見出し画像

ものづくりのプロセス:効率化で見えた大切な学びの場 -久米貴大&チャンヴィタン ワタンヤ-

本日の投稿は、TCPアドベントカレンダーイベント対談企画、第3弾です!
今回対談をさせて頂いた久米さんとチャンヴィタン ワタンヤさん (Fonさん) は日本とタイを拠点に国内外のプロジェクトを手掛ける建築家で、現在はタイのモンクット王トンブリー工科大学にて建築学専攻の非常勤講師としても活動しています。そんな夫婦でもあるお二人にはコロナ禍以降を通して感じたものづくりのプロセス住まいの在り方ついてお伺いしました。

画像3

Bangkok Tokyo Architecture
東京とバンコクを拠点とする建築設計事務所。
2017年に久米貴大、Wtanya Chanvitanにより設立。
http://www.btarchitecture.jp

建築家、大学講師、タイに生活する夫婦として、今年を振り返ってどういった側面に一番大きな影響を感じましたか?

久米:僕たちや学生にも共通することでは、インプット(学び)を得る機会が少なくなっていることに大きな影響を感じる。以前は東京とバンコクを行き来しながら、その場所や時間で色々とインプットをしたり、その他の街、都市、集落を実際に見に行ったりしていて、その経験は少なからず自分たちの建築に影響していたと思う。学生も留学したくても行けないし、海外の建築を見に行くこともできない。結果として、学び方が一方向的になってしまったと思う。大学の授業もオンラインになった影響もあり、生徒自らが何かアクションを起こすことが減り、授業ではこちら側から何か話して、生徒が聞くというスタイルになってしまっている。そういう意味では僕らも生徒も体験的に何かを学びに行くことが難しくなってしまったと感じている。

Fon:私は大学で建築のスタジオ(課題制作授業)を教えているが、以前は生徒と同じ場所でコミュニケーションを取りながら行っていた授業が、スクリーン越しに代わりボディランゲージや表情も読み取りづらくメッセージが伝わりづらくなったと思う。特に一緒にスケッチを描く作業や模型を作りながら話し合って学ぶ機会が減ってしまい、とても残念。建築やものづくりはインタラクティブに学ぶことが大切だと思う。大学のスタジオに集まって課題制作に励むこともできず、生徒同士の意見交換の機会が不足していることが、学生の作品にも表れていると感じる。

松浦:自分も建築出身で、毎日同期と夜遅くまでスタジオにこもって課題作品に取り組んでいたが、今はそれができなくて…家でスケッチ描いたり、模型作るなんて想像できないですね。

対面で行う学びの重要さが明らかになりましたが、インプットの方法ってものづくりや建築において何が本質的に必要なんでしょうか?

久米:オンラインだとどうしてもプロセスが伝えづらいと感じている。たとえば大学のエスキスだと、生徒と一緒に絵を描いたり、悩んだり話したりする時間がある。オンラインでのエスキスだとどうしても結果にフォーカスしてしまう。でも例えば対面しているとこの壁はこうかなとか、やっぱ違うこうだなっていう僕たちと生徒が考えているプロセスをお互いに共有することができるし、それはものづくりにとっては大きなメリットだと思う。やはりものづくりをやっていると、どういうプロセスでその壁が描かれているのか、どういう検討があって、どういう悩みがあって、何を考えてそこに線を描いたか、っていうのがすごく重要だと思っていて。そういう意味で、建築のプロセスにおいては時間と場所を共有するということが一定の割合で必要だと思う。
何れにしてもプロセスを簡略化できる、というのはものづくりの学びにとって大きな変化であって、プロセスの簡略化は効率化でもあり、良いことも悪いこともある。

画像2

久米さんは日本企業にコンピュテーショナルデザインのコンサルティングをしていますが、日本とバンコクを往復できない今、何か変化はありましたか?学生に教えること、社会人に教えること、学びに違いはあるのでしょうか?

