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テレワークゆり物語 (77)親の介護とテレワークは両立できる?

「田澤さん、介護の経験がないのに、偉そうなこと言っちゃだめだよ」

5年ぐらい前だと思う。ある企業の役員の男性から、厳しく言われた。ショックだった。

彼は、会社で通常勤務をしながら、数年間、親の介護のために実家で暮らしていたという。毎日が戦争のようで、自分の体と家庭を壊しかねないほど、大変だったという。

「介護はね、生半可じゃできないよ。自宅で仕事をしながらなんて、現実を知らないから言えるんだよ」

当時、私の両親は、奈良の実家で夫婦2人で暮らしていた。80を超える高齢のため不便はあるものの、要支援でも要介護でもなく、私の手助けは不要な状態だった。つまり私は、介護の経験もないのに、講演などで「テレワークなら、親の介護と仕事を両立しやすい」と、偉そうに言っていたのだ。反論の言葉はない。

正直、実家に生活基盤を移して、在宅勤務で今まで通り仕事ができることをイメージしていた。しかし、多くの日本企業のテレワークは、「介護のための完全在宅勤務」の段階に達していない。在宅勤務の上限日数を定めている会社も少なくない。また、地方での完全在宅勤務は、特例扱いで業務の転換や転職を余儀なくされることもある。

その後、年月が経つにつれ「親の世話」は、徐々に現実になってきた。私はひとり娘なので、担うのは私しかいない。その事自体は、小さい頃から認識していたので、まったく問題はない。問題は「どうやって、遠方に住む親の世話をするか」だ。

しかし、世話をすることが少しずつ増えていく中、学び、気づいたことがある。

介護は急に進まない。段階ごとに適切に対処すれば、テレワークのメリットは大きい。

すべての「親の介護」のスタートが「壮絶な介護」ではない。必ず、そこに至る段階がある。テレワーク視点で「段階」分けしてみた。

  1. 親の状況の把握 (体調や病気、薬の状況を把握)

  2. 面倒な作業の代行(介護サービスの契約/預金管理等)

  3. 期間ごとの状況把握(1か月1週間単位の体調確認)

  4. 毎日の状況把握(毎日の状況確認)

  5. 毎日の簡単な世話(毎日の薬や食事、買い物)

  6. 毎日の介護(排便や入浴)

1と2は、必要に応じて、週末に帰省することで、対応可能だろう。
3の段階になると、帰省が頻繁になる。交通費のことも考えると、一回の滞在を長くしたい。金曜もしくは月曜に、実家での在宅勤務ができるだけで、とても助かる。(「週末テレワーク帰省」と呼ぼう)
4の段階でも、実家に戻るほどではない。介護サービスや、毎日の電話でも事足りる。「週末テレワーク帰省」と組み合わせて乗り越えることができるだろう。

実は、私は今、5の段階にある。親は、生活はなんとかできるが、心もとない。スマホはあるが、電話にしか使えない。ある時、薬を正しく飲めていないことが発覚する。また、コロナ禍で、買い物に出れなくなった。
もちろん、実家で一緒に生活するのが、一番安心である。しかし、私にも仕事や自分の家族のこともある。

至った結論が「リモート介護」である。

母はスマホのビデオ通話に出れないない。母でも使える端末を検討した結果、AmazonのEcho Show 10 を実家のダイニングテーブルに置いた。

実家からは、こうみえている

毎朝7時、北海道の北見から「アレクサ、生駒につなげて」と呼び出す。音がなったらタッチするだけなので、89歳の母だけでも応答できる。
毎朝、両親の朝食の様子を確認しつつ、今日の薬を飲んで、目薬をつけてもらう。会話をしながら、必要な買い物を聞き取り、私がネットスーパーで注文する。

二人で目薬さす姿はカワイイ

これだけなのだが、毎日のルーティンとすることで、親の生活もリズムができたようだ。時には、画面越しに言いあいになり、ブチ切断をすることもあるが、それもいい刺激だろう。笑

6の段階になれば、実家に戻る等のことを考えなくてはいけないが、しばらくは、「リモート介護」と「週末テレワーク帰省」を組み合わせていこうと思う。

・・・という経験を経て、私も少しは自信をもって「テレワークと介護」について語ることができるようになった。

「テレワークができると、仕事と親の世話を継続しやすくなるのはもちろん、コミュニケーション頻度を高めて、親の健康寿命を延ばすことにも貢献できますよ」と。

※冒頭の写真は、はじめてつなげた時の記念写真。母、キョトン。

【追記】2023/3/15
テレワークですべてが解決するわけではありません。介護に専念する、あるいは施設などプロに頼るなど、いろいろある選択肢のひとつとしてとらえていただければ幸いです。
この記事を書いたときから約1年後、母が亡くなりました。家族(夫)の理解と協力のおかげで、後半は実家で共に暮らすことができました。
その後の様子は、以下のnote記事をご覧ください。



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