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就活失敗して頭に来たので独立したが就活の方が楽すぎて草ww㉔

「おぉ、やるじゃん!その調子!」


そう聞いてきた彼とは、
今は全く会ってもいないし、
絡んでもいない。
どこにいるかも分からない。


時は、1996年。


まだ学年にして、
小学校2年生である。


この頃の記憶は本当に断片的な
記憶に留まっている。


「とりべお待たせーぃ!早速行こうぜ!」


上野君が駐輪場に駆け足で
降りてきた。


まるで、巨大なミカンが入っている
網目の袋のようなものに入った、
サッカーボールを蹴りながら、
こちらへ走ってきた。


リュックサックが激しく揺れている。


まるで、大きなヨーヨーを
足で蹴っているかのようだ。


「ねー、そういやさ、
 俺何も持ってないけど、
 大丈夫かなー?」


少し不安げになり、
大きめの声で彼に聞く。

彼はそんな質問をお構いなしに
走ってきた勢いそのままに、
自分にタックルしてきた。


ドンっ!


「!!! おい何すんだよ!」


びっくりして、少し怒る。


「わりぃわりぃ!
 別に気にすんなよ!
 道具は全部あるからさ!」


悪気もなく、次の動作に移る。


目をキラキラさせながら、
18型のサイズの自転車に
颯爽とまたがる。


ほんの少しムッとした感覚を
覚えている。


こういう事象や感情をたくさん経験して
人は大人になっていくのだろう。


今度は、父ではなく、
“彼”に置いていかれないように、


自分もそそくさと鍵を解いて、
自転車にまたがる。


「さっ!行こうぜー!しゅっぱーつ!」

L字の緩やかな下りスロープが
30m程あるのだが、
彼はノーブレーキで
どんどん進む!


「待ってよ!!!」


そう言っても、彼には聞こえてない。

“自転車に乗る時は、自分のペースで乗るんだぞ”


そう父に言われた。
それなのに、もう彼が2個目のカーブをすぎると
グイグイ先へ進んで小さく見える。


すごく怖かったが、
すかさず自分も
”ノーブレーキ”で彼を追いかけた。


父の約束を守らずに、
独断で行動している。


この時、子供ながらに
”見えないところで誰かとの約束を破る自分”を理解して
”気まずさ”というものを覚えた気がする。


猛スピードの自転車のハンドル力強く握りしめ、
すごく集中しながら、首を振り、
周りに人やクルマが来ていないか
瞬時に周囲や状況を確認する。


もし彼から置いていかれたら、
”もうサッカーなんてやらない!”


そう思いながらも、
彼の自転車を懸命に追いかける。


普通ならあっさり諦めて引き返すのに、
しっかりついていく。


少し登った団地を右旋回するように
緩やかな下り坂を颯爽と駆け下りる。


右手には団地群がそびえたち、
左手には、福岡の景色が一望できる。


「うわぁー!良い景色!」


普段通ることがない道を
駆け下りる。

下り終えた先の信号で、
彼はこちらを振り返る体制で
待っていた。


信号は青だ。
渡らずにちゃんと待ってくれている。


この時に、”人の優しさ”を
ちゃんと理解した気がする。


大人を介在しない、
子ども同士の世界だ。


「おぉ!しっかりついて来てんじゃん!
 ささ、行こうぜ!もうすぐやぜ!」


彼は、そう言って、
赤信号が青になると同時に、
猛スピードで自転車を漕ぎだした。


また置いてかれる。
だが、慌てなかった。


自分もしっかりペダルを漕いで、
ビュンビュン自転車を飛ばす。


川沿いを進みながら、
真っ直ぐに伸びる、
緩やかな坂道の上の方に、
別の小学校の正門が見える。


「しっかり漕ぐぞー!」


上野君は見る見る坂道を登る。
足腰が強い。


負けじと進むも、
坂道の2/3のくらいで痛感する。


「あぁああ!無理!!」


そう言って、自転車から降りて、
自転車を押しながら坂を登る。

少し見上げると、
上野君は、こちらに2つの車輪が
見える体制でこちらを笑いながら見ている。


「さっさとこいよー!」

 彼は正門の中へと消えていった。


この時、”身体能力には、個々に差がある”ことを
身を以て理解する。


そして、いよいよだ。
“ワクワクの正体”に迫る。


この坂道のてっぺんに
知らない学校があり、


どうやらそこには、
”サッカー”というものがあるらしい。


最後の坂道を全力ダッシュして、
登り切る。


置いていかれるという気持ちとは
全く異なる、


“早く、サッカーがしたい!”


そんな気持ちが、
ハンドルを強く握り、
大地を強く蹴って、
自転車を前へと押し進める。


あと数メートル。


涼しい季節にも関わらず、
額から滲み出る汗が目に入る。


未知との遭遇まで、後5秒弱。

心が跳ねている。

続・・・



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