久米:コロナを機に日本の仕事はほとんどがリモートになったし、移動時間は無くなり、そう言った意味ではかなり効率的になった。コロナ以前もリモートの方が効率的と考えている人も多かったと思うが、やはり何かきっかけがないと仕事の仕方を大きく変えるのは難しかった部分はある。それがこの状況で変更せざるを得なくなり、望む望まないに関わらず、多くの人が実際に遠隔での作業を試すことになった。例えばハンズオン形式での講習の場合、受講者のパソコン画面を遠隔で操作できたり、受講者はどこからでも講習に参加できるなど、多くのメリットを実感している。その一方で、受講者の顔が見えづらい分、誰が分かってて、分かってないかなどのいわゆる一対一のコミュニケーションは難しくなっている。一対多数のコミュニケーションになると、受講者にとっては質問をしづらいということもあり、リモートの環境の中でどうインタラクティブな関係を作っていくかというのは今後の課題でもある。

そういった状況を踏まえても、社会人に対する講習の場合、受講者は技術の習得を目的としているため、オンラインでの運用は非常に相性がいいと感じている。例えば対面型の講習だと効率的に教えること、多くの人に教えることは両立しづらかったのだが、オンライン型の講習では広い範囲を対象としつつ非常に効率時に内容を伝えることができる。

松浦:そうですよね、移動時間がゼロになり楽になったんですが、逆にリモート会議の数が圧倒的に増えてしまい、最近では作業する時間が無くなってしまったなと感じています。

久米:それは僕たちも実感していて、今までは移動時間や打ち合わせの間の時間(隙間)があって次に向けて準備できたのが、今はシームレスに打ち合わせや授業が入ってしまうので、頭のモードを切り替えるのが大変だと感じている。

Fon:大学でものづくりを教える場合、対面とオンラインは置き換えられるものではなく、対面は必ず必要だし、オンラインはあくまでも追加のツールだと思っている。1カ月に一回は必ず対面で会ってエスキスしたいし、その間にコールするのは良いが、必ず会わないと行けない。特に若い学生やものづくりや建築においてはそう思う。

建築家として僕もよく考えるんですが、Work From Homeが増えることは必ず住宅設計だったり、住まいの在り方に影響があると思うのですが、我々建築家はこの状況をどう捉えるべきでしょうか?

久米:現代の住宅が実は家族を受け入れる器としては不足したものであるということが明らかになったと思う。例えば一般的な家族のモデルをイメージすると、お父さんは朝仕事に行き、お母さんは家に居て、子供は夕方まで学校に行っている。その三人は住宅の中に同時に活動していないという前提で住宅はプランニングされていた。しかしコロナ禍の緊急事態宣言や都市封鎖によって、家族みんなが24時間一つの家に集まる状況になり、都市部に住む多くの人が、今住んでいる家は家族が住むための器としては不足していたことを実感していると思う。

画像3

例えば突然Work From Homeと言われて、自宅で仕事をしようとしてみても、十分に仕事ができるような環境を自宅に作ることができる人は少ないと思う。特に東京はかなり極限の寸法で住宅が作られていて、極端な例だと一人暮らしのワンルームマンションには寝る場所と水回りがあるぐらい、そこでWork From Homeを実現させるためには何かを犠牲にするしかない。このような多くの人も薄々気づいていた状況が、コロナ禍によって大々的に表出した結果、住まいの在り方はこれから変わらざるを得ないと思う。

Fon:タイでも都市に居なくても良いことに気づいた人が多くいて、これから田舎に引っ越したりDecentralizeするような動きは増えていくと思う。実際にバンコクではなく、チェンマイなどの地方の建築のプロジェクトも増えてきている。

松浦:オフィス機能に関してはWeWorkやシェアオフィス使えばいいじゃないという声もあるが、やはり住宅の在り方は変わっていんですかね。

久米それがまさに今までの都市住宅の考え方だと思う。今回のようなことが起きて、都市の機能が一時的に停止した時にオフィス機能はどうするのか、住宅に組み込む必要があるのか。もともと機能は時代とともに変わるものではあるのだけれど、今回のコロナの影響で、機能と器のバランスが少し変わっていくようなイメージを持っている。

以上、バンコクから久米さんとFonさんとTCP松浦のリモート対談をお届けしました。手塚建築研究所の同僚時代から、建築について常に学びを続けているお二人らしく、なるほどなと納得させられました!リモートワークになってから結果に目が行きがちになっていた自分にも気づかされ、ものづくりに携わる者として、改めて創造するプロセスの重要さを心掛けながら良いオフィス空間を作っていきたいと思いました。お忙しいところ、久米さん、フォンさん、ありがとうございました!