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就活失敗して頭に来たので独立したが就活の方が楽すぎて草ww㉕

「な!サッカーいいよな!
 そう思わん?鳥部?」


そう聞いてきた彼とは、
今は全く会ってもいないし、
絡んでもいない。
どこにいるかも分からない。


時は、1996年。


まだ学年にして、
小学校2年生である。


「バシュッ!ピピィぃぃぃぃ!!」


横たわるゴールキーパーの後ろには、
ゴールになったボールがコロコロと
転がっている。


汗を滴らせて駆け上がった坂道の先の校庭には、
ざっと30名程度の子どもと一部の大人が
笑い混じりで真剣な顔でボールを追いかけている。


(あれ?上野君が見当たらない・・・汗)


内心どうすれば良いか分からず、
押している自転車を腰で支えて、
その場に突っ立ていた。


「おぉーい!こっちこっち!
 とりべぇこっちこっちー!」


ちょうど正門の対面にある端っこで
大きな身振りでこっちに合図してくれている。


「わかったー!」

「ぇぇー、なんてーーーーーー??」


自分では大きな声で彼に返事を言っているが、
実際”彼の位置”からは聞こえていないのだろう。


正門をくぐってすぐに右手に、
ママチャリや原付バイクが並ぶ。


そこに自分の自転車を一番奥に
ぴったり横と同じ位置で並べて、
彼がいるところまで駆け足で向かう。

5~60mはある距離を走ると、
案外息切れをしていた。


まぁまぁな足の速さで、
風を切り、走って向かう。


少し耳からコォォーという
風切り音も聞こえる。


見る見る小さかった上野君が
あっという間に少し大きく見える。


さっきまでの黒の上下の
ジャンパーのようなアウターを脱いで


シャリシャリ感のあるアウターに
短パンと、足元にはイボイボのついた靴の紐を
体操座りのような体制で結んでいる。


今度は、気がつけば、
駐輪場で彼に突っ込まれたように、
靴紐を結んでいる彼に半ば突進して、 


直前で急ブレーキのようにとまる。


ザザァァア!!


少し砂が多めに飛ぶ。


「おい!何すんだよ!」

「ごめんごめん!めっちゃ走ったら、
止まれなかった!」


「なんだそれ?笑」


変な会話の後に、
どうやら上級生っぽい子に話しかけられる。


「おっ!上野の友だち? 宜しくな!
俺は”ケン”っていうから!」


いきなりだが、まず髪の毛の色を見て、
びっくりした。


小学生から茶髪である。
後に分かることだが、
色素が薄く、水泳に通っているのも
相まって、どうやら茶髪らしい。


茶髪でも笑顔で優しく接してくれる
 “ケン”くんは皆の人気者のような気がした。


「すぐには厳しいけど、あとで皆に挨拶したら
一緒にサッカーやってみよっか!」


いきなりそう言われて、
面食らってしまった。


まだサッカールールなんて
特に知らない。


足だけでボール蹴って、
大きい四角のゴールに
入れれば得点くらいだ。


だが、それでも”説明”よりも
まずは、”体験”を優先してもらいたそうに
ワクワクな表情で話しているのが分かる。


最初に父とキャッチボールをした帰りに見た、
上野君のそれと同じだ。


「ピッピッ、ピピーぃぃぃ!」

笛が鳴り終えると、サッカーをしていた子らが
こちらへ続々と戻ってくる。


気づくと自分の近くには、
親御さんやコーチらしき人がいる。 


どうやら近くの木陰で談笑したり、壁にもたれかかって
休憩していたようだ。


ペチャクチャ喋りながら、親御さんたちが
クーラーボックスを地面にドンと雑に置いた。


ちょっとびっくりして、少し横にずれると、
クーラーボックスの中身が分かる。


どうやらおしぼりの様な小さいものから
タオルをグルグルに巻いて、


氷漬けして、キンキンに
冷やしていたらしい。


ぞろぞろと戻ってくる子を
一々細かくは紹介できないが、


色んな子が全員、“自分”を見て、
ゆっくり歩いてくることだけは分かる。


・自分に指を指して、楽しそうに話す子
・コチラを見て、自分を知らないと 首を横に振っている子
・チラッと見て、まるで興味のなさそうな子 ・少し不機嫌になっている子 ・リフティング後に、ボールを思っきし 明後日の方向へ蹴飛ばしている子 ・コチラに向かってボールを蹴ってくる子


うっすらとこの時に浮かんだのは、
“この人達と、仲良くできるのかな?”だった。


普通なら、たった1日の出会いなんて、
時間が経てば忘れて、いずれ思い出せなくなる。


それなのに、
目の前に帰ってくる子らを見て、

(きっと、この先に、この子らと
一緒に”ワクワク”すんのかな俺?)


そう思いながら、
彼らが戻ってくるのを待っている。


「な!サッカーっていいよな!
 そう思うやろ?鳥部?」


上野君の言葉は聞こえているが、
コクリとうなづくだけで返事はしない。


空は快晴、若干の砂ホコリの中、
コチラにゆっくりと歩いて来る子ども達。


思った以上に大きく見える。


先程の坂道ダッシュの汗は引いて、
今度は胸の鼓動が若干大きく感じる。


続・・・・


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