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【実録ホラー短編】『公園カップル死体遺棄事件』

Aが住んでいるアパートは、駅から自転車で10分くらい行った所にある閑静な住宅街にありました。

ある日の深夜0時ごろ。                            Aはコンビ二に行こうと自転車に乗って、いつもの道を通りながら、駅前のコンビニに向かいました。

いつもの通り道には、マンションに隣接する小さな公園があります。その日は、その公園の前に1台の乗用車が停まっていました。その時間にその公園に車が停まっていることなんて初めてだったので、Aは少しその車のことが気になりました。

車の脇を通り過ぎながら、ちらっと運転席を見ると、そこには若い男と女が座っていました。                                              Aからは、助手席に座る女の方がよく見えました。が、その顔を見て、Aは声を上げて驚きました。

女の顔は血まみれだったのです。

「うあー! 」

Aは悲鳴をあげて、その場から逃げようとしましたが、ピクリともしない血まみれの女の姿を見て、すぐに冷静になりました。

――これは殺人事件かも?

Aは自転車を停めて、車の中をもう一度よく観察しました。                        運転席に座る男の方も血まみれでした。                  

男女ともに、体中に刃物で切り刻まれたような傷あとがあり、そこから血があふれて衣服を赤く染めていました。顔にも傷あとがあり、男女ともに白目を剥いて口を開け、脱力した状態で椅子の背もたれに寄りかかっていました。二人とも、明らかに絶命していました。

その二人の凄惨な姿を見て、Aはほぼ思考停止状態になり、その場で110番通報するか、駅前の交番に行くか、どうしたら良いのか考えが決まらず迷ってしまいました。

その車の前でモタモタしていると、Aは何やら異常な視線を感じました。                                 辺りを見回しても、誰もいません。                                        気のせいだと思ってもう一度、なんとなく車の中に目を向けると、二人がAを見ていました。さっきまで白目を剥いていた男と女が、血だらけのままAをジッと見つめていました。

「ぎゃー!」

絶叫のような悲鳴をあげながら、Aは自転車を猛スピードで漕いでその場から逃げました。

――明らかに死んでいたのに、こっちを見ていた!

Aは信じられない現象に恐れを為し、「とにかく人のいる所に行きたい!」と強く願いながら、駅前の交番に向かいました。

交番に到着すると、Aはすぐに中に駆け込み、警官に今見てきたものを伝えました。

「公園の車の中に男女の血だらけの死体? 」
「はい! ですけど、もしかしたらまだ生きてるかもしれません。その二人・・・・・・こっちを見ました」

警官はAの話を半信半疑の状態で聞くと、Aにその車の所に案内するように言いました。

Aが警官を連れて再び公園に行くと、ついさっきと同じ場所に車は停められていました。

「あの中です! 」

Aに言われ、警官が懐中電灯で車の中を照らすと、車の中には誰も乗っていませんでした。人はおろか、血痕すらありませんでした。

「人が乗ってたような痕跡はありませんね」

警官は車内を懐中電灯で照らしながら、無感情にそう言いました。

Aは目の前の現実が信じられず、何度も「確かに血だらけのカップルを見たんです! 」と強く訴えました。

警官は、

「まあ、こんな暗い時間帯だし、見間違いだったんじゃないんですか? 」

と穏やかな口調で言いましたが、その言葉には「人騒がせなことしやがって」といったような、Aに対する侮蔑のようなニュアンスが含まれていました。

何も言い返せないAのかたわらで、警官は事務的に、とりあえずといった感じで、車の周囲を懐中電灯で調べて回りました。

「この車はここに乗り捨てられている物なんですかね? 誰か駐車しているだけなんじゃないんですか? 」

警官は車から目を離し、

「ここら辺のどこかに持ち主が――」

そう言いながら今度は周辺をぐるっと観察し始めました。

「ん? 今あそこ光りましたよね? 」

警官が指し示した場所は、車が停めてある公園のすぐ後ろにある、解体中の木造アパートがある場所でした。

そのアパートは、解体のガレキが飛び散らないように防塵シートで囲われていて、そのシートの2階ぐらいの高さの隙間から光が見えた、と警官は主張したのです。

「自分は見えませんでした」とAが答えると、警官は念のため調べに行くと言いました。そう言われるとAも気になるので、一緒に付いて行くことにしました。

アパートの前に到着すると、警官は慎重に防塵シートを開いてその中を覗きました。が、中はもう完全にアパートが解体されていて、その瓦礫が地べたに積まれているだけの状態でした。そんな状態では、調べるも何もありません。

「おかしいな」

納得できない様子の警官と共に、Aは車の所まで戻ってきました。

「とりあえず調べてみたところ、異常は特になかったということで――」

そう言って警官は調査を切り上げようとしました。

「いや、本当に見たんですよ! この車に傷だらけで、血だらけのカップルがいて――」
「見間違いだと思いますよ? さすがに血痕も全然ないし」
「ちゃんと中を調べてみて下さいよ! 」
「調べろって言ったって――」

警官が助手席のドアに手を掛け、開けようとするが、開かない。

「鍵が掛かってますし」

そう言って、残りのドアにも手を掛けて行くと、ガチャッと、1ヵ所だけ開く音が聞こえました。それはトランクでした。

おもむろに警官がトランクを開けると、Aと警官は同時に悲鳴をあげました。

「うわあ! 」

トランクの中には、ジャージ姿の中年の男が目を見開いたまま、胎児のような態勢で収まっていました。明らかに死体でした。

警官は即座に無線で応援を呼びました。その通信が終わると、

「あなたが見たカップルの男っていうのは、この死体の男ですか? 」

とAに質問を始めました。

「いいえ、違います。俺が見たのは血だらけの若い男です」

そうなのです。
Aが見た男と違い、トランクの死体は中年で、しかも外傷が見当たらないのです。血なんか一滴も付いていませんでした。

Aは自分が見た血だらけの若いカップルのことを事細かに説明しましたが、やはり警官は「暗いので、見間違いだったのでは? 」と言うだけでした。

しばらくして応援の警官が到着すると、Aはその場から帰されました。その後、警察があの公園付近をどう捜査したのかは、Aは知りません。

その翌日。
この事件がニュースで報道されました。                               死体の男性は身元不明で、車は盗難車の可能性が高いということでした。 Aが見たと証言した、若いカップルの惨殺死体のことは報道されませんでした。

