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創作エッセイ:「良い女」になるには

目標としている「良い女」の基準

世の中には沢山の「良い女」がいるでしょう。

私の目指す「良い女」の基準はこう!!
・いつも笑顔(HAPPY~ ♪な感じ)
・キレイ(顔がとかじゃなく肌とか清潔感的な?)
・品がある(身振り手振り?)
・なんか良い匂い(ふわっと香る感じ)

目標期限は 30歳 。(ひとまず)

そうなった後に何があるとかじゃない。
ただただ、「良い女」になりたい!

達成への道のりは長く厳しいと見た。
でもそんな厳しさが私の人生を充実させてくれる。

私がそう思えるのは、あの人と出会えたから。

Let’s 女神 challenge !!

プルッ
ガチャッ 
「はい。こちらABC商社新宿支店でございます。…ええ。只今確認致しますので少々お待ちください。」

電話は1コールで出る。
声は鶴のように美しく。
そして言葉遣いは丁寧に。
しかし手元はパキパキと。
私はこの新宿というギラギラした街でバリキャリとして働く "良い女"
…の横で1つずつ丁寧にホッチキス止めする若手社員。

学生時代は学業に一生懸命打ち込み、有名私立大学の院を卒業した。ただし、運動と恋愛については義務教育を終えたか分からないレベル。また、年齢=彼氏いない歴 という方程式を完成させられるのは、この部署で…いや。この会社で私1人なのだろう。
というのもこの会社は外観だけでなく、内観はもちろん、社員もギラギラしているのだ。日々彼等の眩しさに視力を奪われ「帰ろうかな」と弱気になるが、1つの目標を胸に死ぬ気で出社している。その目標は…

\\ ひとみさんのような "良い女" になること //

ひとみさんは、御年30ながらこの広報課の課長代理を務めている正真正銘のバリキャリウーマン。通称「女神」(由来は不明だが、それ以外にピッタリの表現が見当たらないのは事実)。よくいる「仕事一筋」という雰囲気も無く、「箱入り娘のお嬢様」なのではとも思わすゆるふわな雰囲気を纏い、高そうな香水ブランドの前を通った時に風に乗ってふわりと感じるあの高級感ある香りがする。

そして…目が合うと優しく微笑みかけてくるのである。

「とんでもねえ」
"人は、完全な人間を見ると、普段使わない日本語がポロっと出てしまう" という説はこの方のためにあると言っても過言ではない。
※この説は私が勝手に立てた説です。

ひとみさんを目指そうと思ったきっかけは、特別な出来事があったわけでもなく単なる合同企業説明会での一目惚れ。と言っても、私の恋愛対象は男性なので「人として一目惚れした」と言う方が的確かもしれない。
就職活動中の私は、唯一力を入れて取り組んでいた化学分野の研究について、院での研究を通して「既にお腹いっぱいだ」と感じていた。卒業後の進路についても「もう研究には満足したし、ちょっとでも化学分野に携われれば正直どこでも良い」と思っており、パンフレットでどこの会社説明を見てもピンと来なかった。そして、消化試合的に数ある企業のプレゼンテーションを鬱々と見ていると、明らかにスポットライトが当たっているように輝く彼女がスクリーン前に立った。
「就活生の皆様、こんにちは。」
"女神降臨" とはまさにこのこと。
さっきまでウトウトしていた白目の男子学生は黒目を取り戻して姿勢を正し、イケメン社員を探してキョロキョロしていたイマドキ女子学生は食い入るように彼女を見つめた。話している内容は他の企業と同じで企業概要や就労条件のはずなのに、何故か彼女から目が離せなくなった。そして強く思った。
「この人の近くでこの人を目指せば、私の求める何かが得られるかも!!」

今まで何か具体的な成果を出すことに尽力することはあっても、自分自身を磨くことに力を入れたことはなかった。というか、人からの見え方については「どうせ誰も見てないし。そもそも見せようとも思ってないし。生きることに必要なのは好きな事が出来てるかどうかでしょ。」と適当に考えていた。その結果常に心にあったのは「将来やりたい事が無くなった時、私は生きる意味を見出せるのだろうか」という不安や恐怖。そんな私へ差し込んだ一筋の光。彼女という存在が私の中にあった言い様のないモヤモヤした気持ちを一気に晴らしてくれた。

そこからの私は早い。これぞ真面目人間の得意分野。
必殺:夢を実現するために時間を全力生成し即時的に行動
すぐにその会社を調べ上げ、大学中の職員やサークルの先輩方へ伝手を確認。そして見事就職し、まさかの同じ部署へ配属されることとなった。人前で話すことが苦手だったり、ギラギラした人と話すと消し飛びそうになるほどメンタルが弱いことはもちろん隠し通した。我ながらあっぱれ。

働き始めて最初に感じたこと。それは…
"女性同士のマウントはとんでもなく強い"

