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#2 マーケティングアナトミー™を構成する6要素 | マーケティングアナトミー™

マーケティングアナトミー™は、組織での運用を前提としたBOX流「経営とマーケティングの統合解剖学」です。幅広い層の方にお読みいただけるよう、実務よりも敢えてかなり細かく書かれています。予めご了承ください。
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こんにちは。BOXの阿部です。

前回の記事では「なぜマーケティングアナトミー™の構想に至ったか」という課題感を共有しました。経営とマーケティングの間にある溝を埋めていくマーケティングアナトミー™、今回はそれを構成する主な6つの要素を説明していきます。

ちなみにマーケティングアナトミー™という名前は、徒手治療家のために筋膜体系を編纂した世界的なベストセラー『アナトミートレイン』に着想を得ています。ちょうど治療家たちがアスリートの不調や好調を解剖図を念頭にトリートメントするように、経営レイヤーからマーケティングの現場レイヤーまでを体系的に理解するための「解剖図」だと思っていただけるとよいかなと思います。

前回も書いたとおり、このnoteマガジンでは、連載としてマーケティングアナトミー™の解説を行いつつ、少しずつ読者のみなさんのフィードバックやコメントをいただきながら、アップデートしていきたいと思っています。日本で5人くらい、世界で10人くらい、刺さっていただければ嬉しいです。

マーケティングアナトミー™を構成する、6つの要素

さて、さっそくマーケティングアナトミー™を構成する6つの要素をみてみましょう。

マーケティングアナトミー™は、企業のビジョン(フィロソフィ)を中心に据えて、下図に示す6つの要素からなります。図の左側が左脳的要素の事業計画とマーケティング計画、右側が右脳的要素のバリュープロポジションとWhat to Say、中心上部に全社戦略、中心下部にIMC(統合マーケティングコミュニケーション)を据えました。もちろん全ての要素で両脳を用いますし、軸の設定には賛否両論あると思いますが、なるべく「あれもこれも」とならないよう、誤解を恐れずに思い切ってこの配置にしています。

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マーケティングアナトミー™ 6つの要素

6つの要素におけるKey Questions (KQ)

上図だけですと「ふ〜ん」とすらならないと思います。大切なのは課題の把握と実際のアクションだからです。

解剖図を眺めながら実際のアクションにつないでいくためには、6つの要素それぞれにおいてカギとなる問い(Key Questions : KQ)に答えていくことが重要です。そのKQを紐解いていくことで戦略と戦術をあぶり出すことも可能ですし、すでに走っているビジネスではチェックリストとして参照することも可能です。

まさに身体に不調が生じた際に『アナトミートレイン』を参照しながら治療家が治療するように、事業やブランドが上手くいっているときでも、上手くいっていないときでも、どこに穴があるのか、どこが良いポイントなのか、経営側と現場側が共通の概念のもと相互理解を行えるように思案しています。もちろん、どんなに熟練した治療家でも全ての不調を一発で治すことが困難なのと同様、マーケティングアナトミー™はあくまで相互理解を補助するツールであることにも今一度留意してください。

マーケティングアナトミー™の6要素における代表的なKQは、下図の通りです。細かくてすみません!スマートフォンの方はピンチインで拡大しながら見てみてください。

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6つの要素それぞれにおけるKey Questions (KQ)の例

それぞれの要素についてはこの連載でじっくり説明していくつもりですが、ざっと説明しておきます。

◯ビジョン(フィロソフィ)

企業は何のために存在しているのか?どんな世界を目指すのか?という問いは企業のアイデンティティそのものです。哲学や倫理観に近いものであり、全ての行動規範はここに帰結するでしょう。

●全社戦略

全社戦略では、事業やブランドを横断した俯瞰的視点のKQになります。会社がビジネスとして達成すべきミッションや、それをどの事業ポートフォリオで達成するのか、そのためのヒト、モノ、カネの資源配分はどうするべきか、といったKQを紐解いてゆきます。

●事業計画

事業計画は、全社戦略を構成する各事業(または各ブランド)で、どのくらいの売上や利益を上げるのかや、競合環境や顧客戦略、事業やブランドごとの資源配分がKQとなり、それに答える形で設計していきます。リアルなビジネスの戦場からすると当然「画に描いた餅」的な側面は否めませんが、未開の地への旅行計画と同じように、ここである程度ブレイクダウンしておくと、コスト構造や撤退ラインが明確になるというメリットもあります。