――あの二人は確かに死んでいた・・・・・・。

あの二人の姿を見た時、Aはハッキリとそう思いました。しかしその次の瞬間、血だらけのまま目を見開き、こちらを見ている二人の恐ろしい姿が脳裏によみがえりました。

――いや、生きていた・・・・・・? 

警官を連れて戻って来た時、あの二人は車の中から消えていた。血痕も何もなかった。
あれは、俺を騙すための芝居だった・・・・・・? 
まさかあの二人が、あのトランクの中年男を殺した犯人? 
 
Aの頭の中を様々な疑問が駆け巡りました。
しかし答えは出ません。
 
薄気味悪い疑念を抱いたまま、Aはその後の日々を過ごしました。
 
数日後、事件の続報が報道されました。
それによれば、車はやはり盗難車だったことが判明し、もとの持ち主の住所も判明。警察がその持ち主のもとを訪ねたところ、そこに死後数日経った男女の遺体があり、検死の結果、その男女の死因は薬物による服毒死だということでした。
 
「服毒死? 」
 
Aはその報道を見て、疑問に思いました。Aが見た男女は、明らかに刃物でメッタ刺しにされたような姿だったからです。毒を飲んで死んだ姿とは、似ても似つかない姿だったからです。
 
あの車は、なんであの公園に捨てられていたんだ? 
あの助手席と運転席にいた血だらけの男女は何だったんだ? 
 
盗難車のトランクに捨てられていたのは中年男の死体。
盗難車の持ち主である男女は家で服毒死。
 
俺が見たものは、いったい何だったんだ!? 
 
Aはとらえどころのない恐怖に襲われ、自問自答を延々繰り返しました。しかし、やはり答えは出ません。
 
ますます嫌な気分を抱えながら、Aはその後の日々を過ごし続けていました。
 
ある日、職場の同僚のBと一緒に、昼の休憩時間に会社の近くのコンビニに買い物に行った時のことです。コンビニの店内に入るまでは普通に話したり笑ったりしていたBが、店内に入るなり急に素っ気ない態度を取るようになりました。                                           Aの方から話かけても「ああ」とか「ふーん」とか、適当で気のない返事ばかりするようになり、しかも全くAの顔すら見ようとしないのです。                                                だんだん嫌な気分になってきたAは、買い物をさっさと済ますと、Bを置いて一人で会社の方に戻ってしまいました。
 
Aがコンビニで買って来たものを食べていると、そこにBがやって来ました。
 
「さっきさあ、ずっとお前に張り付いてこっち見てるカップルがいてさあ、気色悪いやらムカつくやらでさあ、・・・・・・お前、あんなのに貼り付かれてて鬱陶うっとうしくなかったのか? 離れろよ! ぐらい言ってやれば良かったんじゃないの? 」
 
――俺に張り付いていたカップル・・・・・・? 
 
何気なく話すBの言葉に、Aは愕然としました。
 
「俺の後ろにカップルがいたのか? 」
「いたのか? って、なんでお前が気づいてないんだよ! あんだけビタッとくっ付いてんのに。普通に鬱陶しいだろ。
そいつら、お前の肩越しからジッとこっち見てんだよ。気持ち悪くてよ。お前に変なのが付きまとってるの、ずっと前から他の人も結構噂してたんだけど、なんなんだ、あいつら? お前、ストーカーされてんの? 」
 
――俺に変なのが付きまとってる? 
――ずっと前から・・・・・・? 
 
Aの脳裏に、あの日見た、自分の顔をジッと見る血まみれのカップルの姿がよぎりました。
 
――あのカップルが、俺に取り憑いている・・・・・・? 

心当たりがそれしかないAは、「実は――」と、Bに深夜の公園の件を話しました。

それを聞くと、「じゃあ、あのカップルは幽霊だったのかよ!? 」とBは驚き、「その二人を見ちゃったってことは、俺もそいつらに取り憑かれるのか!? 」と恐れを抱いたようでした。
 
Bのその恐怖は現実のものとなりました。
 
それからしばらく経ったある日。                                  会社の上司がBのもとに来て言いました。
 
「君に付きまとっているおかしな二人組がいるようだけど、一人で対処出来ないようなら相談に乗るよ? 」
 
あのカップルは、今度はBの背後に見えるようになったのです。
 
Bは、Aにまとわりつく不気味なカップルを見た人は他にもいるのに、なぜ自分だけ取り憑かれたのか、その時は分かりませんでした――。
 

この後、Aの周囲にあのカップルは現れなくなりました。
しかし、車の中にあった中年男の死体についても、服毒死した男女についても、続報は未だありません。                                   そして、Aが見たという、車から消えたカップルの惨殺死体についても、未だ何も分かっていません。                                     何も事件の続報がないまま、現在に至っています。
この事件があって以来、Aは夜にあの公園付近を避けるようになりました。
 
はたして、あのカップルは何者だったのでしょうか? 
 
その答えは今のところ、AもBも分かっていません。
 
 
※この話は、全てBから私が聞かされた話です。

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