カメムシのカメ子 第32話 侵略者~  カメ爺とカメ婆。。。3/3

土曜日の午後、テレビの部屋のソファで寝転んでテレビを観ていたところに吾一からラインが来た。

「ねぇお母さん。明日吾一がモロミとうちに遊びに来るってさ」
「あら、何かあるの?」
「別に何もないよ。ま、あの二人も暇なんじゃない」

そういう僕も随分と暇をもてましている。
テレビを観ているといっても観たい番組がある訳じゃないし、ただチャンネルを適当に代えながら時間が過ぎるのを待っているだけ。
我ながらつまらない休みの過ごし方だなと思う。
そう思ったと同時に人のこと言えないなとつい口走ってしまった。

「えっ? なに?」

僕の独り言に反応したお母さんになんでものないよと返すと、せっかくだからみんなで一緒にお昼でも食べましょうよ提案された。
久しぶりにみんなで賑やかなお昼もいいかなと思った僕は、それならミヨさんも誘ったらどうかと提案を返した。
僕の提案にはっと明るい顔をすると、ちょっと聞いて来ると家を出て行った。
思い立ったお母さんの行動は早い。
僕はミヨさんの返事を確認する前に吾一に返事を返した。

「うちのお母さんがうちでみんなでお昼を食べようってさ」

吾一からは何やら絵文字で返事が帰って来た。
何かのキャラクターがこちらに親指を立ててる絵文字だった。
きっとOKという意味だろう。
モロミと吾一は結構絵文字を使うけど僕はあまり使わない。
なんか恥ずかしい様な気がするし誤解されちゃう事があるかもしれないから。
これを言うとモロミも吾一も誤解なんてしないよって言うけど、文章で伝えたって間違って伝わる事があるのに絵文字で気持ちを伝えるなんてと僕は思う。

「ミヨさんも大丈夫だって」

ソファの上でゴロゴロしてる僕にそう言うと、久しぶりに賑やかになるわねと今から張り切るお母さん。
たまには賑やかに過ごすのもいいかなと僕は暇つぶしに観てるテレビのチャンネルを代えながら思った。


「こんにちは〜。お昼を食べるって言うから、うちのパンを持って来たの」

時間通りにやって来たモロミはどっさり麹屋のパンを持ってきた。
と言っても両手に持たされてるのは吾一だった。
ちょうどお母さんも色とりどりの野菜を使ったサラダを大皿に盛りつけテーブルに置き、こっちもちょうど出来たとこよと言いながらモロミと吾一を迎えた。
そこへミヨさんも得意のお漬物をたくさん持ってやって来た。
正直ミヨさんのお漬け物は想定内。
しかしお母さんのサラダは想定外だった。
だってモロミや吾一が来て一緒にお昼にするっていうのにさすがにサラダだけっていうのはないだろうと思っていたからだ。
ちょっとは楽しみにしてただけに僕の心境は複雑。
こうなると頼みの綱はモロミが持って来た麹屋のパンだ。
うちではほとんど食パンしか買わないけど麹屋の惣菜パンはどれも美味しいのは近所でも学校でも有名でクラスメイトの中にも常連客は多い。
それをわざわざお昼に食べるからって持って来てくれたんだから期待しないわけがない。
僕は吾一の持っていた袋を受け取ると中を覗いた。

「ねぇ、これってもしかしてみんな同じパン?」
「そうよ。これはねぇチーズが練り込んである麹屋特製のチーズパン。チーズも自家製ですごく美味しいんだよ。前にカーメルがうちに来た時も美味しい美味しいって言って食べてたんだから」
「はい。あたしはお漬物よ。カーメルちゃんはね特にキュウリが美味しいって言って毎日食べてたのよ」
「カメちゃんはねぇ、サラダが好きでサラダがあればなんにもいらないっていうくらいなのよ」

テーブルに並んだのは色とりどりの野菜を使ったお母さん特製の野菜サラダとミヨさん自慢のキュウリの漬け物、そして麹屋自家製のチーズが練りこんであるチーズパン。
何の事は無い。
みんなが持ち寄ったのは全てカメ子とカーメルの好物ばかり。
久しぶりにみんなで賑やかなランチをするっていうのにサラダとお漬物とチーズパンだけなんてちょっと残念な感じもしたけど、結局みんなカメ子とカーメルの事を考えているだなと思うと自然と笑いが込み上げた。
僕の笑いにつられてかその場の全員が顔を見合わせて笑った。

