこで根本的な問題解決になっていなくても、何か今の自分にとって必要なことを感じ取るはずです。その代わり、本人にとってこういうときは何が適切か、アンテナを張り巡らせておく必要があります。

今回、YAMATOに紹介したのは一本の動画です。

感想は、「わかるところもあるし、わからないところもある」でした。

私は、「わかったところはYAMATOが経験したことで、わからないところはまだ経験してないだけ。これから経験すればわかるようになる。」と伝えました。

そして娘も、自分の経験を伝えていました。

チームしまなみとして、私の意見だけではなく、全員の経験や意見を含めて、全体が回り出したことが何よりも嬉しいことです。娘の経験も今考えれば大きな財産になっていると思います。

ちなみにYAMATOは3日間休養を取って、リフレッシュして学校に戻っていきました。今後の目標は、「チームメイトを全力でサポートして、インターハイ全国優勝を目指す」ということです。インターハイは勝つ選手、負ける選手、そして支える選手がいます。一人一人の背景にはそれぞれ大きなドラマがあります。改めてそんなことに気付かされました。


最後に、地元しまなみ海道にある一本の木をご紹介します。

西日本豪雨災害によって倒れた神社の御神木
倒れた御神木の見る角度、視点を変えれば、不死鳥が翼を広げ、大空に向かって羽ばたいているように見えます


「もうダメだ」と判断するか、希望を見出すか、それは自分次第です。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?