見出し画像

【読書感想文】人間に向いてない/黒澤いづみ

今年の私は読書に目覚め、(自分にしては)たくさん文庫本を読みました。60冊くらい。その中で今回読んだ本が上位に入るくらい好きだったのでnoteで感想を書いてみようと思いました。
もう感想っていうかただの私のつらつらとしたひとり語りなので恐縮ですが…。
黒澤いづみさんの「人間に向いてない」です。

子育て中の親御様へ

世間一般では「子どもは3歳までに一生分の親孝行をする」というようなことが言われますね。
これはある意味そうかもしれません。
3歳頃までって、ただただそこに居るだけで可愛い。「生まれてくれてありがとう♡」といった感じ。語弊を恐れずに言うと、親は、夜泣きで睡眠不足になったり身体的に辛かったりもするのですが、そういうのも含めてただただがむしゃらにお世話してがむしゃらに可愛がって…本能的に育てていればいい。

しかしそんな時期を過ぎ、子どもが幼稚園や保育園に入る…小学、中学、高校、大学、社会人…。こうなってくると社会との関わりの中で親は当然「躾しなければ」「ルールを守らせなければ」「勉強させなければ」「周りから浮かないように導かなければ」などありとあらゆるプレッシャーと責任感に晒されます。

もう、のんきに「生まれてくれてありがとう♡」だけを言ってる余裕はありません。
よその優秀な子と比べて焦ったり、よその立派な子育て方針を目の当たりにして焦ったり。時には「よそはよそうちはうち」と開き直ってみたり。
どうすれば我が子が積極的に、自己肯定感高く、賢く、優しく、臨機応変に…そしてたとえそんなものがなかったとしても、最終的にとにかく自立して生きていけるように…と日々悩み考えていることでしょう。

…ていうかソレ、私の事

実際まさに今、私がそうなのです。我が子の生活面、情緒面、勉強面…。悩みに悩んで、よくHOWTO本読んでます。ネット検索かけてます。身近な人の経験談聞きまくってます。

でも今回この本を読んでいる中で、重大なことに気付いてしまいました。
“私は本当に目の前にいる我が子、その人と向き合っているのか?”ということに…!

普段、私は息子としょーもない話はしています。
「僕はぷるんと蒟蒻ゼリーの中ではマンゴー味が1番好きで2番目はピーチ味なんだ!」
「…そっ、そうなんや!お母さんはメロン味が1番好きと思ってたで…」みたいな。
しかしこんな表面上の日常会話だけではちっとも向き合えていない(いやまあマンゴー味も大事っちゃ大事だけども)!!

私が息子を叱った時、彼は果たしてどのように反応していたのか?どのような目線を私に向けていたのか?そもそも私の思いは伝わっていたのか?彼はなぜそのような行動を取ったのか?本当は彼はどんな言葉を欲していたのか?

私は多分そういうことに集中していませんでした。きちんと向き合えていなかったと思います。HOWTO本のとおりに、“言いたいことは簡潔に伝える”“目を見て伝える”“その場ですぐ伝える”…そんなことばかり気にして叱って、自分ひとりで「よし、うまく叱れた!」「今回はだらだら言い過ぎた」なんて一喜一憂していました。息子を見てるようで見ていない。自己完結の自己満足ですね。

そもそももっと言えば、叱る必要があったのか?叱ることで私は、“ちゃんと叱って親っぽいことをやってる自分”に安心しているだけではないのか?なんてことすら考えてしまいました。

「偉そうに正論を言われて、ぐうの音も出ない。でもそもそも言い方が偉そうで聞く気にならない!自分が正論を語れる“ご立派な人”だと思ってるなら、もうちょっと相手が聞いてくれるように言い方も考えられるやろ!」
…なんて私は自分が嫌な目に遭った時、不平不満を垂れ流すけど、子どもに偉そうに正論を言ってないか?…言ってるーーー!!
なぜ私は友達付き合いや会社付き合いでは気を使ってニコニコ、言い方も最大限気を付けてるのに、“対 我が子”となると何も考えず偉そうに無遠慮に正論タックルをかましてしまうのか。

とにかく「親だから子どもを導かなくては」と思うあまり、ひとりよがりにやってきたなあと内省したのでした。

『子どもと向き合う』
この本を読んで身に沁みて気付いたことは、とにかくこれに尽きます。
たとえ、向き合って考えた末に出した答えが息子にとっての正解でなくても、向き合おうとしていなかった時よりはマシなはずなんです。これまでの私はスタート地点にすら立っていなかった気がします。

don't think,read (考えるな、読め)

とはいえ、これだけ文字数を使って語っておいてなんですが、これは私が読書しながら勝手に感じたことであり、読書の副産物に過ぎません。マボロシ〜!!