「でも、なんか変な組み合わせだね」
「そうね。でも大勢で食べるときっと美味しいわよ。お食事っていうのは何を食べるかじゃなく、誰と食べるかよ。じゃああたしはチーズパンを頂こうかしら」
「どうぞ。味はカーメルの保障付きですから」

奇妙な組み合わせのランチを食べ始めてた所に玄関から人の声が聞こえて来た。

「ただいま」
「あら今度は誰?。ねぇ丸男、他に誰か来るの?」
「いや他には誰もこないよ」

玄関から聞こえたのはお父さんの声だった。
しかしお父さんは一人で帰って来たわけじゃなくお客さんを連れて来た。
お父さんが連れて来たのは研究所の東岸さんと増田さん、それに見た事のない女性も一人。

「お、賑やかだね。そうかお昼だもんね。私達の分もあるかな」
「どうしたの? 早いじゃない」
「ああ、紹介するよ。丸男は知ってるよね。こちらが東岸さん、こちらが増田さん。そしてこちらが坂東さん」

お父さんは連れて来た人を僕達に紹介すると、逆に東岸さん達に僕達を紹介した。

「あ、お漬物がありますね。これはカーメルちゃんのおばあさんのお漬物ですよね? 前に一度頂いたけどとても美味しかったです。いや〜また頂けるとは思いませんでした。今日この時間に来てラッキーだったなぁ」

僕は初めての人からするとちょっと図々しい感じがするその東岸さんの言い方が懐かしいというかとても久しぶりの気がして嬉しかった。

「で、今日は何しに来たの? こんな早い時間に帰って来るなんてなんかあったの?」

僕が聞くとお父さんはミヨさんやお母さんをちらっと見た後、東岸さん達を連れて来た理由を説明してくれた。

「正直、カメちゃんやカーメルがカメムシの世界に戻ってから随分と時間が立つだろう? で、東岸さんがこの間に一度カメちゃん達がどこへやって来たのか見てみたいっていうんだよ。カメちゃんにしてもカーメルにしても丸男の部屋に現れただろう? もしかしたら丸男の部屋に何かあるんじゃないかってね」

そういうと後ろで話を聞いてた坂東が付け足す様に言った。

「あたしはついでです。同じ研究所で働いてはいるんですが東岸さん達の様に直接研究をしてるわけじゃないんです。でも研究所で一緒にいたせいかカメちゃんとカーメルちゃんの事だと何を聞いても何だか心配っていうか気になっちゃって。 で、今日カメちゃんの家に行くっていうのを聞いて無理いってついて来ちゃいました。本当にどうもすみません」

僕もお母さんもお父さんから坂東さんの事は聞いていたはいたけど会うのは初めてだった。申し訳なさそうに話す坂東さんを見て悪い感じのする人じゃないなと僕は思った。
お母さんの印象も同じだった様で優しい笑顔で僕を見てに軽く頷いた。
そして得意な料理は他にもあるんですがと言いながら、これがカメちゃんの大好きなのサラダですと言い取り分けた皿を差し出した。
突然の来客でさらに賑やかなランチタイムになった。
食べ始めるとすぐに誰彼ともなくカメ子とカーメルの話になって盛りあがった。
その時だった。
カタカタと小さく音を立て家が揺れ始めた。

「あ、地震?」

誰かが驚いた様に言う。
でも違う。
これは地震じゃない。
僕にはわかっていた。

ドスン・バタン・ドテン
ドスン・バタン・ドテン

揺れが収まると同時に二階の僕の部屋から大きな音が二回聞こえた。
皆がその場で緊張の面持ちで固まってる。
その中で僕だけが階段の下まで行き階上を見上げた。
するとドアが開き、懐かしい声が聞こえて来た。
そしてその声の主はゆっくり階段を降りて来た。

「ただいま丸男」
「おかえりカメ子、おかえりカーメル。みんな待ってたよ」

カメ子とカーメルが帰って来た。


#創作大賞2023

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