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芸能人の"政治的発言"はタブー?(上田晋也のサタデージャーナルより)

映画「空母いぶき」で総理役を演じた佐藤浩市さんのインタビューをめぐり起こった、ネット炎上騒動。

「最初は絶対やりたくないと思いました(笑)。いわゆる体制側の立場を演じることに対する抵抗感が、まだ僕らの世代の役者には残ってるんですね」

「彼(首相)はストレスに弱くて、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらったんです。だからトイレのシーンでは個室から出てきます」

この発言が安倍総理を揶揄しているとネット上で拡散されました。

これに対し、作家の百田尚樹氏が「三流役者が、えらそうに!!」「思想的にかぶれた役者のたわごと」と、痛烈に批判。

さらに、政権「擁護派」と「反対派」を巻き込み騒ぎが広がりました。

なぜこのような騒ぎになったのか。
政治的発言をめぐる炎上騒動から見える日本の問題点とは?


(上田晋也のサタデージャーナル 2019年6月8日放送)

上田晋也:
おはようございます。政治について話すことがタブー視される昨今の日本ですけれども、今日はそこから何が見えるのか考えていきたいと思います。早速なんですけれども、VTRにもございました佐藤浩市さんの件ですけれども、劇作家である鴻上さん、どういうふうに受け止められましたか?

鴻上尚史:
これは、だから別に佐藤さんは特定の人の名前出してるわけじゃなくて…。だから、僕は本当になんで炎上するんだろうというふうに、ものすごく意外でしたけどね。本当に。

上田晋也:
パックンはどんなふうに感じました?

パトリック・ハーラン:
そうですね。特定の首相を馬鹿にしてるわけではなく単純に体制側になるっていう抵抗感があるというのは、僕は役者として、よくある話だと思うんですよ。役者も含めて、芸能界は社会風刺を通して体制に少し抵抗力となる側だと思うんです。炎上するものが全く見当たらないです。

アメリカは毎週土曜日の夜に、一番有名なコメディー番組がありまして、「サタデー・ナイト・ライブ」。で、そこで現役大統領、名指しでド馬鹿にしてるんですよ。あんなかわいいもんじゃないですよ。もう、日本で放送できないぐらい馬鹿にするんですけど。それでも炎上しないぐらいですね。

上田晋也:
だってアカデミー賞の舞台とかでも堂々とね、俳優さんが言うぐらいですからね。

パトリック・ハーラン:
ですから日本は気を使い合う文化ではあるんですけど、特にこの体制に気を使うことは、欧米とは大きく違うなと思います。

上田晋也:
そうですね。富永さんは大学のゼミで、芸能人の政治発言がね、タブー視される日本というテーマを取り上げられたそうですけれども、今回のこの件については、どんな印象をお持ちでしょうか?

富永京子:
佐藤さんの発言で、すごく興味深く感じたのが、「まだ僕らの世代の役者には体制側の立場を演じることに対する抵抗感が残っている」と。ある意味、体制側に対するナイーブさみたいなものが、世代によってちょっと分かってもらえないことっていうのは、もちろんあると思うんですよ。ただ、だからといって、もとのインタビューが政権揶揄とは私は全く思わないです。むしろ、なんというか、批判する側が、先に右とか左とか人をカテゴライズしたうえで、政権批判なんじゃないのって論証をすり替えているような、すごく分断が著しい、現代っぽい、なんていうんでしょうね・・・論争。論争でもないですよね。批判であるというか、揶揄のように感じましたけれどもね。

上田晋也:
なるほど。

龍崎孝:
今、お話にあった、体制側を演じる抵抗感がね、やっぱり私も58歳ですけれども、父は陸軍の兵士ですし、母親は満州の引き揚げ者です。やっぱり個人の生活が権力だったり体制だったり、それに翻弄されたっていうものを、そのまま家庭の中に入ってきてますから、当然やはり抵抗感というのはありますし。だからその、佐藤さんのその認識っていうのは、あっ、私と一緒だと思って、かえってホッとしたぐらいでですね。なんら、私もこの発言に問題を感じるとかはないですよね。


古谷有美:
炎上する政治的発言には、1つ共通点があります。それは体制批判です。

ここ数年、芸能人の政治的発言は度々炎上している。

2017年 ウーマンラッシュアワーの村本さんが原発批判を盛り込んだ漫才を披露した際、バッシングを受け、大きな波紋をよんだ。

昨年、モデルのローラさんがSNSで米軍基地移設計画への反対署名を発信した際にも、各方面から批判を受け最終的に投稿を削除することになった。

一体なぜ日本では、芸能人が“政治を語る”ことをタブー視するのだろうか?
日本ではタブー視されることの多い芸能人の政治的発言。
しかし海外では、当然のように芸能人も政治的発言を行なっている。