「この間彼氏と高級旅館に2泊3日してきてさ~。非日常で最高だった~!」
「え~羨ましい~。私は国内より海外派だからシンガポール旅行を予定してるの!」
「素敵~。私はヨーロッパ行こうって話出てるんだけど、移動時間長すぎ~」
「良いじゃん ♪ 私も2人と同じような話上がったんだけど、飽きたよねってなったから一周回って国内なの~」

…おわかりいただけただろうか。誰も譲ることのない修羅の道。その道の先に何があるかなんて彼女等の頭にはないのだろう。必要なのは「目の前のマッチで勝利すること」。ただそれだけ。そして私はというと…

「あっ、へ~。私彼氏できたことないから分かんないやっ」

圧倒的不戦敗なのである。

ここまでの完全なる負けは最早戦っていないも同然。もちろん悔しさなんてミリも無い。3人が必死に駆け抜けているサーキット場の観客席で、1人旗振って応援しているような状態。虚無。申し訳程度に相槌するも、彼女等の眼中に私はいない。「ははっ」と乾いた笑いが自分から出てしまい、「うわ!やってしまったか!」と焦る日もあったが、バレなかったので最近は他事を考えながら見守っている。

次に感じる社会の難しさ。それは…
"女性同士でのコミュニケーションにはキャラ感が必要"

これについては周りの環境や時代によって大きく変わると思うので、あくまで私の経験談として受け取ってほしい。私にとって難しいと感じたのは「先輩女性社員と後輩女性社員とで、求められるキャラが違う」ということ。私が思うに、先輩から見た良い後輩は「犬系」で後輩から見た良い先輩は「猫系」だ。つまりこんな感じ…

私が後輩だったら:
「あ!先輩おはようございます!」(挨拶は自分から)
「ネイル可愛い~どこでしてもらってるんですか?私も同じ所でやってほしい~」(リスペクトを鬼出し)
「どうしたら先輩みたいにモテますか??」(よいしょの盛り合わせ)
私が先輩だったら:
「困った事があったら声掛けて」(基本は向こうのアクション待ち)
「いつも頑張ってるからこれあげる」(急に褒める)
「今日デート?はあ…やっといてあげるから帰りな」(態度冷たそうだけどめちゃくちゃ後輩想いのツンデレ)

これだけ分析出来ていても、実践は全然無理で笑う。世の中の人間がどう考えても器用過ぎる。本当にやめてほしい。私が後輩を実践するとこう。

「なんか雰囲気違います?あ、何も変わってないですか…へえ~。じゃあ、いつも綺麗ってことですね!」

察しの悪い彼氏か。

ごまかし方もセンスが無さ過ぎて-1000点。不合格。「気付かないよりはましでしょ」と勇気を出しても、変わってないことを想定してないから無事死亡。ありがたいことに自己肯定感が高い方が多いので褒めたことについては訝しむことなく「ありがとう」と言ってくれるので大変助かっている。相手が上手で良かった。相手も私だったら「重力倍になったんか?」ってぐらい重々しく怖い空気になってる。そしてこの話についてもう1つ重要になってくるのが「褒める側も容姿に気を遣っている」ということ。自分は気を遣ってない人が容姿を褒めるとどうなるか…シンプルに相手が気まずい。やめましょう。

そんなこんなで日々奮闘していた私は、何を目標にしてこんなに頑張ってるのか分からなくなった。

毎日無理に話を合わせて、興味の無いブランドの話を聞いて、話を合わせるためにネイルサロンに行って。

「なんでこの会社に入ったんだっけ…」
お昼休みになり会社のスカイデッキに出て、隅っこのベンチで独り言を呟いていると、
「なんで入ったの?」
と、知らない間にひとみさんが隣にいた。

「すみません!!全然気が付かず…もしかして、何度かお声掛けいただいてました…?」
「うーん…3回ぐらい?」
「申し訳ございません!!!!!!」
「全然良いよ」

ひとみさんは口元に手を当てて上品に笑った後、改めて質問してきた。

「なんでゆいちゃんはこの会社に入ったの?」
「…」
(いや恥ずかし過ぎる!本人前にして「あなたに憧れて…」て!何ならちょっとキモさまである!!)
「もしかして、何か言えないような…スパイとか…?」
「いえいえ!!そんなんじゃないです!!…あの。ちゃんと話すので引かないでもらえますか…?」
「もちろん!」
女神の微笑みの威力は絶大で、気が付いたら懺悔のごとく胸の前で手を組みポツポツと話し出していた。
「実は就活生時代にひとみさんをお見掛けして…お見掛けっていうか、合同企業説明会でひとみさんがお話しされてて。その姿を見て、私もこんな女性になりたいと強く思って…そんな理由でって思われるかもしれないんですけど…でも自分にとっては志望動機になり得てしまって…」
話しながら自分の見通しの甘さを実感し、羞恥で涙がこぼれた。
「私…将来への不安がずっとあって…でもこれまでの努力が足りてないとかそういうんじゃなくて…足りてると思ってるこそ…なんか…人生の…終わりが見えてる気がして…」
私が嗚咽混じりに話してる間も、ひとみさんは静かに聞いてくれていた。
「だから…何か仕事や勉強とは違った目標が、自分には必要だと感じて…」
話しているうちに、自分が何を不安に思っていて何を目標と設定したのかが明確になり、気が付くと涙も止まっていた。
「私…ひとみさんのような "仕事も出来て、身だしなみも整っていて、誰もが憧れるような存在" になりたくて、この会社に入りました。志望動機としてはおかしいかもしれませんが、私の人生には必要な目標だと思っています。」
「おかしいと思っている」なんて言いつつも、そうとは思えないほど胸を張って声を大きくしている私に、ひとみさんは優しく笑いながら頷いてくれた。そして、自分の話もしてくれた。

