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異なる響き 英国6人の女性フォーク歌手

イギリスの6人の Folkフォーク 歌手

1960年代から1970年代に活躍したイギリスの6人の女性 Folk 歌手フォーク・シンガーがとても好きです。

Folk と一口ひとくちにいっても、古典的民謡みんようからバンド音楽やシンガソングライターまで、からみ合いつつはば広いものではあるのですが *1-1 、それはともかくSandyサンディ  Denny デニーShirleyシャーリー  CollinsコリンズVashtiヴァジュティ BunyanバニヤンAnneアン Briggsブリッグス、 Pentangleペンタングル の Jacquiジャッキー McSheeマクシーMaddyマディ  Priorプライヤー の6人は、それぞれに独特な魅力ある歌声をしていて、本当に素晴らしい。

放胆な歌と斬新なアレンジ

最近ではその貴重きちょうな映像も見ることができます。
British folk rockイギリスのフォーク・ロック のバンド
  Fairport Convention 時代の「Liege & Lief


Unhalfbricking」(1969年)


*2
 とソロアルバム「The North Star Grassman and the Ravens」(1971年)

という名盤めいばんを残して早世そうせいした Sandy Denny放胆ほうたんな歌や

斬新ざんしんなアレンジで、1つとしてつまらない作品のない Pentangle の LiveライブJacqui McShee あやしくも美しい歌声は抜群ばつぐんです。


Sandy Dennyは「LED ZEPPELIN IV


の "The Battle of Evermore" にゲスト参加しています。
一方 Pentangle のギター奏者 
Bert Jansch は Led Zeppelin の Jimmy Page に影響を与えています。ロックバンド 

Ledレッド Zeppelinツェッペリン と Folk との近しい関係をうかがわせます。*1-2

1stアルバム所収 フォークソング
Babe I'm Gonna Leave You / Led Zeppelin

2人の歌手の復活

そして近年になってびっくりしたのは、
長い間、表舞台おもてぶたいから姿すがたを消していた 
Vashti Bunyan と Shirley Collins の復活ふっかつです。

1. シンガーソングライター 

Vashtiヴァシュティ Bunyanバニヤン は Folkフォーク 歌手といっても、民謡( tradトラッド folkフォークfolkloreフォークロア )の歌手ではなくてシンガーソングライターです。1970年に名盤「Just Another Diamond Day

を残して長い間活動を休止していたのが、2005年の「Lookaftering」で復帰し

2014年にはアルバム「Heartleap」を出しました。

そのうるわしい歌とギターは健在けんざいです。

それまで「Just Another Diamond Day」以上の美しい音楽はないと僕は思っていました。しかし復活してからの Vashti Bunyan は、そのサウンドをさらませて行きました。

美しい歌声にと共に、げん楽器・笛・鉄琴てっきん・ピアノ・ハーモニカなどが程よくりばめられて絶妙ぜつみょうなハーモニーをつくる「Just Another Diamond Day」の魅力みりょく*2  は色褪いろあせる事はありませんが、よりシンプルかつ繊細な歌と演奏でかせる「Heartleap」の魅力もたまりません。

一見、素朴そぼくなように聴こえる彼女の作品には、繊細せんさいな技がかくされていて、とても高度な音楽なのだと思います。歌詞も難しい言葉や言いまわしはないけれど、決して素朴と言って済ませられるものではないと感じます。しかし聴く側は、それを素朴でいい、美しいと心地よく楽しませてもらえるのだから、こんな贅沢ぜいたくはありません。

2. 民謡歌手 

もう1人の Shirleyシャーリー Collinsコリンズ は民謡としての Folk の代表格で、もともと無伴奏アカペラで歌われるものだったイギリスの民謡に、さまざまなアレンジの演奏を試していった先駆者せんくしゃの1人です。1980年代になるとほとんどど活動が見られなくなるのですが、2016年アルバム「Lodestar」で突如とつじょ復活しました。

Shirley Collins の民謡は、どれも珠玉しゅぎょくの名品ばかりです。大胆だいたんな Sandy Denny や Anne Briggs と比べても引けを取りません。*3