去年、歌手テイラー・スイフトさんはトランプ政権に反対する候補の支持を表明。若者にも投票に行くよう呼びかけたのだ。

オスカー女優メリル・ストリープさんは大嫌いなトランプ大統領に扮し、風刺コントを披露したり、障害を持つ記者をものまねした大統領をゴールデングローブ賞の授賞式で痛烈に批判。

これに対しトランプ大統領も、「メリル・ストリープはハリウッドで過大評価され過ぎてる女優のひとりだ」とTwitterで応戦した。

上田晋也:
そのね、アメリカで、いろんな俳優さんが、例えばメリル・ストリープがね、トランプの格好をしてコントをやってとかってあるじゃない。ああいうので、例えばさ、炎上でもいいし、その後の仕事がやりづらくなるとかっていうのはあるの?

パトリック・ハーラン:
まずないですよ、基本。例えば、左にはマッド・デイモン、アンジェリーナ・ジョリー。右にはシルベスター・スタローンとか、シュワルツェネッガーとか。

鴻上尚史:
マッチョばっかりじゃないですか。

パトリック・ハーラン:
アクション系は、なぜか右なんですけど。両方いるわけですよ。両方、十分仕事できてるんですよ。潤ってはいる。言ってることを、反対されることを、お互いにひるまないで言い合って、議論はできる。

鴻上尚史:
テレビ局も、だからはっきりしてますよね。FOX系は、つまり、右側の人たくさん呼ぶとかね。だから、日本もだからね、例えば本当にこの局は右に行きます、こっちは左を呼びますみたいな、もっとはっきりするといいかもしれない。

パトリック・ハーラン:
そう。変な話、政治的な発言をしたからといって注目されることもないんですよ。普段からやってるから。たまに注目されることは、えっ?そんな人が?っていうときですよ。

上田晋也:
今まで言わなかった人がとか?

パトリック・ハーラン:
中間選挙です。2018年、テイラー・スウィフトさんは、今までほとんど控えてましたけど、私、今回投票します。このご時勢で、黙っていられないって言って、投票を呼び込んだだけで、うわっと波紋が広がって、実際に選挙登録がそのあと急増したんです。なんで注目されたのかといいますと、彼女はどっちかというと、シュワルツェネッガーとかと同じような田舎の皆さんに支持されるカントリーウェスタン音楽から出てきたポップスターなんですよ。だから、今までも右の方に支持されてて、それでもトランプ批判に聞こえるようなことを言ってしまった。勇気あるなと。それがむしろ褒め称えられ、仕事が増えたと思いますよ。

上田晋也:
なるほどね。

パトリック・ハーラン:
日本で仕事が減る。アメリカで仕事が増える。全く逆効果ですね。

上田晋也:
そんな、なんでしょうね。なんで最近このね、芸能人が、この政治的発言をしちゃいけないって言われ出したのかも、僕はそもそもがよく分からないんですよ。だって、別に民主党政権のときだって、いっぱい言ってたし、ね。その前の、じゃあ、麻生政権、福田政権、その前の安倍政権のときも言ってた。でも、そのときの安倍政権で別にこんな空気はなかったですよね。

鴻上尚史:
いや、もう本当に。だから、政治的発言が問題なんじゃなくて、実はよく見ると、政権を批判してるっていうか、反体制側の人たちが問題になってるわけで、要は首相と一緒に飯食ってるのは誰も炎上してないわけですよ。なんで、こんな・・・スリーショットで盛り上がってたりとかね、会食したりとか。じゃなくて、だから、すごい慎重に言わなきゃいけないのは、政治的発言がまずいんじゃなくて、政権に対する批判に対して、すごく炎上するようになってるのは、すっごくヤバイと思いますね。

上田晋也:
ねえ。いや、本当に不健全といいますかね。

鴻上尚史:
いや、本当に危ないです。

上田晋也:
なんで最近、こうなったんでしょうね?

パトリック・ハーラン:
まず1つはSNSの普及だと思うんですよ。前は、どっかで文句言ってた人が、居酒屋で飲みながら友達に、あの人ひどいこと言ったねって2人だけで炎上してましたからね。それで今は、無数の方に広まって、昔は目立たない人数。今はSNSのおかげで、炎上効果というものが見られるだけかもしれないです。


古谷有美:
こうしたネットでの炎上という件では、実は去年、他局の番組ではあるんですが、「笑点」という番組の中で、とあるやり取りがありました。「うるさくて耳を塞いでいる人が言ったひと言」という大喜利なんですが、今日は、ちょっとそこを一節、再現してみようと思います。私がひと言言いましたら、上田さん、春風亭昇太さんのように、どうしたの?と聞いていただけますか?