「私、この会社が1社目じゃないの。」
「え!そうなんですか!?」
「うん。確か1社目は3年ぐらいで辞めたんじゃないかな?」
「それは…聞いても大丈夫な理由でしょうか?」
「全然大丈夫!理由は簡単で、一緒に働いてる先輩や上司を見て "こんな風になりたくない" って思ったから。」
「!!」
「ゆいちゃんの志望動機とほとんど一緒じゃない?」
「はい!何か…ハラスメントとか?」
「いやいや!まあこのご時世には珍しく "働きやすさより成果" って会社だったけど、働いてる時は毎日刺激的ですごく楽しかったよ。」
「じゃあどうして…」
「さっき "働きやすさより" って言ったでしょ?それって簡単に言えばブラック企業ってことなんだけど、みんな毎週会社に寝泊まりして働いてたの。」
「ええ!許されるんですか!?」
「許されないと思う。だから、 "好きな事をやらせてもらってる" ってことで、みんなサービス残業してた。」
「うわ…でも、楽しかったってことはその生活自体はそんなに苦じゃなかったってことでしょうか?」
「そう!時代錯誤だとは思うんだけど、私自身その働き方に満足してたの。ただ、そんな生活してると何かは削らないと生きていけないの。」
「何か…」
「例えば、私はちゃんとスキンケアや着替えをしたかったから、終電後はタクシーで帰宅してた。削ってるものはお金だね。その他に、一緒に働いてる同期は睡眠時間をなるべく増やすためにメイクをやめた。この子はメイク。もう1人の同期は着替えに時間を使いたくないから毎日同じような服着てた。何ならお風呂入ってなかった日もあったし、この子はファッションと清潔感かな。こんな感じの生活を長年続けてる上司や先輩はというと…」
「想像もつかないです…」
「ふふ。詳細は控えるけど、少なくとも "人前に出られるような恰好ではない" よね。将来の自分を想像する時って職場の上司や先輩を参考にするのが妥当だと思うんだけど、この人たちにこれからなりますよって意識して社内を見渡した時、なりたい大人が1人もいなかった。その時初めて、"私はここに向いてない" って思ったの。」
「"ここに向いてない" っていうのは、仕事内容や人間関係とかじゃなくて "こういう働き方が向いてない" ってことですね!」
「そういうこと!…ってなったらさ、元気があるうちにさっさと転職しちゃおうって思ったの。」
「確かに…」

「…ねえ。今でも自分の志望動機を "おかしい" って思ってる?」
「いいえ、思ってません!」
「良かった ♪ でも、面接でこれが通用するのはまだまだ先の未来かもね。」
「そうですね。」

このあと、いもしない彼氏と同棲したらなんて馬鹿げた設定で妄想し、午後から仕事に戻った。

「見た目は派手じゃないけど、いつもニコニコして明るい人で!」
「私は彼がいるから、彼との想定で!」
 …
「帰りは一緒に帰宅して、毎日一緒にご飯食べたいです!」
「じゃあなるべく残業しない働き方を考えて…料理はちゃんと練習しなきゃ!」
「料理か~…未来の彼氏のために、頑張ります!!ひとみさんは理想のシチュエーションあります?」
「私はランチ一緒に食べたい!」
「じゃあお互いに休み時間を自由にとれるスタイルだと実現できますね!」
 …

ほんの数十分の出来事なのに、これからの人生が一気に楽しみになった。やっぱりひとみさんは「女神」だ。

そして私も、自分らしい「良い女」ないしは「女神」になってやる。
明日から「Let's 女神 challenge !!」開始だ!!!

Let’s 女神 challenge !!:後日譚

女神は女神たる所以がある。彼女は彼女自身の優先順位を正しく分析し、自分が一番輝ける方法を理解している。つまりは周囲を優しく包み込み癒しているから「女神」なのではなく、己の輝きを100%引き出した「女神のような輝きを放っている良い女」なのである。
誰よりも逞しく美しい。そして同時に、誰よりも強かだと感じた。

そして私も「良い女」になる。予定。笑


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