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男性読者の感想が聞いてみたい ジェーン・スー『ひとまず上出来』

ジェーン・スーのエッセイは、比喩のうまさや、それ、そう思ってた!の言語化能力の高さなど、いくらでもいいところがあるけれど、なんといっても正直さが読者の信用を生むのだと思う。

山田詠美との対談でも

 ジェーン 嘘の気持ちを書かないようにするということに関しては細心の注意を払っています。でも、嘘を避けながら正しさを追求していくと、どうしても公明正大なだけの話になっていっちゃうんですよね。

 山田 そうなんだよね。いかに勧善懲悪にならないようにするか。

 ジェーン 自分に関して言えば、「ちゃんとストリートの話をしてるか?」っていう意識は常に忘れないようにしています。それこそ事件は会議室で起きてるんじゃない、っていうフレーズがありますけど。

 山田 現場で起きてるんだ、と(笑)。

 ジェーン そう(笑)。ちゃんとストリート感覚の話をしてるのか私は、っていう自問。

対談 私たちのファーストクラッシュ #2<特集 恋愛に必要な知恵はすべて山田詠美から学んだ>
文學界2019年11月

『ひとまず上出来』では「私にもその価値があるかもしれないのに」で、(セレブを謳歌する)「キラキラを思う存分味わえる健全な精神」への憧れと「すっぴんのままコンビニに行って、誰にも気づかれない人生」の匿名性の楽しさのはざまを、なんとも正直に吐露してくれるのです。あけすけではない、大人のユーモアでもって。

そして「やりたいか、やりたくないかの二択です」は、女性にありがちな「私なんて」の呪縛を解くためのメッセージ。これが『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』に引き継がれて、女性の成功譚を紹介している。


上野千鶴子が『女ぎらい』で酒井順子を「女子校文化をそのまま持ち込んだ書き手」と称したが、受け身としてのモテを意識しないという部分では、ジェーン・スーも女子校的文化の流れを汲む。

いわゆるフェミニズム論者に対する抵抗感は想像できるけれども、女子校的な、あるいはシスターフッド的な書き手に対して、男性読者はどう感じるのか?ぜひ聞いてみたい。


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