上田晋也:
ああ、はいはい。それは、もう光栄だわ。

古谷有美:
お願いいたします。それでは…。安倍晋三です。

上田晋也:
どうしたの?

古谷有美:
トランプ氏から国民の声は聞かなくていいと言われました。

上田晋也:
なるほど。

パトリック・ハーラン:
うまいじゃないんですか?

上田晋也:
これは、もう座布団あげてくれっていう話にね。

パトリック・ハーラン:
あげますよね。

古谷有美:
ただ、こうしたやり取りの中で「トランプ氏は実際には安倍総理には国民の声、聞かなくていいよなどとは言っていない」という批判が噴出したということなんです。

上田晋也:
ええ?大喜利にまで言い始めたの?

古谷有美:
はい。

上田晋也:
大喜利だよ?

古谷有美:
大喜利なんですが…。

パトリック・ハーラン:
実際にないことだから、社会風刺ですよね。

上田晋也:
いや、だったらね、じゃあ、こう「笑点」でね、安倍晋三ですって語るのはけしからん!っていうんだったら、安倍総理自身が吉本新喜劇に出るのはどうなの?って、僕は思いますけれどもね。

鴻上尚史:
すばらしい。それを、だからゴールデンで言えない現状に今なってるのが、日本で、ヤバイわけですよ。

上田晋也:
そうですよね。

鴻上尚史:
こういう早朝のね。今なら言えるんだけど。もう、だってジャニーズさんと飯食って吉本さんの舞台に出たわけでしょ。無敵ですよ。

上田晋也:
いや、ごめんなさいね。ごめん、ちょっと今日のね、話とは多少ずれるかも分からないんですけどね、前はね、芸人がなんかね、テレビで言っても、また芸人が馬鹿なこと言ってるわって、なんか上から見てくれてた感じがするんですよ、視聴者の人って。それがね、いつのころからか、なんかね、我々を同等で見てくれ始めたのかな。

鴻上尚史:
たけしさんだ。あの人がお笑いとか言いながら、世界的アーティストになっちゃったもんだから、お笑いっていう言い方に逃げ道が塞がれたのかもしれません。

上田晋也:
いやいや、でもたけしさんもね、そういうポジションで、いやいや、もう俺なんて、どうしょうもねえ芸人だからって、いまだに僕はおっしゃってると思うんですよ。だから、いやいや、僕ら芸人ですよ。常識とかね、モラルとかより、なんか自分が言いたいことを優先しちゃう人間なんですよ。そんな目くじら立てるような相手じゃないですっていうのが、僕は正直なとこなんですよ。

パトリック・ハーラン:
しかも、その肩書がボケ役じゃん。ボケてるっていう時点で、真に受けないでほしい。

上田晋也:
だから、なんかね、芸人が言うことに、そんなムキに…。でね、僕がまだ学生のころとかってね、例えば、じゃあ、大喜利でもいいですし、なんかね、風刺するようなことがありました。なんか。でも、この人、今、本気では言ってないな。これを言えばウケると思って言ってるなというのも、なんとなくジャッジできてたと思うんですよ。なんか、そういうゆとりとか、なんかこう、ふわっとしたジャッジみたいなのも、今一切なさそうな感じがしちゃうんですよね。


鴻上尚史:
だから逆に、ゆとりが…。あっ、俺でも発言できちゃうんだっていう、ふわっかもしんないけど、言っちゃおうっていうことの力を与えたわけですよね。それはすごくプラス面もあると思うんですよ。でも、僕らだからSNSっていうのがまだ使い慣れてない、すごい武器を手にしてしまったので、やっぱりよく分かってない人は、切り方を間違えるっていうか、っていう気がすごいしますね。

パトリック・ハーラン:
よろしいですか?

上田晋也:
どうぞ。

パトリック・ハーラン:
僕は、その声が上がるのもすごく大切だと思うんですけど、ひるみすぎてるのがいけないんですよ。

パトリック・ハーラン:
だから、炎上した。うわっ、控えよう。うわっ、燃えてしまう、反対意見が出てしまうから言わないって自粛するのはいけないと思うんですよ。

富永京子:
いや、学生とか炎上の恐れがあるって友達からすぐ言われたら、すぐ消しますから。すみません、話さえぎっちゃって。

鴻上尚史:
いや、いいんです。そういう番組みたいですよ。

パトリック・ハーラン:
でも、そういう炎上だけじゃなくて、普段から、あんまり議論しないじゃないですか国民として。

上田晋也:
日本人ね、そういう、まあまあ、民族ではあるかもしれないけどね。

パトリック・ハーラン:
だから反対意見を言われることに慣れてないからビックリするかもしれないですね。

上田晋也:
富永さんが教えてらっしゃる大学生は、この、芸能人が政治的発言をすることについては、どんな感想を持ってる感じですか?

