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ヤクザの方をお乗せして、誰よりも人を想う心を持っているなぁと思った話。

夜の六本木、
若者から60歳を越えた大人、どこの国の人か分からない外国人まで
多くの人間が行き交う街。

そんな街でお乗せしたのは所謂ヤクザの人間だった。

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人間は見た目や肩書で決めるものではない。
そう感じる会話をした。

感謝の心を持ってい生きる人はどれだけいるだろう。

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手を挙げた二人組の男性。その後ろには4,5名の人だかりができている。
車を止めてお乗せすると、
「オツカレッシター!」
「ごちそうさまです!」
「ありがとうございましたー!」
後ろにいた人だかりが威勢のいいあいさつをしだした。

そんな中で一人、
「さっきはすみませんでした」
という声が聞こえてきた。30代の男が頭を下げている。
その言葉に、いまからタクシーに乗り込もうとする50代ほどの最年長のおじさんが
持っていた傘でその男を二発叩き、突き刺す。
「お前ふざけんじゃねぇぞ!」
「あぁ、すみません」
痛そうな声を出しながらもう一度謝る。
「はっはっは、気にすんな」
笑顔に変わるおじさん。
どうやらお店で何かやらかしたこと謝ったらしい。
許しているようだが、それにしてもオフザケのノリが派手過ぎる。

それがようやく終わり、
最年長のおじさんと同じ方向の若い男が同乗してきた。

最年長の方と二人ということもあり、途切れることなく話をする。
今の仕事、仮想通貨、お金、海外の飲食事業、
お互いの団体のちょっとしたいざこざ、
このいざこざの話で、さっきの団体を含めヤクザの方たちだと悟った。
しかも、同じ組織ではなく何個かの組織の人で集まっていた。

話題が移り変わっていくなかで、一つ、心を揺さぶる会話があった。

「俺たちは何をやっても常に悪く見られる。
だけどな、感謝の心を持って人と向き合っていかなきゃならん」

「はい、そうっすね!」

「俺なんかいつも近所のおばちゃんと会話してるぞ、
今日も天気いいねとか、顔色が良いねとか、」

「へぇ~、そうなんスね!」

「特別なことじゃないんだよ、小さなことで良い、花が咲いたから
綺麗とか、そんな些細な会話をしてるか?」

「いや~、してないっス!」

「そうだろ?お前親は?」

「います!」

「連絡とってんのか?」

「いや~全然とってないッス!」

「馬鹿野郎!お前何やってんだよ。親には一番感謝しねぇといけねぇぞ」

「はい」

「お前誕生日いつだ?」

「来月です」

「じゃあ、その日、親に電話しろ」

「え、電話っスか?」

「あたりめぇだよ!生んでくれてありがとうってちゃんと伝えろよ!
だれのお陰でいままで生きてこれたんだよ」

「いちおう、親っス」

「そうだろ?」

「はい」

「だったら伝えろよ!」

「わかりました」

「うちの若いのもなぁ、親と連絡とってなかったんだよ。
だから俺が怒って誕生日に急に電話させたんだ」

「はい」

「その親はな、正直まともにその若いのを育ててこなかったんだよ。
だから関係も悪かったんだけど、
生んでくれたのは変わりねぇから電話しろって」

「はい」

「そしたら、親は大号泣だよ!それまで連絡も取ってない息子から
ありがとうって連絡来るもんだから」

「へぇ~、良い話っすね」

「俺がうちの若いのに言ってるのは、まず親に感謝しろ、
誕生日には感謝を直接伝えろって言ってんだよ」

「はい」

「育てがどうこうとかはあるけどな、
親が生んでくれなきゃ、みんな今いねぇんだぞ」

「そうっスねぇ」

「だから来月は絶対電話しとけ、親は絶対喜ぶから」

「わかりました」

そんな会話があり、ここで若い男が先に降りた。
今度はおじさんと私の二人きりだ。
早速話掛けてくる。

「運転手さんは若いよね?いくつ」

「そうですね、25なのでタクシー運転手としては若いです」

「そうだよな、親は生きてんのか?」

「はい、生きてますね」

「二人とも?」

「はい」

「さっきの話聞いてたと思うけど、運転手さんも親には感謝しなよ?」

「はい」

「誕生日には直接電話して『生んでくれてありがとう』って」

「はい、そうします」

「絶対喜ぶから!感謝が大切だからな」

「はい、ありがとうございます」

ここで目的地に到着した。

「じゃあ、お釣りはいいから、大変だろうけど頑張れよ!」

そう言って右手を差し出し、握手をした。
力強く、相手を想う心を感じ取れる右手に
こちらも感謝を込めて強く握り返した。

本当はもう少し会話があったが、そこは割愛。


もしかしたら、
言いたいことがある人もいるだろう。
ヤクザだから・・、普通の事してるだけ・・・。

一言だけ言えるのは、
こんな会話をしたのも、握手をしたのもこのおじさんしかいない。



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