●バリュープロポジション

事業計画と同じレイヤーの右脳側で設計すべきは、「提供価値」と訳されるバリュープロポジションです。ここで重要なのは、この提供価値はしばしば「独自性」を帯びている必要がある、という点です(必要ない場合もまれにあります)。とくに比較検討が入念に行われる耐久財や、化粧品などの高価な消費財では、この独自性はあなたのブランドが選択されるための重要なファクターです。

計算だけでは算出できない分、バリュープロポジションの導出は大変難しいものです。定性的な議論を積み重ねてあぶり出す場合もありますし、しばしば定量調査も参照します。また、必ずしも「私はこうです」と宣言したとおりにはならず、実際の顧客が集団としてバリュープロポジションを定義していくプロセスも少なくありません。ブランドを定義するから売れるのではなく、売れることがブランドを作る事実は、よく見過ごされています

バリュープロポジションはマーケティング計画にある①プロダクトと行き来して相互チェックしたり、中心にあるミッションやフィロソフィに何度も立ち返って丁寧に言語化していく場合も多いです。

●マーケティング計画

ここでついにマーケティングという名前が登場します。マーケティングアナトミー™での「マーケティング」の定義は前回の記事を参照してください。BOXでは、マーケティング計画を3つの要素:①プロダクト②フィジカル③メンタル でチェックすることを推奨しています。

①プロダクトは、どんな価格や性能、デザイン、UX/UIならば目指す売上や顧客数、顧客単価を獲得できそうかがKQとなります。事業を走らせながら、何度もこのKQを反芻(はんすう)します。プロダクトはモノに限らず、サービスやソフトウェア等でもOKです。

②フィジカルは、見落とされがちな「チャネル」についてです。特にB2Cビジネスでは「どこで売るのか」というファクターは非常に重要で、売り場によって顧客も受容価格も変わります。とくに消費財では売り場の数は売上の大きな因子になります。広告代理店や広告クリエイターがしばしば軽視するのが、「どの売り場をどれくらい獲得するのか」というこの②フィジカルの設計です。フィジカルといいつつ、チャネルという意味ではモールへの出店など、デジタル上の配架も非常に重要です。また、B2B2Xビジネスでは、代理店や販社がチャネルに該当します。

最後に、③メンタルです。これは目標とする顧客数を獲得するため、マーケットの中でブランドの認知率や好意度、リピート意向、推奨意向など、「どんな知覚をどれくらい獲得することが必要か」がKQとなります。広告代理店や広告クリエイターはこの③メンタルの攻略にかなり重点を置いていますが、商材によっては知覚の攻略が全く不要で、むしろ②フィジカルと①プロダクトの価格が全て、という商材も存在します。

上記のように、マーケティングアナトミー™でのマーケティング計画はかなり左脳的要素として規定されています。

●What to Say

右脳側でバリュープロポジションの次に来る問いが、バリュープロポジションをベースに「何を伝えるべきか」というWhat to Sayです。広告クリエイティブに限らず、WEBサイトのコンテンツやパンフレット、パッケージデザイン、PRでメディアを通じて伝えていくストーリーなども、このWhat to SayのKQになります。

独自の提供価値をバリュープロポジションですでに言語化してあるので、そのうち潜在顧客のインサイトと重なる価値=独自かつ潜在顧客に刺さる価値を、マーケティング計画で定める3要素と常に行き来したり、材料があれば定性調査や定量調査も参考にしながら定めます。すでに走っているビジネスの場合、顧客との対話も非常に重要な手がかりになってきます。

広告宣伝中心の文化が色濃い現場では、この「何を伝えるべきか」がいまいち明確でないまま、「どう伝えるか」の表現アイディア合戦に陥りがちです。しかし、手前で重要なのは「何を伝えるか」です。その後にクリエイティブジャンプでその伝達強度をさらに強める、というプロセスをBOXは推奨します。

●IMC(統合マーケティングコミュニケーション)

最後の問いは、「どこでどのくらい伝えるか」というコミュニケーションタッチポイントとコミュニケーション総量の設計作業、IMC(統合マーケティングコミュニケーション)プランニングです。

外資系企業などではPESO(ペソ:Paid Media/Earned Media/Shared Media/Owned Mediaの略)モデルを目にしますが、前回述べたように、資金的に体力のない企業やブランドが世の大半を占めることを考慮して、ぼくはその逆のOSEP(オーセップ)を勝手に提唱しています。