富永京子:
そうですね。まず、政治っていうのは勉強しなきゃ関わっちゃいけないと思っているというか、政治的な意見というか関心はそれなりにあるんだけども、いや、でも、私そんなに勉強してないから、ちょっと発言したくないです。発言したくないというか、足りてないんじゃないかと思っちゃう。で、それでいうと、芸能人でも例えば、たけしさんとか年長であったり、知識があるような人が言うならともかく。例えば比較的若くてポップで売っているような、よく分からないですけど、ローラさんとか、りゅうちぇるさんとかの発言だと、えっ?そんなに…。ノリでじゃないですけど、感情でしゃべっちゃっていいの?みたいな。その、よく分からないのにしゃべっちゃっていいの?みたいな感覚を持ってる子は、かなり多いんじゃないかなというふうに思いますね。

上田晋也:
そうですか。別によく分かってなくても言っていいんですけどもね、別にね。

古谷有美:
さて、芸能人の政治的発言に関しては、こういった質問がありました。

こちら、2019年、今年の5月3日、憲法記念日の日に朝日新聞が世論調査特集を行った中で1つの設問として設けられたんですが、芸能人が政権批判を行うということに対して、問題はないと答えた方が全体の65%。一方で、問題があると答えたのが29%、およそ3割。こういった数字、あるいは、こういった設問自体、どう捉えたらいいんでしょうか?

上田晋也:
いや、ちょっとビックリですね。30%近い人がね、問題がある。なんで、問題があるというふうな認識なのかっていう。

鴻上尚史:
これは朝日新聞なのに30%あるっていうのがビックリしますよ。

パトリック・ハーラン:
確かに。

上田晋也:
鴻上さん、どうですか。例えば、鴻上さんご自身も、ねえ、そうですし、例えば俳優さんですとか、周りの文化人の方々とかも、今なんか政治的な…。まあ、政権批判というんですかね、やりづらいよねみたいな空気ってありますか?

鴻上尚史:
いや、もちろんありますよ。ありますし、ネットで、それこそ発言したあとに、どれだけ、粘着されるかっていうか。それがね…いわゆる建設的な議論ならすごくいいんですよ。だけど、大体そうじゃなくて、印象で全部語っていくみたいなね。僕、『不死身の特攻兵』っていう、9回特攻に出て9回帰ってきた人と会って、しゃべって、本にしたんですけど。それは最初、リベラル側からすごく評価されたんだけど、『SAPIO』っていう、いわゆる右と思われている雑誌が戦争特集で、ぜひインタビューしてくれっていうから、もう戦争だからといって、答えたんですけど、そしたら今まですごく評価していた、いわゆる左側の人たちが、『SAPIO』という雑誌に出るっていうことは、とうとうお前も売文右翼になったのかみたいな。もうね、何も読んでないんですよね。その記事をね。

上田晋也:
載ったというだけで?

鴻上尚史:
載ったというだけで。そのメディアに載ったというだけで、もう左側から、ポーンと、はんこが押されるわけですよ。それまでは左側は、よくぞ特攻の本質を書いてくれた。それで右側の人たちは、お前は特攻で死んだ方を馬鹿にするのかとかね、全く誰も読んでないわけですよ。だから、読んでって、そのうえの議論ならいくらでものるんだけど、本当にね、その炎上のときって、議論の質が悪いんですよ。だから、だんだんね、これを相手にしてるとね、自分が朽ちていくっていうか、錆び付いていく気持ちになっていくんですよ。

富永京子:
芸能人に対する、芸能人の政治的発言に対する反応も、賛成か反対かみたいな。すごい悪い意味でのディベート文化っぽくなってるかなっていう感じはすごくするんですよね。だから、なんというか、もうちょっと議論を開くというか。お前は、どっち側だみたいな話じゃなくて、それとは違う論点を見つけることが必要かなと。私、すごい印象的だったのが、ローラさんが発言されたときに『サンジャポ』か何かで太田光さんが、ローラはモデルだからファッション業界に身を置くモデルで、ファッションショーにおいて、デザイナーが、ある種の政治的メッセージ、革を使わないとか、その素材どうするみたいな話。

