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TDB-CAREE 2022年度シンポジウム 『中小企業・スタートアップの経済学〜エビデンスに基づく戦略と政策に向けて』開催報告

2023年3月28日(火)に、TDB-CAREEシンポジウムを開催しましたので、当日の様子や発表内容についてご報告します。

本シンポジウムは、一橋大学と帝国データバンクの連携・協力協定に基づいて設立された「一橋大学経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(TDB-CAREE)」の研究成果を報告する場として2018年度から毎年開催されています。
今年は、当センター研究員である若手研究者からの発表に加えて、近年注目を集めるスタートアップの支援の在り方についてパネルディスカッションが行われました。

プログラム

14:00 開会の挨拶
 大月康弘  一橋大学 理事・副学長
 岡室博之 一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長

14:05-15:05 第一部: TDB-CAREE発の研究成果
発表1:帝国銀行会社要録データベースを活用した実証研究事例と今後の展望
 高野佳佑 一橋大学大学院経済学研究科
発表2:コスト変動分析が示唆する非上場企業の経営行動メカニズム-コストの下方硬直性に着目して-
 新改敬英 熊本学園大学大学院会計専門職研究科

15:15-16:25 第二部: パネルディスカッション「アカデミアと実務から見たスタートアップ」
16:25-16:30 閉会の挨拶
 後藤健夫 株式会社帝国データバンク 常務取締役/TDB-CAREE 副センター長

司会:原泰史 神戸大学経営学研究科

開会の挨拶

一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長 岡室博之

開会の挨拶は、大月康弘(一橋大学理事・副学長)、岡室博之(一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長)から行いました。

第一部: TDB-CAREE発の研究成果

発表1: 「帝国銀行会社要録データベースを活用した実証研究事例と今後の展望」

一橋大学大学院経済学研究科 高野佳佑

一橋大学大学院経済学研究科 高野佳佑

高野氏からは、TDB-CAREEがデジタル化して提供している「帝国銀⾏会社要録データベース」の紹介と、これを活用した終戦期の大阪における中小企業向け融資制度の評価分析、さらに進駐軍調達要求書データベースとの照合による当時の地域経済動向の実態把握調査の3点を中心に報告が行われました。

「帝国銀⾏会社要録データベース」の紹介

帝国銀⾏会社要録(現:帝国データバンク会社年鑑)は、1912年から刊行されている会社年鑑です。大手や上場企業だけでなく、非上場企業についても詳細な情報を追うことができる貴重な資料です。
TDB-CAREEでは、これを統計処理も可能なデータベースにしており、研究・調査のために提供を行なっています。

終戦期の大阪における中小企業向け融資制度の評価分析

次いで、このデータベースを活用した研究として、終戦期の大阪府が行った、設備近代化融資制度についての実態調査と検証分析の研究成果が報告されました。

戦争や災害という負のショック後には、企業活動への悪影響を緩和するために、政府がどのように経済的介入を行うかが重要な政策課題となります。

しかし、こうした融資制度で対象となるのは、「優秀な企業」とみなされる大手企業に偏りがちになり、中小企業には資源が行き渡らないという「中小企業問題」が存在していました。
大阪府が終戦期に行ったこの設備近代化融資制度は、その融資目的はもちろん、中小企業を対象とした直接融資である点において、非常に先進的な政策でした。

帝国銀⾏会社要録データベースと融資対象企業リストを付き合わせて分析した結果、この融資制度は対象となった企業の年商を増加させており、特に金偏産業と言われる企業で効果が高かったことがわかりました。いわゆる「朝鮮特需」による追い風です。

参考: ディスカッションペーパー「Place-based SME finance policy and local industrial revivals: An empirical analysis of a directed credit program after WW2」
こちらの研究については、このnoteでも後日ご紹介記事を公開する予定です。

進駐軍調達要求書データベースとの照合による、朝鮮特需期の地域経済動向の実態把握調査

先の研究でも朝鮮特需の経済的な効果は示唆されていましたが、さらに特需ミクロデータを用いることで、新たな実証研究につなげる試みの紹介がありました。
特需ミクロデータと、帝国銀⾏会社要録の中小企業データをつきあわせることで、特需を自然実験とした検証ができる可能性があるということです。

