wanly@おいしい読書術

読んだだもの、見たもの、食べること、古今東西のお茶文化。 大まじめに書いてみようと思い…

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読んだだもの、見たもの、食べること、古今東西のお茶文化。 大まじめに書いてみようと思います。でも根は楽天家。

最近の記事

物語に寄り添う時間『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

多崎つくるは、東京で大学生活を送っていたある日、故郷の名古屋で濃密な時間をともに過ごした高校時代の友人グループから突然拒絶されます。 心の拠り所ともいえる友人たちを失い、つくるは一時死の淵を垣間見るほどの時期を過ごしたあと、ようやく日常生活を取り戻し鉄道会社で働いています。 しかし、恋人の提案で十数年の時を経て、かつての友人たちを訪ねて、当時の事情を聞く旅に出ます。 これは、物語の最後段で、つくるが友人グループの最後のひとりをフィンランドに訪ねたときの独白です。つくるは

    • 私が私を手助けしてあげるために『「首尾一貫感覚」で心を強くする』

      「守備一環感覚」はSense of coherence SOC」と呼ばれる概念です。 Coherenceは「一貫性」と訳されるけれど、 読後に感じたのは、この3つの感覚を使って、「納得できる」状態になる、ということでした。 ここで大切なのは「自分が」心から納得できる状態なのであって、たとえそれが善意の励ましや助言だとしても、人から「納得させられる」のではないということです。 著者自身は議員秘書を経験し、土下座を何回も見たそうです。 本著で紹介されている秘書たちへのイン

      • 2024年は落合陽一『忘れる読書』であらたな読書体験を

        数多ある書籍の中から読みたいものを選んでいく作業はときに悩ましいものです。 もちろん、自分の興味のあるジャンルを数珠つなぎに読んでいくのも、私の楽しみの1つなのですが、同時に新たな視野、視座を得たいとも思っています。 今年は落合陽一の『忘れる読書』をAudibleで聴いて、その後、書籍も手に入れました。 など もくじを見るだけでもワクワクします。 リストには既読のものもありますが、あらためて斬新で刺激的な読書体験ができそうです。

        • 「じつは……だった」と言ってもいいんだ!東浩紀『訂正する力』

          「リセット」と「ぶれ」のあいだ 「訂正する力」とは何か? それは本書「はじめに」で述べられているこの一節に尽きます。 そのバランスとは「リセット」と「ぶれない」のあいだを行ったり来たりする、もしくは「リセット」しながら「ぶれない」は矛盾しない、ともいえると思うのです。 私はよく「活用」なのか「悪用」なのかと考えます。 「リセット」も「ぶれない」も時に便利な言い訳になってしまいます。 「それはもう過去のことなんだから」と「リセット」して過去を省みる姿勢を排除したり、

        物語に寄り添う時間『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

          壮大かつシビアな人生戦略の指南書『超ミニマル主義』『超ミニマル・ライフ』の読み方

          「軽量化」がもたらすもの この「ミニマル」シリーズは「軽量化」をキーワードに、スケジュール、人付き合い、持ち物、衣服、さらには、睡眠、食事、運動、思考と習慣と、多岐にわたるメソッドがかなり具体的なティップスとして落とし込まれています。 まず一冊目の『超ミニマル主義』の8か条はこちら そして、続編の『超ミニマル・ライフ』では3つの大原則として以下が挙げられています。 アウトドアのスキルの有用性 著者は現在ニュージーランドの湖畔で自給自足+FIREとライフスタイルで生活

          壮大かつシビアな人生戦略の指南書『超ミニマル主義』『超ミニマル・ライフ』の読み方

          幸せな人生とは?『グッド・ライフ』

          「幸福の予測因子」 すこし前まで、こう言われたら口を噤んでしまっていたような気がします。 「幸せってなんだろう?なんて、考えられるだけで余裕がある、昔は生きるのに必死だった」 たしかに贅沢なのかもしれません。でもいまだからこそ「幸せ」を問い直す気運が感じられるようになりました。 本著はTEDトーク視聴者数が歴代10位に入り話題となった、84年に渡る 追跡調査「ライフスパン研究」によって科学的に導き出された「幸福の予測因子」=よい人間関係について書かれています。 「文化