そういうもので自分の政治性を表すのは当たり前だと。だから、そういう…こういう記事に照らして、自分のいる業界の基準で、政治的なメッセージを発する、非常に自然なことなんだというのをおっしゃってて、それはいわゆる、「どっちにつくか」みたいな話に回収されない議論として、すごく印象的だったんですよね。

上田晋也:
なるほど。確かにね、太田さん、そうおっしゃってました。ただ、1個だけ付け加えると、太田光はファッションのこと、なんにも分かってませんけどね。いつもピョン吉のTシャツしか着てない男ですから。


上田晋也:
ただね、龍崎さん、どうでしょう。でも、確かに、政権批判できない、やっちゃいけないみたいな風潮っていうのは、どんどん世の中が萎縮していくような気がするんですけれどもね。

龍崎孝:
先ほどの政権批判というお話もありましたけど、やっぱり政策…出てきた政策にはね、やっぱり立場が違えば賛成も反対もあるわけですから、それは当然この議論としてですね、尊重していくべき話。それから、もう1つやっぱり見ていくのが大事なのは、その政策を決定していくプロセスがやっぱり正しいか。フェアであるかどうかということが大事だと思うんですよね。

むしろ、そこが一番大事なところであって、やっぱ、そこのところの批判がきっちりできるような社会が、っていうか環境がですね、維持されてないといけないわけですよね。そこのところをすっかり抜きにして、結果だけでたたき合っているっていう。その貧困さみたいなものは最近出てきているなというふうに思いますね。

上田晋也:
なるほど。パックンもね、いろいろな政治的発言を求められること、そりゃ仕事上ね、多いと思いますけど。どうですか、正直、その圧力を感じたりとかしますか?

パトリック・ハーラン:
正直、僕は「政治的な発言に気をつけてください」と言われたことは何回かあります。

上田晋也:
ああ、そう。それはディレクターとかに?

パトリック・ハーラン:
ディレクター、あとは事務所?あの…。ぶっちゃけ弱小事務所なんですよ。かばいきれないのは事実なんです。

鴻上尚史:
そうだね。そりゃ、そうだよね。

パトリック・ハーラン:
ただ、やっぱり気を使うんです。言い切らないで、疑問形にしたりして。こういう政策に対して、こういう批判の声も世の中から出てきているような気がしなくはないんですけど、そういうことをおっしゃる方に対しては、どう答えますか?と。

上田晋也:
どんだけ守ってんだよ。

パトリック・ハーラン:
俺じゃないよという雰囲気を。

上田晋也:
汚いわ、手法が。まあまあ、でも気持ちは分かるけどね。

古谷有美:
芸能人が政権批判をするとたたかれてしまう一方で、政権に近い立場の芸能人は、どう見られるのか。最近、こんな話題がありました。

「毎年4月、総理主催のもと新宿御苑で行われる「桜を見る会」。
1万人もの各界の著名人、スポーツ選手、芸能人を招き盛大に開かれているが、今年の出席者の中には、パックンの姿も・・・
この会の費用が年々膨らんでいることも問題視されている。

「30年度は5200万を超えていると。予算額からすると3倍になっている。この予算の計上の仕方は明らかにおかしいと思うんですよね。」(立憲民主党 初鹿明博衆議院議員)

さらに安倍総理は今年に入り、人気芸能人との会食や吉本新喜劇への出演など芸能界との交流が著しく目立つ。

また、SNSではハッシュタグなども使いこなし若い世代へのアピールにも余念がない。ただ、こうした動きは政権批判に比べ、バッシングはされてはいないようだ・・・。

上田晋也:
確かに選挙前だからなのか、芸能人とね、総理が会食したなんていうニュース、ちらほら目にしますけれども。パックンも行ってたんだね。初めて?桜を見る会は?


パトリック・ハーラン:
いや、4回目。

上田晋也:
あっ、4回目。

パトリック・ハーラン:
4回目。

鴻上尚史:
弱小事務所を守るために?

パトリック・ハーラン:
でも、確かにね、批判されることはあるんですよ。お前が一緒に並ぶと安倍政権に加担するぞ、するじゃん。お前が助長してるじゃん、というふうに批判されることあるんですけど、僕は例えば、この間のトランプとの記者会見で、質問に答えてない安倍さんのことをはっきり言わせていただく。それでも呼んでいただくんです。僕は憲法改正反対なんですけど、それでも呼んでいただける。僕は大人ですから、呼ばれたら行って、笑顔で議論できるようにしたい。

上田晋也:
どうなんでしょうね、富永さん、政権批判するとたたかれるという風潮が今ありますけども、政権擁護すれば、するで、またたたかれたりなんていうのはあるんですか?

