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ゼロからわかる自己調整学習②自己調整できる子、できない子(1)予見段階編

自己調整学習シリーズの第2弾です。

前回、自ら学ぶ子は、
①学習前:見通しをもつ段階(予見段階)
②学習中:実行する段階(遂行段階)
③学習後:ふりかえる段階(自己省察段階)
この3つのサイクルをぐるぐる回せる子だということをお話ししました。

このサイクルを回すことこそが、「学習を自己調整する」、つまり「自己調整学習を行っている」ことになります。

でも、そんな簡単にできるようにはなりませんよね。
そもそも、自己調整学習ができる子・できない子にはどんな違いがあるのでしょうか。
今回はその違いについて、研究で明らかになっていることをご紹介します。
まずは学習前の見通し段階(予見段階)での違いを見てみましょう。

①目標の立て方がちがう(目標設定・目標志向)

まず、「目標」の立て方やスタンスが違います。

A 目標の立て方がちがう

自己調整できる子が立てる目標は「具体的」です。
「漢字を〇個覚える」「〇番の問題を全問正解する」「○○と△△のちがいを表にまとめる」など具体的な目標を設定することで、
どこに向かって学習していけばよいか
目標達成に近づいているか・近づいていないか
を常に判断することができます(Bandura,1977)。

また、大きな目標を達成するための小さな目標、といったように目標をステップ化(階層化)する場合もあります。
「●年生の漢字を全部覚える」といった大きな目標をいきなり達成するのは難しいですが、「まずは1学期の漢字」と小さく分け、さらにその中から「10文字ずつ覚える」など、細かく目標設定していくことで1つ1つクリアし、最終的に大きな目標を達成することができます。
そのような目標をより具体的にしていけることも、自己調整ができる子どもの特徴です。

反対に自己調整ができない子の目標は「ばくぜん」「ざっくり」としています。
「頑張る」「○○の勉強をする」など、どの程度を目指すのかといった具体的な指標がありません。
そのため、勉強中にゴールと違う方向に進んでいたり、
目標が達成できているのかどうかもよくわからない

という状態になります。
それでは自分の学習をコントロールすることができません。

また、周りから見れば少しは進歩しているようでも、本人は目標に近づいているのか分からないため、自分の進歩を感じられず、やる気をなくしてしまうこともあります。

B 目標のスタンスがちがう

また、「目標」そのもののスタンスも違います。

自己調整できる子は、「この目標を達成することで、こんな力をつけるぞ!」「この力を伸ばすぞ!」「こんな自分になるぞ!」と、何かしら自分の力を伸ばすため、自分の成長のためにやっているというスタンスで目標を設定します。

反対に自己調整できない子は、「とりあえず終わらせる」「やらないと怒られる・周りの目が気になるからやる」「がんばっていると思われたい」といったスタンスで目標を設定します。要するに「やっつけ」「見せかけ」の気持ちで学習するわけです。

前者の目標を「熟達目標(マスタリー・ゴール)」といい、後者の目標を「遂行目標(パフォーマンス・ゴール)」と呼びます(Dweck & Elliott, 1983)。

熟達目標を設定する傾向にある子供は、前向きにいろいろなことに挑戦し、多少の失敗があっても乗り越えていくことができます。
反対に遂行目標を設定する傾向のある子どもは、苦手なことを避けたり、失敗して挫折しやすいことが明らかになっています。

自己調整学習のサイクルを回していくためには、どちらの目標が効果的かどうかは、明らかですよね。

このように、自己調整できる子とそうでない子は、目標の立て方やスタンスに大きな違いがあるのです。

②自信と興味がちがう(自己効力感・興味)

A 自信がちがう

自己調整学習ができる子とできない子では、「自信」の持ち方にも違いが見られます。
この「自信」というのは一般的な表現ですが、正確に言うと、「自己効力感」という用語で説明できます。

自己効力感とは、何かをするとき、自分はできそうだと信じる気持ちのことです。(Bandura, 1977)
「僕は計算は得意だよ!」
「サッカーならできるよ!」といった、
特定の分野や課題に対する自信のことです。

本当に「得意」ということだけでなく、
はじめて出会う課題や、ちょっと難しそうだな…といった課題であっても
「いや、これまで頑張ってきたのだからできるはずだ」
「あの時も乗り越えられたから今回もきっと!」

と自分を信じる気持ちも含みます。

自己効力感が高いと
①自分からいろいろなことに取り組む
②難しいことにもチャレンジするようになる
③失敗しても立ち直りが早い

といったことが明らかになっています。

反対に自己効力感が低いと、苦手なことを避けたり、落ち込みやすくなるわけです。
自己調整のサイクルを回すためには、自己効力感は欠かせない要素の一つです。

B 課題への興味がちがう

興味があることには自分から進んで取り組みやすいということはわかりやすいと思います。この「興味」についても、いろいろな研究があります。

実は、「興味」には4つのレベルがあると言われています(Hidi & Renninger, 2006)。

レベル① その場の興味がわく(状況的興味の喚起)
 その場で起きたことや内容でふと興味を引かれるレベルです。
 例えば、「あの先生のあの話はおもしろかったな」「あのプレゼンはイラストや写真が多くてわかりやすかったな」と感じることです。
 どちらかというと、「興味をもたせてもらった」状態です。

レベル② 興味が持続する(状況的興味の維持)
 一度興味がわいたことについて、意味や価値を感じて興味が途切れずにいられるレベルです。「もしかして楽しいかも」「分かりやすくて勉強になるかも」といった気持ちが続きます。

レベル③ 自分の中で興味が芽生える(個人的興味の出現)
 「面白いな、楽しいな」とポジティブに感じるレベルです。「あの先生の話はおもしろいからもっと聞きたいな」「あのプレゼンがわかりやすかったから何度も見て勉強しよう」と感じるようになります。

レベル④  自分から興味を広げる(発達した個人的興味)
 興味をもたせてもらったことだけでなく、そこからさらに関連することを自ら調べ始めるといったレベルです。また、自分からいろいろなことにも興味をもって関わろうとします。「知的好奇心」といえばわかりやすいでしょうか。

レベル①と②は、一時的に興味がわく「状態」です。
レベル③と④は、興味を持ち続けられる「性格」的なものです。

その場で興味がわくレベルに留まらず、いろいろなことに自分から興味をもてる子が、自己調整学習ができる子、というわけです。

レベル③や④のような興味をもっている子供は、ただ学習の課題がおもしろいと思うだけでなく、自分で課題を選んで取り組み、途中で何か邪魔があっても学び続ける傾向にあることが研究で明らかになっています。
それに対して自己調整学習が難しい子どもは、興味がない原因を教師や課題のせいだと思いがちなのだそうです。

まとめ (1)予見段階

以上、自己調整学習サイクルの見通し段階(予見段階)における違いを確認してきました。
目標や自信、興味だけでもこれだけ違うのですね。
次回は(2)実行する段階(遂行段階)の違いを述べていきます。


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