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【1話完結小説】みそか

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 大晦日、時間があったので、なんでもない家族の大晦日の様子を思い浮かべて書いてみました。
 文庫ページメーカーさんで画像を作ったので置いときます。
 なお、下↓は画像と同じ文章になります。

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 パッとしなかった今年一年の僕。その帳尻を合わせるかのように福引のガラガラから金色の玉が飛び出した。

 母さんが買い忘れた正月用食材を買うため、出かけて行ったスーパーでの出来事だ。商品は地元旅館のペア宿泊券だった。Switchとか iPadだったらもっと良かったなぁと思ったけど、周りの見知らぬ人達に拍手して貰えて結構テンションが上がったのも事実だ。

 雪が降りそうな寒い道を急ぐ。みんなとっくに大掃除を終えたのか、大晦日の町内は随分と静かだった。家に帰ると父さんと弟が玄関前でせっせとガラス戸を拭いている。こんなギリギリまでわちゃわちゃやってるのがなんだか我が家らしいな、と思わずニヤけていたら振り向いた弟と目があった。
「おい、何笑ってんだよ。さっさと荷物置いてきて兄ちゃんも早く手伝えよ。」
 脚立の上から偉そうなセリフが飛んでくる。中二の弟は、確か去年は大掃除の手伝いを拒否って父さんに怒鳴られながら嫌々やっていた。嫌々過ぎて動きが緩慢で仕事も雑だったため、更に父さんに怒鳴られるという悪循環。それに比べたら一年経った今、アイツも成長したもんだな…と兄ながら感慨深くなる。

 荷物を持ってリビングへ行くと、母さんがソファに座って年末の下らない特番を見ていた。なんだか見覚えがあるから再放送なのかもしれない。
「父さんたち一生懸命掃除してたけど、母さんは優雅だね。」
僕が言うと、母さんはアルフォートの個包装を開けながら、
「私は普段からあちこち掃除してるからね。こんな時くらいゆっくりして帳尻を合わせなきゃ。」
とウインクらしきものをした。両目が閉じてしまって上手くウインクになっていない。
「それにあんたに頼んだ食材待ちだったのよ。さて煮物作らなきゃ。ちょっと手伝ってよ。切るくらいならできるでしょ。」
 母さんは最近やたら僕や弟を台所に立たせたがる。父さんは全く料理ができないけれどそこはもう諦めているらしい。そんな時代だ。僕も母さんの親心を汲んで料理くらいはやらねばと思っている。ゆくゆくは自分の為なのだ。それに、寒い玄関の掃除より今は料理の手伝いの方が断然ありがたい。

 ちょうど玄関の方から弟の
「おーい!早くこいよ!」
という叫び声が聞こえた。僕はリビングのドアを開けて、
「ごめん無理だわ!母さんの手伝いすることになった!」
と叫び返した。
玄関の方から
「ずっりー!!」
という声が響いたが僕はスルーしてドアを閉める。

「そんなもん皮むき器でテキトーにやればいいのよ。」
という母さんの懇切丁寧なアドバイスのもと里芋の皮むきに悪戦苦闘していると、爺ちゃんが帰ってきた。両手にケンタッキーのデカい紙袋をぶら下げて陽気な声をあげる。
「メリーお正月!」
 町内の敬老会仲間と昼間から公民館で一杯やっていたせいでほろ酔いの上機嫌だ。
「ちょっとお爺ちゃん、何そのデカいケンタッキー!?」
 母さんが紙袋を凝視している。
「おう、公民館にいたら五班の坂井君がケンタッキーに買い出しに行くと言うから、我が家の分もついでに買ってきて貰ったんだ。パーテーバーレル×三だ!!」
「うちは五人しかいないんだからそんなに要らないでしょ!チキンばっかり食べさせたらみんな年越しそば食べてくれなくなっちゃうじゃない!」
母さんがキレ気味に返す。

 爺ちゃんはしょぼくれながらソファに腰掛けた。と思ったら全然しょぼくれてなくて、
「今日ワシ、みんなにケンタッキーの爺さんに似てるって言われて盛り上がった。」
といきなり話し出した。爺ちゃんがカーネル・サンダースに似てるかと言われると、まぁ、爺ちゃんであるところと白髪なところは似てるのかもしれないけど…そうなると大体の白髪の爺さんはカーネル・サンダース属性になってしまう。
 考えながらちんたら里芋の皮をむいていると、いつの間にか爺ちゃんはソファで寝てしまった。

 その夜、なんだかんだで僕らは年越しそばも食べたしパーティーバーレルも食べ尽くした。ライジンや紅白を見たり、時々スマホゲームをしているうちにいつの間にか年が明けていた。
 今年はなんだか良いことが起こりそうな気がする。…って毎年思ってる気がする。僕がダウンジャケットのポケットにねじ込んだ旅館のペア宿泊券の事を思い出すのは、もう少し先のお話。

 あけましておめでとうございます
 二〇二二 元旦

end

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