富永京子:
そうですね。例えば芸能人とか有名人が政治家でもそうですし、右だ左だとか、何々党寄りだみたいなことは、政治的立場、政権の擁護か批判かを問わず、よくあることだと思います。そういった、首尾一貫してなきゃいけないみたいな空気がものすごいあると思うんですよね。その首尾一貫してないやつというか、何かに擦り寄ったように見える人をたたくっていう声が大きくなっていることで、素朴な意見みたいなもの。あるいは首尾一貫してない、ずれのある態度みたいなものがとりづらくなってんじゃないかなと思ったりはしますね。

上田晋也:
鴻上さん、でも勝手なイメージですけれども、政権批判するとね、たたかれる。でも、政権擁護のほうがそんなにたたかれてるイメージは…。

鴻上尚史:
いや、ないです。いやいや、たたかれてないと思いますよ。でも、対案を出せっていうのがすごい出てきて。

つまり、何か批判したら、いや、批判だけすんじゃないよ、お前、対案を出せよって。対案もないやつは黙っとけっていう。でも、僕ら有権者は対案を考えるんじゃなくて、それはやめてって言う権利はね、あると思うんだよね。でも、いつの間にか、だから、若いやつが政治のこと言いにくくなったのも、お前そんなに偉そうに言うんだったら対案出せよっていう。批判は誰でもできるんだよっていう言い方がね、いつの間にかね、すっごい定着してるんですよ。

富永京子:
そうそう、社会って政治って、みんなのものなんだから批判する人と対案作る人って別でいいと思うんですよ。でも、それが分からない、分かってもらえない空気みたいなのがすごくありますね。

上田晋也:
なんでしょうね、やっぱりちょっとでもそういう声を封じたいみたいなところが龍崎さん、あるんですかね?対案出せって言えば、もう言えなくなるだろうみたいなところも含め。

龍崎孝:
あの…。対案を出せと言いつつね、私は、じゃあ、向き合って対案が出たときに、ちゃんとした議論をするかっいったら、その気はないんだと思うんですよ。やっぱり、私は今の批判の風潮っていうのは、物事をよくして議論をしていこうっていうことじゃなくて、むしろ、自分がこいつをたたいている。たたいていることによって、振り向いた仲間が拍手をしてくれる。そこに酔ってる感じが私はすごくある。つまり、向き合ってる議論じゃなくて、振り向いて議論をしてるという感じ。

富永京子:
なんか対案出せって、すごいマウンティング感がありますよね。

龍崎孝:
ええ。だから、この間に川を挟んで、決して、ぶつかり合うことはない。そういう安全地帯にお互いいて、後ろの賛同する人に、どうだ、俺言ったぞと。ワーって拍手される。で、どんどん盛り上がっている。

鴻上尚史:
それをSNSは可能にしちゃったんですよね。つまり、昔は新聞でも、自分の好きな意見と嫌いな意見が載ってたんだけど、今でもトランプがどうしたみたいに読まなきゃいけない。だけど、SNSとかネットは自分の読みたいものだけで一生が終えられる量を、もう準備されてるので、右だろうが左だろうが、自分の読みたいもので人生を本当に、なんか終えられる量を持っちゃったんですね。

パトリック・ハーラン:
その現象、うまく表す英語表現はあるんですよ。エコーチェンバーというんですよ。

ご存じだと思うんですけど、反響室っていう意味ですよ。昔は部屋に集まって言った意見に対して違う意見が返ってくる。今はSNSなどで同じ同意見の人ばかり集まるから言ったことに対して全く同じことが返ってくる。つまり、言霊みたいに「トランプ嫌い」と言ったら、みんなトランプ嫌い、トランプ嫌い、トランプ嫌いって。

鴻上尚史:
エコーチェンバー?

パトリック・ハーラン:
エコーチェンバー。自分の気持ちを確認するだけの議論になってます。

古谷有美:
政治について語りにくい今の日本。一方で、政治について話しやすい日本にしようという、こんな動きもあるんです。

2015年公職選挙法が改正され有権者の年齢が18歳に引き下げられた。それにともない教育現場では新たな取り組みが始まっている。

東京都立高島高校は社会科の授業のなかでも特に政治経済に力を入れている。
「なにか課題はありますか?」(生徒)

この日は高校生たちが近所の住民から街の魅力と課題を聞き出していた。

「商店街が発展してない」(住民)

高島高校では週に4時間、こうした授業を行うことで政治意識が高まっているという。

「今年に入るまで政治にあまり興味がなかったのですが、この授業を受けて政治に興味持つようになりました」(生徒)

「ニュースの言葉がだんだんわかってくるのはちょっとおもしろいですね」(生徒)