特需ミクロデータとしては、進駐軍の物資調達のデータを確認できる「調達要求書綴」のうち、大阪府企業への発注である2647件をデータベース化しており、そのうち208企業、1028件がTDBデータと突合できています。
データを概観すると、朝鮮戦争の前後で、全産業の中で繊維産業への発注比率が大きく増えており、これにともなって発注先企業の所在地傾向にも変化が見られます。

今後はこの分析結果もディスカッションペーパーとして発表し、データベースも研究目的で利用可能なものとして公表していく予定だそうです。

以上、公的統計が存在しない時期でも、帝国銀⾏会社要録データベースの利用により、研究の幅が広がった例としての紹介でした。

発表2: 「コスト変動分析が示唆する非上場企業の経営行動メカニズム-コストの下方硬直性に着目して-」

熊本学園大学大学院会計専門職研究科 新改敬英

熊本学園大学大学院会計専門職研究科 新改敬英

新改氏からは、帝国データバンクが提供する企業財務データベース COSMOS1に収録されている非上場企業のデータを利用した、経営者の意思決定とコスト変動についての定量研究の成果について報告がありました。

このテーマについて、上場企業を対象とした研究は進められている一方で、国内企業の99%を占める非上場企業についてはほとんど研究がないという状況があります。
非上場企業について研究がないのは、データが揃わないことが主な理由となっています。

TDB-CAREEでは、帝国データバンクが収集してきた非上場企業のデータを使えるので、これまでに研究されてきた上場企業での研究結果との対比をしながら検証することができます。

企業活動におけるコストは、一般的には変動費と固定費に分解され、売上の増減に対して必要なコストも同様に増減すると考えられてきました。

しかし、現在の研究では、実際の企業活動において、売上の増減に対するコストの増減率は一定ではないかもしれないと言われ始めています。

例えば、売上が減少したときにコストが同率で減少せず、減少幅が小さくなることがあります。この現象は「コストの下方硬直性」と呼ばれます。
逆に、売上減少に対して、コストの圧縮が急激に進むケースもあり、こちらは「コストの反下方硬直性」と呼ばれます。

こうしたことが起きる背景には、売上の減少を認識・予測した経営者の対応と意思決定があると推測され、コスト調整の遅れや、経営者の利益・資源獲得に対する志向性によるものなど、いくつかの説が提唱されています。

新改氏は、上場企業を対象に一番研究が行われている「合理的意思決定説」について、非上場企業に対しても当てはまるのかをTDBデータをもとに分析しました。

合理的意思決定説では、前期の売上高の増減が、経営者のコストに対する意思決定に影響を与えていると分析されています。
これを非上場企業について追試したところ、概ね上場企業と同様の動きであるものの、一部で上場企業とは異なる動きが見られることがわかりました。

上場企業では前期に売上高の減少が見られた場合、当期の売上高が増加見込みであれ減少見込みであれ、資源を節約してコストを減らす動き(コストの反下方硬直性)が見られます。
ところが、非上場企業のうち特に規模が小さい企業では、前期に続き当期も売上高が減少見込みとなったときに、コストが下がりきらない下方硬直性が現れたということです。

この現象について、新改氏は、規模が小さい企業では前期に続いて減収となる場合に、追加の資源調整コストを負担できず、コストの下方硬直性が現れるのではないかという仮説を立てています。

非上場企業においても上場企業を対象としたモデルが概ね当てはまることが明らかになり、一方で2期連続で減収となる場合には、上場企業とは異なる意思決定メカニズムが存在することが研究の成果として見えてきました。

小規模企業は監査を受けていないこともあって、会計処理について上場企業ほどの厳密性で行われていないことも多いということですが、TDB-CAREEデータを用いることで、国内の99%を占める中小企業についての研究を進められることは、アカデミックにも大きな貢献となっています。