実はこの本自体は説教臭くもなんともない凄く読みやすいエンターテイメントです。別に子育て自己啓発本ではありません。読みやす過ぎて、同時並行でこれまで書いたような余計なことまで考える余裕があったのかな。

…ごめんなさい!子育てのことに結びつけて自分の思いをヘヴィに語りすぎちゃったけど、本当に面白いから、私が書いた“子どもと向き合う”うんぬんは忘れて読んで!(ナニソレ〜)

下はあらすじ画像です。

自分の息子がいきなり異形(中型犬くらいのサイズの芋虫)になるんですよ!?あなたは芋虫好きですか?触りたいと思う?私は絶対嫌だよ。元が息子だったと頭で分かっていても、意思疎通もできないからほんとただの気持ち悪い物体なんだよ。
引きこもりニートの息子、ユウくんがある日、異形の芋虫になってしまった…。そんな衝撃の幕開けから、主人公である主婦の美晴は、そして一家は、どんな結末に向かうのか____。

物語の中で奇病を発症するのはなぜか家族の中でも問題を抱え、腫れ物扱いされるような、疎まれるような、お荷物的な人ばかり。そんな家族が異形になってしまったら、合法的に捨ててもよくなってしまったら。私達は一体どうするだろうか?本の中にも色々な結末を迎える家族が出てきます。

興味深く読めて、なおかつ小学生〜就活生くらいのお子さんを持つ親御さんには、私が感じたような気付きも得られる(かも?)というオマケ付き。特に四章は個人的に為になる言葉がたくさんありました。

好きな点を3つほど

1.異形性変異症候群ミュータント・シンドロームという病気がある…ということだけが異常で、それ以外は私たちの生活と変わらないごく普通の日常だという点。凄くうまいこと病気の設定が溶け込んでる。だから余計リアルで身近に感じられる。美春とその夫、美春と家族会の面々…とのやりとりは必見。

2.異形にも色んな種類がいるというバラエティの豊かさ。主人公の息子は昆虫タイプだが、他にも哺乳類、爬虫類、魚類…など多岐にわたる。不謹慎(!?)ながらポケモンを思い浮かべてしまった(笑)ポケモンと違って、異形は一緒に戦ってくれる訳でもなく、全然可愛くないんですけどね。
欲を言えば、よその家の異形がもっと見てみたかったかも。あまり出過ぎても話に邪魔だから仕方ないか…。

3.あと個人的に、主人公の家庭設定が自分ちみたいだったので、のめり込んで読みました。気付けば「美晴、踏ん張れ!」ってめちゃくちゃ応援していた。

面白さに理由はいらない

色々書いてきたけれど、ぶっちゃけどこがどうとかどうでもよくて(ここまできてなんやねん)、ただただ面白くページをめくりました。この本の世界観が大好きです。読み終わるのが名残惜しくて切なかった。

引きこもり、ニート、社会的弱者、家族から必要とされるか否か、親と子の関わり方…などなどきっと作者さんからの問題提起が描かれてるのだけど、とにかくどんどん先を読みたいと思う。そんな圧倒的熱量に満ちた本でした。勝手にガーッと読んで勝手に気付きを得て勝手に衝撃を受けました。読書の楽しさ再発見。素敵な時間をありがとうございました。

なおこの「人間に向いてない」、講談社さんのメフィスト賞という賞の受賞作だそうです。今年読んで面白かった宮西真冬さんの「誰かが見ている」も確か同賞受賞作だったような…。今後本選びの際にメフィスト賞、気にしてみようかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?