「自分から遠いことだと思っていたことも授業を通してもっと身近に感じられて」(生徒)

「国作りは皆でやるもの。国民一人一人がちゃんと考えをもってすることだと思うので言うことは大事だと思います」(生徒)

指導をする大畑方人先生は・・・

「政治の発言をすると意識高い系と思われがだと思われがちですが、そのバリアを超え自分の意見を言えるのがかっこいいと思えるような若者文化でありそういう社会になってもらいたいと思います」(大畑方人先生)
若者と政治を結びつける試みは学校以外の場所でも…

「政治に興味持てるときの重要なポイントとしてわかりやすさ、あとキャッチーさ」

マンションの一室で開かれていたのは様々な社会問題について自由に語り合う集まりで、東京、広島、福岡など各地で定期的に開催されている。

「高校生だと政治の話とかする?」

「煙たがられます。正直自分の友達とはあんまりそういう話をしたいとは思わなくて」(高校生15歳)

「生活してて他のところで政治が勝手に動いてシステムとしても動いてる感覚があって自分たちが変えられるって感覚がないのでそこが無関心なところ」(21歳)

このような議論を楽しみながら政治についての意識も高めようという試みなのだ。

会の主催者は…
「とにかく人としゃべって自分の意見をゆっくり温めていくのが楽しいなって。直接会うというのが楽しいなっていうことをわかってほしい」(「人間集会」の主催者・響心総理さん)

「みんなで思うことがあってそれに対してどう思うかって話してってシンプルに楽しかったです」(高校生15歳)

上田晋也:
非常にいい動きだなと。若者もね、発言できる場があれば、発言したいんだなと思いましたけど。鴻上さん、いかがだったでしょう?

鴻上尚史:
いや、だって18歳にね、選挙権、引き下げたわけだから、僕の出身の愛媛県は、でも、引き下げたあと、すぐに政治的な集会とか活動をするんだったら届け出ろって。学校側に出せっていうのがあって。

そんな思想信条をなぜ他人に見せなきゃいけないんだっていうんで、もめたんですけど。だから、大人にさせようとしてるのか、子どものままでいろって言ってるのか、全く矛盾していると思いますね。

上田晋也:
その辺、アメリカの政治教育は、どんな感じになってるんですか?

パトリック・ハーラン:
まずはですね、2016年、大統領選挙。ヒラリー・クリントン大統領…。ドナルド・トランプのときは、僕の友達、アメリカの保育園、幼稚園に子どもを入れてるんですけど、5歳児ですよ。翌日、どっちがいいかディベートをするから、親に聞いてこいって先生に言われて。翌日、5歳児ですよ。

が、やってきて、私だったらどっちに票を入れますって言い合わせるんですって。好きな漫画のキャラクターがドナルドダックだから、僕もドナルド・トランプにします、みたいな。それぐらいでもいいから意見を示せって。この若いころから、ずっとそういうふうに育ててんですよ。これは政治教育、学校によっては先生が右だったり左だったり、個人的な意見も言うんですけど、生徒からの意見も聞くっていうのはアメリカのスタイル。そこで、いいこととして、自分の意見が言えるようになるんです。ちょっと悪いこともある。これ、ぜひ気をつけていただきたいんですけど。専門家の言うことを聞かなくなるんです。

上田晋也:
なるほどね。

パトリック・ハーラン:
エキスパートの言うことを聞かないから。アメリカは半分ぐらい国民が温暖化とか信じてないんですって。

はい。昨日、雪降ったじゃんって。俺の周り暑くないよっていうと、専門家の見解を否定する国民も出る。これ、ちょっと行き過ぎです。意見が言えるようになっても、ちゃんとした情報を求める。これ、いいバランスが取れた形を日本が目指せばいいかなと思います。

上田晋也:
確かにね。ただ、龍崎さん、義務教育においては政治的なことは好ましくないって、やっぱあの教えっていうのは、なんかいまだに脈々と受け継がれてるというか大きいですよね、影響。

龍崎孝:
やっぱり教員のほうにも問題があるんだと思いますね。やっぱり、教員は実は、今はもうかなり少なくなりましたけれども、私がやっぱり義務教育だったり、高校にいたころは、日教組に入ってる、加盟している先生方はたくさんいましたよ。つまり、日教組の労働組合活動がイコール政党支持の政治活動になって、それをやっぱり教育現場に持ち込むことはよくない。そういう時勢もあるわけですよね。