第二部:「アカデミアと実務から見たスタートアップ」パネルディスカッション

司会: 一橋大学大学院経済学研究科 岡室博之
アカデミアの視点:関西学院大学経済学部 加藤雅俊
実務の視点1:Plug and Play Japan株式会社一般社団法人スタートアップエコシステム協会 藤本あゆみ
実務の視点2:フォースタートアップス株式会社 清水和彦

第二部では、スタートアップ支援の状況とあり方について、アカデミアからは関西学院大学の加藤雅俊氏、実務家からはPlug and Play Japan株式会社/一般社団法人スタートアップエコシステム協会の藤本あゆみ氏、フォースタートアップス株式会社の清水和彦氏にご登壇いただき、それぞれの視点・取り組みの紹介とパネルディスカッションが行われました。また、司会は一橋大学経済学研究科/TDB-CAREE センター長の岡室博之氏が務めました。

パネルディスカッションに先立ち「スタートアップの成功要因」研究について紹介される加藤氏

[ご参考] 登壇者資料・リンク

スタートアップへの支援はどこから始めるのがよい?

岡室:イノベーションにつながるような、成長につながるようなスタートアップを支援するためには、どのようなところから始めるのが良いでしょうか。人を繋ぐとか、エコシステムを作るとか、いろいろな話がありましたが、ご意見いただければと思います。

藤本:
まさに今、日本では「何から始めるの?」というところについて、論点が整理されないまま、スタートアップ育成など大きな言葉が先行している状況だと思っています。
それで、昨年の5月にスタートアップ企業にアンケートを取って、何を支援してもらいたいのか、何に困っているのかを聞いて事業ステージごとに分析してみました。そうすると、事業成長のシリーズA〜Dのそれぞれで困っている点が全部違うんですね。
ちゃんとデータを把握して、何が足りていなくて、何をするべきなのかを確認するべきと思っています。
スタートアップの定義すら、もしかしたら誰もきちんと決めていない状態かもしれないです。

岡室:どんな支援をするべきかを考えるときに、スタートアップデータベースをどのよう使っていくかなど、清水さんご意見お願いします。

清水:
スタートアップについて細分化して定義していくのが大事という話もありましたし、データベースもそのように進化していくのが良いのだろうなと思っています。
その上でデータを確認するのに役立ててもらうのがいいかと思っています。
支援側は何が得意なのか、受ける側は何を求めているのかを整理していくことによって、シームレスに支援を提供していくことができると思っております。

岡室:ステージごとに細分化された支援策の重要性や、その時に確認できるデータベースの存在は必要になりそうですね。加藤さん、研究の観点からはどうでしょうか?

加藤:
スタートアップと言っても広いので、起業の前のアントレプレナー個人や大企業からのスピンオフをどのように支援していくのかも大事なポイントかと思います。
成長可能性のある企業をどう見分けていくのかもすごく難しいところです。
地方と政府のやるべきこと、課題も違うので、本当に一律に議論するのが難しいなと思います。

どのようなアントレプレナーを選ぶべき?

岡室:自治体における地域振興支援をみていますけど、確かに大きく違ってます。どのようなアントレプレナーを選ぶかも非常に難しい。研究者からはデータでしか見えないですが、ベンチャーキャピタル(VC)と話すと「私は起業家の目を見て決める」という人もいます。
藤本さん、清水さんには、この辺りをどういうふうに見分けているかをうかがいたいです。研究者がそれを定量的に分析できるのかも加藤さんには聞いてみたいです。

藤本:
Plug and Play Japanは、VC、アクセラレータープログラムの二つで支援しています。
正直、どれだけデューデリジェンスを行なっても、どう成長するかどうかはわからないことがあります。そんな中で、1点だけ「世界に羽ばたくスタートアップを支援する」という基準を持っているので、世界に出て行けそうか、その視点をもっているかどうかを見たりしています。
アクセラレーションプログラムは、もっと現実的で、プログラムの採択決定権を持っているのは大企業なんです。
なので、大企業の皆さんが業務提携したい、このサービスを使いたいと思えるところを重視しています。ある程度プロトタイプや実績があることが条件になってきますね。事業テーマ別に絞り込んで評価したりもしています。

岡室:
世界中に拠点があるということでしたが、都会のスタートアップが主な対象になるんでしょうか?

