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真実とメディアと私たち『生涯弁護人 事件ファイル』弘中惇一郎

裁判と聞くと誰でも他人事と思いがちである。
しかし本書を読むと、必ずしもそうでないことが実感として伝わってくる。

2つのパターンがあると思う。
ひとつは、その人の個性がゆえに、その突出した部分に良くも悪くも注目があつまるために反感を買いやすく、牽制がこうじて結果的に攻撃対象になってしまうケース。たとえば、カルロス・ゴーン、小澤一郎、三浦和義、鈴木宗男事件などがこれにあたる。

もうひとつは、普通の暮らしをしているひとがまったくのアクシデントで事件巻き込まれるケース。薬害エイズ事件や、交通事故、痴漢冤罪などである。

「真実の究明』というのは簡単だが、それは裁判の判決で証明されるとはかぎらない。時代のムード、担当検事や裁判官といった、いわばあいまいで複雑な要素が絡み合って「判決」となるのだ。

弘中弁護士が裁判の勝敗がすべてではない、と述べているように、裁判はむしろ依頼人がそのトラブルになんらかの決着、あるいは折り合いをつけて、人生の次のステージに進むためのプロセスなのである。

いくつもの事件を通して、他人事だった事件が近づいてくる。それはたとえば「気の毒」といったある種の感情移入とは別の思い、私も無関係ではなかったかもしれないというおそろしさである。

たとえば、メディアが連日報道している内容を積極的に信じるつもりがなくても、繰り返し見聞きするうちに「なんとなく」「何かやったのかも?」あるいは無意識に「悪い人」などのイメージが固定化していることはないだろうか?もちろんそれを声高に批判したり発言したことはない。それでも「世間のムード」を醸成するのはそうした「なんとなく」の集合体なのかもしれない。
三浦和義事件はまさに象徴的な事件だ。

ひとりひとりがニュース、メディアとの距離の取りかたを考えるという意味で「ニュースダイエット」は有効な方法かもしれない。

なお、私は本書をオーディブルで耳読した。オーディブル歴はさほど長くないので、まだ数十冊程度だが、本書はダントツに聴きやすかった。上下2巻で、かなりボリュームがあるが、さすが半世紀のキャリアがある弘中弁護士の著書だけあって、事件の状況や背後関係など、複雑な内容も詳細かつ簡潔に説明されていて、とてもわかりやすく、ナレーションも聞き取りやすいのでおすすめしたい。

「読みたいリスト」に長い間入ったままだった本書をこのタイミングで読むきっかけとなったのが、Apple tv+ で配信されているドキュメンタリー『Wanted: カルロス・ゴーンの逃亡』。こちらも興味深かった。



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