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読書量の多さが姉にもたらしたもの

うちは「本だけは好きなだけ買って読んでいい」という教育方針だったこともあり、マンガを含め、本はわりと多かったと思う。書庫として使っているちょっとした部屋もあり、私も姉も、泊まりに来たイトコたちも、その部屋に入り浸って本を読んでいた。

特に姉は、子供の頃からかなりの読書量を誇っていた。中学に上がっても読書ばかりで、当時はX文庫やコバルト文庫で本棚が増えた。

姉は「家では絶対、勉強したくない」という強い信念があり、授業中にわからないことがあると先生に質問しまくって、その場で解決させていたらしい。そして普段はもとより、テスト前ですら勉強はせずに、読書三昧。それで中学では(人数が少なかったこともあり)成績はいつも上位だった。

当時のことを姉は、「いわゆる活字中毒だったんじゃないかな」と振り返る。

「子供の頃、うちって娯楽が何もなかったじゃん。だから本を読むしかなかったのよ。農協の『家の光』も読んでた。出先で読むものなければ、広告とかを読んでた。それもなければ、食品の原材料表示も読んでた。――つまりね、ヒマだったのよ」

姉が本の虫になった理由が、まさかの「ヒマ」。同じ環境にいた私もそれなりに本を読んではいたが、絵を描いたり空想したりが好きだったので、そんなにヒマだとは思わず、読書量は姉より少なかった。

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SNS時代になっても姉は文字を追った。本はもちろんのこと、ブログなども幅広く読み漁る。

悩み事やマイブームを雑談すると、姉からすぐに「こういうのどう?」とおすすめの本なりブログなりを紹介される。図書館司書になってレファレンスとかやったらいいのに、と時々思う。

私が小説を書くときには、必ず事前に姉へ概要を伝えるようにしていた。姉から「それって○○みたいだね」と何かしらの作品名が上がったときはボツになる。

無事に小説を書き上げたときも、まず姉に読んでもらっている。小説を筆頭にいろんな本をたくさん読んできた姉だから、見る目は肥えていると思っている。その姉から「おもしろい」と言われるかどうかが、私の中では一次審査である。

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姉の読書経験は、コミュニケーションにも役立っていると思う。話を聞く限り、いろんなタイプの人と、スッと自然に話を合わせられている。

例えば職場にマニアックな趣味を持つバイト君が来たときは、休憩中にその趣味の話題で和気あいあいとなったという。

姉いわく、あまりにも専門的なことはわからないけど、その世界での一般教養程度は知識としてあるから、こういうのとか? って知ってる単語出したら喜んでくれた、と。

またあるときは、取引先の男性と打ち合わせしていたときのこと。同席していた姉の上司が雑談で子供の話題を出したところ、相手はポツリと、自分の子が障害を持って生まれたことを告げた。上司は途端に慌ててしまい、さらに自分の知らない疾患名だったことから、下手なダジャレを口走ったりして、場の空気は大いに冷えた。

一方姉は、その疾患についてたまたま本を読んでいたので、「専門的なことはわからないけど、一般教養程度の知識はある」状態になっていた。

姉は落ち着いた口調で、じゃあ普段の生活でもアレとかソレとか大変ですよね、などと言葉をスッと出し、相手の方も、「いやあ、俺よりも奥さんの方が大変でさ……」と応えてくれたという。

私も周囲があまり知らない難病を患った者として思うのは、このときの姉は、相手の男性にとって多少なりとも寄り添える存在だったと思う。その疾患を知っている、大変さを理解してくれている……。上司だけだったら、言葉は宙に浮かび、会話は成立しなかっただろう。

姉は病に苦労している人との会話が、何気に上手だと思う。かわいそう扱いするのではなく、ある程度理解していて、お互いの役目を理解する。――それはまた別の機会に語りたいが、私もそれで何度も姉のことをありがたく思い、かっこいいと思った。身につけた日常英会話を、ちゃんと日常で使っているような感じだ。

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しかし姉は興味のない歴史や地理関係の本は手に取らずにきた。よって残念な出来事もたまには起きる。――あれはたしか姉が高校のときだった。

「今日のテスト、暗号を解いて問題に答えなさいっていうのがあって」

それは一体どんなテストだと思いながら話を聞くと、さすが普段からミステリを読みまくっていただけあって暗号解読は簡単だったと。ところが解読した文章が、「関ヶ原はどこか」という問題で、4択だったと。

「全然わかんないから、九州あたりを選択した」
「愚かすぎる」

姉とは逆に、私は歴史もの時代ものばかりを読んできたが、実は当時の私も、関ヶ原が何県かまではまだ知らなかった。だけど戦国武将の勢力図は大体把握しているから、豊臣勢と徳川勢が戦うのなら大体このへんでぶつかるだろ、という絞り込みはできた。

だから4択なら私はいいとこいけただろうし、少なくとも九州だとは思わない。

姉にとっては、関ヶ原の戦いが誰と誰の戦いかもあずかり知らぬことであろう。



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