Anne Briggs
ギターは Pentangle の Bertバート Janschヤンシュ


Shirley Collins

3人はとても異なったな声色こわいろをしていますが、どの歌声も綺麗きれいなだけでなく力強く、しかも何かざわりとした肌触りで、人をゆさぶるところがあります。

Shirley Collins は、上のリンクのような無伴奏アカペラもしくはシンプルな演奏のものからアルバム「Anthems in Eden」(1969年)のような Progressiveプログレッシブ Folkフォーク と呼びたくなるようなったものまで、どれも良いですが、僕が特に好きなのはアルバム「The Power of True Love Knot」(1968年)です。

素晴らしい弦楽器の演奏と共に、姉 Dollyドリー CollinsコリンズPortative organ の演奏が特徴とくちょう的で美しい。その流麗りゅうれいなアンサンブルに乗せてShirley Collins の歌もえ渡っています。
復活してからは、高齢(80代)なこともあって、さすがに若い頃の力強さはないですが、しかしなんともいえない味わいがあります。2016年のアルバム「Lodestar」、2020年の「Heart's Ease」共にとてもいい。


うれしい限りです。

真っ直ぐな歌声

最後に Maddy Prior についてれると、このイギリスを代表する女性 Folk 歌手の1人を、いい歌手だと思いつつも、長い間それほど僕は好みませんでした。上記のようにイギリスには大好きな女性歌手が沢山いて、どうしてもそれらと比べてしまう。そうすると、相対的そうたいてきに評価が低くなってしまっていたのです。比べるものではないと分かっていても、どうしてもそうしてしまう。

しかし、2003年のアルバム「Lionhearts」を聴いた時は、うなるしかなかった。

他の歌手にはない彼女独特の真っ直ぐな歌声を最大限に生かした力強く美しい音楽です。本当に素晴らしい。そして改めて見直すと、昔のものも良いものだと思う、今日この頃なのです。

↑1つ目の映像は、現在も活動を続ける Maddy Prior の参加するバンド Steeleye Span 

2つ目は2008年のソロアルバム「Seven for Old England」所収の曲です。

最後に

優れた歌手というだけでなく、この6人には歌声やスタイルの違いを超えて、共通した何か巫女みこのような不思議な雰囲気を僕は感じます。しかし、もしかしたらそれはヘテロな男の僕が感じる憧憬どうけいにすぎないのかもしれないと考えたりもします。

1960〜1970年代は、イギリス(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)の Folkフォーク Revivalリバイバル (民謡復興)が盛り上がった時期で、多くの古い民謡が掘り起こされ、新しいアレンジが試みられました。それと並行して新しい曲を創作する優れた音楽家が多く出て来た時代でもあります。今回は「女性 Folk 歌手」という枠組みで、切り取ってしまいましたが、他にも優れた音楽家が沢山います。またいずれ紹介できればと思います。

*注1 書籍

*1-1. イギリスの Folk とポピュラー音楽の歴史については小西勝著「英国のフォーク・ロックの興亡」(SINKO MUSIC)が詳しい。

*1-2 むかし私の先輩に「Led Zeppelin は爆音 Folk なんだ!」と力説している人がいました。Led Zeppelin の Jimmy Page とRobert Plant がともに、アメリカの Folk 歌手 Joan Baez が好きだったことも耳にしていました。(本著↑でも触れられています。)


Led Zeppelinの "Black Mountain Side"
が、民謡 "Black Water Side" に基づいている事は、一聴いっちょうして明らかです。↓
こういった Folk とポピュラー音楽の関係については、僕の周りでも部分的には語られていました。しかしそれを幅広く深く掘り下げたものとして、「英国のフォーク・ロックの興亡」小西勝↑は画期的なものではないかと思います。


*注2 アルバムについて

Fairport Convention の「Liege & Lief」と「Unhalfbricking」の一部、Vashti Bunyanの「Just Another Diamond Day」は多くの名盤を産んだロンドンのスタジオ Sound Techniques で録音され、いずれも イギリスを代表するフィドル奏者 Dave Swarbrick が参加しています。

*注3 比較

前の世代の Isla Cameron と比べると、Anne Briggs の歌の強烈さが分かります。Islaイスラ Cameronキャメロン の歌が良くない訳ではありません。実に美しい歌だけれど、とても品がいいのです。
Anne Briggs は多くの曲を伴奏なしで歌っています。イギリスの民謡はもともとそういうものなのですが、彼女の場合、それは自由に歌うための意識的な選択の様に思えます。
この曲↓は、先に上げた Pentangle の1つ目の映像と同じなので、そちらと比べても面白いと思います。


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