          幸せな人生とは?『グッド・ライフ』

          『オープン・ウォーター』ガーナ系イギリス人写真家・作家の長編デビュー作 知らない世界を知らないまま読んでみる

          著者の経歴を見て、どんな小説なのか興味をひかれました。 読後感は、静かで暗く飲み込まれそうな、でも新しい世界が待っているような。「きみ」と「彼女」がオープン・ウォーター大海原に漕ぎ出していく怖れと高揚が伝わってきました。 そして同時に「わからなくて、残念」も率直な感想でした。 本著には、ゼイディー・スミス、バリー・ジェンキンス、ケンドリック・ラマーといった実在する作家やアーティストが登場します。 たとえば冒頭のシーン。サウスイースト・ロンドンの地下のパブではカーティス

          『オープン・ウォーター』ガーナ系イギリス人写真家・作家の長編デビュー作 知らない世界を知らないまま読んでみる

          ライバルは何人いる?『スマホ脳』『努力不要論』『在宅ひとり死のススメ』からのヒント

          いまどき人と張り合うのはあまりクールとされないし、ライバルと聞いてすぐに特定の誰かの顔が浮かぶほうが珍しいはず。 でも、日常的にSNSで他人の「完璧な」姿を見せられているとどうなるでしょう。 『スマホ脳』 ベストセラーとなった本著で著者アンデシュ・ハンセンは と述べています。 優れた人への尊敬や憧れだけで完結すれば問題ないけれど、同時にうっすらとした焦燥や落胆を積み上げてしまっていないか。 そしてそれは「人は人、自分は自分」と呪文のように繰り返しつぶやいても簡単に

          ライバルは何人いる?『スマホ脳』『努力不要論』『在宅ひとり死のススメ』からのヒント

          『積読こそが完全な読書術である』と『家事か地獄か』を読んだら、あらためて『人生がときめく片付けの魔法』を読みたくなった

          「積読」も「家事」も溜めてしまうことがうしろめたく、いつもスッキリしない。片づけなくては、とモヤモヤを抱えがちです。 この二冊を読んで、共に取り上げられていた『人生がときめく片づけの魔法』を再読することに。「片づけ」が私のなかで刷新されて、新鮮です。 『積読こそが完全な読書術である』永田希 積読上等!とばかりに著者永田希は「ビオトープ的読書環境構築」を勧めています。 私たちは人生で到底読み切れるはずもない大量の書物が波のように押し寄せる世界で暮らしています。そんな世界

          『積読こそが完全な読書術である』と『家事か地獄か』を読んだら、あらためて『人生がときめく片付けの魔法』を読みたくなった

          真実とメディアと私たち『生涯弁護人 事件ファイル』弘中惇一郎

          裁判と聞くと誰でも他人事と思いがちである。 しかし本書を読むと、必ずしもそうでないことが実感として伝わってくる。 2つのパターンがあると思う。 ひとつは、その人の個性がゆえに、その突出した部分に良くも悪くも注目があつまるために反感を買いやすく、牽制がこうじて結果的に攻撃対象になってしまうケース。たとえば、カルロス・ゴーン、小澤一郎、三浦和義、鈴木宗男事件などがこれにあたる。 もうひとつは、普通の暮らしをしているひとがまったくのアクシデントで事件巻き込まれるケース。薬害エイ