だから、いきおい全ての政治の問題については触れないと。教室の中ではという、ある意味変な自制をずっと続けてきた。それはある意味自分たちの活動を守るためだったと思いますけど。それが長らく続いていくから、ある意味放置されてきた。これは教師の側の、やっぱり問題だったと思うんですよね。それは、もう日教組の組織率も、かなり減ってきましたしね。そういう意味でいえば、労働と政治に関する教育っていうことですね。やっぱり、やれる時期には今きている。そこに、やはり教師自身がやっぱり気づかないといけないって思いますよね。

上田晋也:
なるほどね。ただ、鴻上さん、公の場で政治的な発言もそうですけど、なんか、身内、家族の中でも、あんま政治の話とかってしないほうがいいのかななんていうの、ちょっとあったりしますよね。選挙で誰に入れるとか、それは言っちゃだめ、言っちゃだめみたいな。

鴻上尚史:
でも、本当に本当になんでこうなったんでしょうね。だって、ほんの40~50年前は本当に政治の季節でね、親と、父と息子が体制と反体制でぶつかって大議論するとか。いくらでも夫婦間であったわけで。だから、本当に極端から極端に揺れるんですよね。これが本当によくないと思いますね。

上田晋也:
そうですね。

パトリック・ハーラン:
アメリカだと、あるあるですよ。クリスマスとかサンクスギビング、感謝祭のときに親戚みんな集まって、10人とか15人いれば、必ず1人、2人、変なやついるんですよ。で、政治的な議論になると、もう全部崩壊してしまう。結局、みんな怒りながら、おいしくもないターキーを食べて。
で、終わったときに、帰るときは、「お前間違ってるけど愛してるよ」と言って挨拶をする。

富永京子:
少年漫画みたい。

パトリック・ハーラン:
相手も、「お前も間違ってるけど愛してるよ」って言って。

上田晋也:
そうか、あんまり日本では、そういう光景は見かけませんよね。

上田晋也:
なるほど。鴻上さん、どうやれば日本でも、この自由に政治を語れるような空気になっていくんでしょうね。

鴻上尚史:
いや、こういう番組を積み上げていくしかないと思いますよ。

上田晋也:
でも、コツコツやっていくしかないんでしょうね。

鴻上尚史:
いや、もう本当にコツコツやっていくしかないですね。だって…。でも、現状は黙ってると、どんどん悪くなることだけは、はっきりしてるので。やっぱり、みんな忖度して、みんなしゃべんなくなることだけは、はっきりしてるから、やっぱり言い続けるしかないですよね。

上田晋也:
富永さんは、どういったところが必要になってくると思われますか?

富永京子:
生活と政治を結びつけるような手立てを、先ほどの太田さんのコメントのように示すことだと思います。例えば、LGBTの友達がいるとか、奨学金借りてるとか、外国に実はルーツを持っているとか。そういうような要素って当然、候補者、選挙の候補者を選んだりとか、政策を選んだりとか、どの政党を選んだりっていうことに確かにつながってると思うんですけれども、親とか学校が、その手立てというか、回路を示せてないように思うんですよね。もう1つは、そういう利害っていろいろ変わると思うんですよ。あるときは、奨学金借りてたと思うけど、お金持ちになって、関心が薄くなりましたと。それでもいいって示すことだと思います。間違ってもぶれてもいいんだよっていうのを示す。正解みたいなものはないけど、今の自分の考えてることでやってみようよっていうのが大事なのかなと思ってますね。

上田晋也:
なるほど。パックンはどう思われますか?

パトリック・ハーラン:
僕は今日、例えばネトウヨからの炎上によって、みんな口を慎むようなことはだめだと言いましたけど、僕は本当に強く反論してほしい。で、その代わりに書き込むときは、もう少し具体的なことを書いていただければと思うんです。ですから、さっきから話に出てるんですけど、ただ批判するだけではなく、対案もというときは一般人が政策まで考えなくてもいいけど、こういうところ、どうですか?間違ってないのか?って、こういうところまで考えられませんか?という、少し議論を広げるような書き込みというか反論がほしいなと。僕、大体ネットで、ネットじゃなくてテレビでなんか言って、反論がくるときは具体的な指摘ではなく、「国に帰れ!」とか。


上田晋也:
自由闊達な議論を許さない空気というのは世の中をどんどん萎縮させ、閉塞感のある社会を生み出してしまいます。自分と考えの違う意見を封鎖しようとすることは、ひいては自分自身の首を絞めることになる。後々自分も意見を言えない世の中を生み出してしまうんではないでしょうか。自分と考えの違う人の意見を寛容な心で受け止めて、更に客観的に自分の考えを果たして正しいんだろうかという疑いを持つことも大切ではないかと思います。皆さん、今日はどうもありがとうございました。