『オープン・ウォーター』ガーナ系イギリス人写真家・作家の長編デビュー作 知らない世界を知らないまま読んでみる
著者の経歴を見て、どんな小説なのか興味をひかれました。
読後感は、静かで暗く飲み込まれそうな、でも新しい世界が待っているような。「きみ」と「彼女」がオープン・ウォーター大海原に漕ぎ出していく怖れと高揚が伝わってきました。
そして同時に「わからなくて、残念」も率直な感想でした。
本著には、ゼイディー・スミス、バリー・ジェンキンス、ケンドリック・ラマーといった実在する作家やアーティストが登場します。
たとえば冒頭のシーン。サウスイースト・ロンドンの地下のパブではカーティス・メイフィールドの『ムーヴ・オン・アップ』、アイズレー・ブラザーズの『ファイト・ザ・パワー』が流れている。
あ、あの曲、とすぐに脳内に流れてきたらどんなにいいだろう。
イギリスに滞在経験があったり、こうしたカルチャーに詳しければ、情景が空気ごと立ち上ってくるような感覚を味わえるのではないでしょうか。
実際のところ、このような背景を知っているかどうかで理解の深さは変わってくるのは避けられないことです。
私はふんわりと表面をなぞっているだけかもしれない。
かといって、知らない世界の物語を読むのが無意味であるかといえば、そうではないと思うのです。
すぐにではなくても、どこかでこの本で感じた何かとほかの出来事が繋がったり、新しい発想の入り口になったりする。そんな経験を経て、わからなくてただもどかしいだけでなく、少しだけおおらかに受け入れられるようになりました。
わかった気にならずに、なんとなく自分の心に芽生えた感覚をそのまま置いておきたいと思います。
https://spotify.link/0M01t2yVaEb
ちなみに、Spotifyに「Open water」のプレイリストがあり、登場する曲を聴くことができます。
本著で「きみ」が「大好きな作家」で「何度も読み返している」と述べているのはゼイディー・スミスの『NW』です。残念ながら未邦訳なので、機会があったら『ホワイト・ティース』を読んでみたいと思っています。