          真実とメディアと私たち『生涯弁護人 事件ファイル』弘中惇一郎

          「寝そべり族」は公園で寝そべっているわけじゃない

          『推し活はかどる中国』をパラパラとめくっていたら、「躺平」も取り上げられていた。著者のはちこは「躺平」の日本語として「何もかもどうでもよい」を当てている。 日本のニュース番組などは、公園で寝そべっている人たちなどの映像を使って説明された影響で、本当に日中公園へ行って、一日中寝そべってを過ごしているような印象を持っている人がいるかもしれない。 「躺平」については、中国国内でもおもに上の世代から、こうした若者の消極的態度を批判する風潮が強いと『シン・中国人』で斎藤淳子が述べて

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          台湾に出会う『流』東山彰良

          祖父殺害の犯人を探すうちに、17歳の高校生、秋生は朝の公園で仲間と日本語の歌を演奏して歌う岳さんを訪ねる。 外省人として台湾に来た祖父が日本を懐かしむ岳さんのグループを目の敵にし、いざござがあったと聞いたからだ。 とくに近代以降、台湾は歴史の大きなうねりに巻き込まれ、その過程で簡単に相容れられない異なる背景を持つ人たちが隣り合わせに暮らしている。相手を受け入れられなくても、岳さんのように立場や心情を察することでどうにか折り合いをつけながら暮らしている人もいれば、秋生の祖父

          台湾に出会う『流』東山彰良

          田辺聖子『姥ざかり』年の功ってこういうこと

          1981年(昭和56年)発行。 アメリカでレーガン大統領が就任、イギリスではチャールズ皇太子とダイアナ妃成婚。前年にはモスクワオリンピックが開催され、日本はボイコット。そんな時代である。 主人公の歌子さんは76歳。 といわれても当時の76歳がすぐにイメージできないが、宇野千代が明治30年、幸田文が明治37年生まれで、同年代というところだろうか。 歌子さんは、大阪天満の生まれ。船場の商家へ嫁ぎ、戦後、頼りない夫を盛り立てて会社を再興した。息子が会社を継いだあとは引退、いまは

          田辺聖子『姥ざかり』年の功ってこういうこと

          男性読者の感想が聞いてみたい ジェーン・スー『ひとまず上出来』

          ジェーン・スーのエッセイは、比喩のうまさや、それ、そう思ってた!の言語化能力の高さなど、いくらでもいいところがあるけれど、なんといっても正直さが読者の信用を生むのだと思う。 山田詠美との対談でも 『ひとまず上出来』では「私にもその価値があるかもしれないのに」で、(セレブを謳歌する)「キラキラを思う存分味わえる健全な精神」への憧れと「すっぴんのままコンビニに行って、誰にも気づかれない人生」の匿名性の楽しさのはざまを、なんとも正直に吐露してくれるのです。あけすけではない、大人

          男性読者の感想が聞いてみたい ジェーン・スー『ひとまず上出来』

          ディストピアSFの傑作Apple tv+『サイロ』と小説『一九八四』

          ディストピア小説を読んでいて背筋が寒くなるのは、そこの住民が必ずしも自分たちがディストピアに暮らしていると自覚していないことだ。 Apple tv+ でシーズン1を配信中の『サイロ』は、地下サイロというコンセプトが視覚的に強烈なインパクトをもって視聴者を惹きつける。 地上は汚染されていると信じる住民は地下144階の地下深く掘られたサイロで暮らしている。 サイロ内には螺旋階段がめぐらされ、上層階から下層階の居住階がそのまま住民の階級を反映している。 ところが、機械工ジュ

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          その土地で食べ、生きること『海と山のオムレツ』

          図書館に行くと、返却されたばかりの本を書庫に戻すまで置くためのカートがあって、ここからも本を借りられる。私はこのカートを眺めるのが好きだ。 いろんな人がいろんな本を借りて、世界を広げ深めている。 この本もそのカートにあった一冊。 私の前に借りた人は、イタリアに興味があったのか、それとも料理が好きなのかな?と想像したりして。 そしてなにより『この海と山のオムレツ』というタイトルを見て手に取りたくならない人はいるだろうか? 著者のカルミネ・アバーテは、南イタリア、カラブリア

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