要するに、まずはお金のかからない自社媒体(Owned Media)から設計を始め、それを使い倒してなお足りないリーチを顧客の口コミなどShared Mediaで補完し(顧客の推奨率は重要なパラメータです。これは後ほど説明します)、それでもなお足りないリーチをPRを通じたパブリシティ(Earned Media)で補完し、最後にどうしても足りない部分を有料媒体(Paid Media)で補完する、という設計順です。

OSEPの順でプランニングしていくと、広告の前にやるべきことがより明確に見えてきます。例えば配架率が高い消費財は、店頭でのコミュニケーションリーチが最も多く取れていることがあります。そのときはパッケージやPOPでの訴求にリソースを投下することを最優先に検討しうるでしょう。また、価格やサービス内容で高い競争力がある輸送サービスの場合、チケット検索サービスでの検索結果で最も多くの良質な潜在リーチが眠っていることがあります。このときはなるべく多くのチケット検索サービスに表示されるよう、検索サービスとシステムを連携するAPI開発にリソースを投下することを検討しうるでしょう。

もちろん、設計どおりに生活者が知覚(記憶や印象)を備えてくれるとは限りませんが、マーケティング計画で求めた③メンタルのKPIを達成するために必要なコミュニケーション総量は、ある程度の精度で設計が可能です。これについては後ほど詳しく書く予定です。設計の際は、リーチがもたらす知覚は時間が経つにつれて一定の割合で忘却されることや、1リーチあたりの効果が徐々に悪化していくこと、同じ1インプレッションでも媒体によって効果が異なることなどに留意が必要です。

事業計画の売上KPIを因数分解したマーケティング計画の②フィジカル③メンタルのKPIをさらに因数分解したものが、このIMCで設計する実際のコミュニケーションKPIになります。逆に言えばIMCの各KPIはかならず事業計画の売上KPIに帰結するようになっています。この連携がこれまでのマーケティング論ではほとんど体系化されてこなかった部分であり、マーケティングアナトミー™の肝となる部分です。これについても、この連載で順次詳説します。

ちょっと長くなってしまい申し訳ありません。以上、それぞれの詳細に入り込みすぎないように6要素の概略のみをお伝えしたつもりです。なんとなく、マーケティングアナトミー™の体系をイメージしていただけたらありがたいです。

マーケティングアナトミー™の大前提:「組織で動く」こと

しかし我ながら、「こんな面倒くさいこと、やってらんねぇわ!こっちはこんな小難しいことしなくても儲かってるわ!」という怒りの声が聞こえてきそうです。その通りです。そこで、この記事を締める前に、前回の「経営」「マーケティング」の語意に続いて、あとひとつだけマーケティングアナトミー™の前提を述べておきます。

実はマーケティングアナトミー™は「組織で動く」ことを前提にしています。家族経営の八百屋さんやオーナー経営者が指揮を取るいわゆるワンマン経営では、こんな面倒なことは必要ないかもしれません(当てはめることは可能です)。経営勘や商売勘がある人は、これを全て自分でやってしまえばいいだけで、はっきり言ってぼくの存在もBOXも、余計なおせっかいです。無用です。ぼく自身、自分の事業ではこれらを全部「勘」でやっています。自分で100%の責任を取れるからです。

しかし、多くの部署や人間が関わる企業の場合は、オーナーや社長の「野生の勘」だけでは組織が動きません。組織的に動けないということは、そのビジネスに再現性や持続性がないということとほぼ同義だと言えます。経営者やキーマンがいなくなったとたん、動けなくなるからです。

「組織で動く」ということは、全く違う人間が同じ目的や目標を持って協業するということです。ときには、社内だけではなく、コンサルティング会社や広告代理店、制作会社、媒体社、販売店など、社外のパートナーとも協業する必要があります。その際に、経営からマーケティングの現場までの意識が一貫していること、同じ目的や目標に帰結すること、自分の役割をより大きな全体像の中で理解していることは非常に重要ではないでしょうか。マーケティングアナトミー™は、そういった場面でこそ有効なはずです。

前回述べた課題感や上記の前提に「ウンウン」とならない方は、この先読みすすめるのは時間がもったいないかもしれません(笑)。それだけ、マーケティングアナトミー™はある程度の誤解を恐れずにポジションを明確にして執筆することにしています。こうしてわざわざ書き残す責任を取る意味でも。

以上、今回は導入としてマーケティングアナトミー™の6要素について概略を説明しましたが、次回以降、6要素それぞれについて解説を進めていきたいと思います。どこから説明するかは、お楽しみに。

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1/24追記:第3回目公開しました!


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