藤本:
それがそうでもないです。日本なら京都や大阪、地方のケースもありますし、海外に至っては読み方がわからない都市に拠点があるスタートアップもいます。

清水:
選ぶ基準というところなんですけど、支援をする側も受ける側も対等で、選び選ばれる関係にあると思っています。
ある種の性格のようなものがあるので、現実的な資金繰りやデータを超えた先に、話合いをしてみて合意形成できるかというのがあります。
合意形成の先に、さらに課題があるとすると、我々(フォースタートアップス)も規模・ケイパビリティを増やさないと支援もできないという事情があります。そこで何回かサイクルを重ねて、その間も付き合ってもらえるのかとかもあります。
基準については、デジタルにできるものはないかなと思っていますし、できるなら全員とご一緒したいけれども、キャパシティとしてできないことがあるとも思っています。

加藤:
スタートラインとして成長していきそうな企業に支援するべきなのか、成長ができなくて困っている企業に支援すべきなのかという話もありますね。
直接の支援は短期的な効果しか得られないということもあり、環境の方を整えてエコシステムを作ったほうが、長期的には良い起業が出てくるかもしれないという話もあります。最終的に何をゴールにするので変わりそうです。
清水さんの話にあった、投資する側、投資を受ける側の関係性の話について、地方の話を聞いてみると、投資先に対するリスペクトがないこともあるようです。投資する側に技術的な知識がないことが理由のようで、投資側もリテラシーを持つ必要がありそうです。

起業のエコシステムの盛り上げ方

岡室:投資する側と投資を受ける側との関係性については「情報の非対称性」の課題ですね。互いにわからない部分があることで支援が難しくなってしまう。
エコシステムをいかに盛り上げるかという話で、このディスカッションの最後にしたいと思います。

藤本:
理想は、例えばアクセラレーションプログラムを終えたスタートアップに対して、次はこの自治体のプログラムがいいよとか、このVCに行ったらいいよとか、次々にパスををつなげていけるといいなと思っています。エコシステムが活性化していくために、どうやったらやっていけるか皆さんと一緒に考えていきたいです。

清水:
エコシステムのプレーヤー同士の距離が遠いなというのが、課題と思っています。
自分は何度もスタートアップをやっていますけども、個別のスタートアップが政府の方と政策を立案するほどのリソースはないですし、それは政府の方も個別のスタートアップ全てと向き合うことは難しいと思っています。それは大企業や学術研究についてもそうだと思います。
だから、それぞれの間をつなげていく役割がすごく重要だと思いますし、そうした役割を意思ある人たちと担っていければと思っています。
学術研究は政策立案のためにも重要と思っているので、今日、この場に呼んでいただけたことをありがたいと思っています。

加藤:
今までの研究成果に基づくと、短期的にかつマクロレベルの目標を立てるのはあまり良くないです。個人的にはあまり数値的な目標を立てる必要はないのではないかとも思っています。
政府の支援の目的は経済の活性化にあるわけではなくて、市場に任せていても上手くいかないから支援を行なっているので、「経済活性化」の短期的・数値的なところにとらわれるのではなく、もう少し辛抱強く見ていくのがいいかなと思います。ありがとうございました。

閉会の挨拶

最後に、株式会社帝国データバンク常務取締役/TDB-CAREE副センター長 後藤健夫氏より、閉会の挨拶をいただきました。

日本経済を活性化させていくための議論には、情熱や経験、勘も大事ですが、欠かすことができないエビデンスを作っていくのが、TDB-CAREEの重要な使命という言葉で締めくくっていただきました。

まとめ

今回は会場での参加だけでなく、オンライン視聴も受け入れるハイブリッド開催となりました。
一橋講堂での開催は3年ぶりとなりましたが、会場にも多くのかたにご来場いただき、盛会のうちに終えることができました。
会場/オンライン参加いただいた皆さま、まことにありがとうございました。

登壇者集合写真(新改氏は所用により先にお帰りになったため不在)

 参考リンク

(文責: 一橋大学大学院経済学研究科 研究補助員 𡈽肥淳子)


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