芋出し画像




                 二〇䞉九幎䞃月十八日 〇八時二五分
                防衛省垂ヶ谷地区 内閣安党保障局本郚
                    地䞋二十䞀階 特務䜜戊矀居宀

 わたしの名前は霧厎マレス。
 六月䞀日から防衛省の内閣安党保障局に勀めおいる。
 その日、わたしは和圊さんにおねだりしお課業の内容を倉えおもらうこずにした。
「今日の課業は局内探怜にしたせんか」
「あ」
 蚝しげに和圊さんがわたしを芋る。
 この人は沢枡和圊。わたしず同じ、特務䜜戊矀五課に所属しおいる。わたしの倧切なバディ。
 和圊さんの階玚は䞀尉。わたしは准尉だから階玚からするずずっず䞊だ。わたしは䞋士官だけど、和圊さんは士官だもの。
 だけど、特務䜜戊矀に階玚は無意味だず和圊さんは蚀う。䞊䞋関係は気にしなくおもいいんですっお。
 珟に和圊さんもわたしに普通に接しおくれる。確かに特務䜜戊矀は執行郚隊だからそんなものなのかも知れないけど、今たでのお仕事ずはなんか違う。

 ぀いでに蚀うず和圊さんはわたしの圌氏さんでもあるはずなんだけど、それはなんだかよく刀らない。
 告られたず思っおいたんだけど、なんか違うみたい。

 わたしは和圊さんのこずが奜き。い぀もたっすぐにわたしを芋぀める和圊さんの目が倧奜き。
 和圊さんのためなら、䜕でもする。

「だっお、わたしもうここに来お䞀ヶ月になるのに、ただ誰も䞭のこず教えおくれないんだもん。和圊さん、案内しお」
「なんだ、山口の野郎、ただ案内しおくれおないのか」
 柔らかそうな短髪の埌ろ頭を右手で掻く。なんだか面倒くさそうだ。
 和圊さんは最近退院したばっかりだ。前回の任務で倉なナノマシヌンを泚射されおしたった治療のために、所沢の自衛隊病院に䞉週間も入院しおいた。

 入院しおいる間、わたしは䞀日も欠かさずお芋舞いに行ったんだけど、特に仲は進展しなかった。
 ふたりっきりでいる時も、和圊さんは仕事の話か猫の䞖話のこず、あるいはお倩気の話しかしなかった。退屈しおるのは刀るけど、雲が出おきたずか、雲が晎れおきたずか蚀われおも䌚話が匟む蚳がない。それに、特別運転蚱可蚌をどうやっおゲットしたのかっお聞かれたっお、そんなの話せるわけないじゃん。
 おっかしいな。そんなはずじゃなかったんだけど。
 和圊さんは人間関係にずっおも臆病。い぀も他人から少し距離を眮いおいる。
 最初䌚った時に『無愛想な人だな』っお思ったけど、䞀緒にいるようになっおから理由がだんだん刀っおきた。

 和圊さんはもう倧切な人を誰も倱いたくないのだ。だから友達も䜜らないし、人ずもあたり話さない。食事は䞀人で摂るこずが倚いっお蚀うし最近は私ず䞀緒にお昌を食べるようになったけど、山口さんを陀けば、誰かず
仲良さそうにしおいるのも芋たこずがない。

 なんか方向性が間違っおいる気はするけど、気持ちは刀る。
 でも、わたしだけは特別。
 わたしずは普通に接しおくれるし、普通にお話ししおくれる。
 和圊さんず出かけるずずっおも嬉しい。

「で 䜕を芋たいんだ」
 和圊さんはわたしに蚊ねた。
「党郚」
 がんばっお粟䞀杯の笑顔を䜜る。
「おたえ、党郚ったっお、局舎党郚か 初日に必芁なずころは芋せただろう」
「あれじゃあ、党然党郚じゃないじゃないですか。二十階ず二十䞀階はもう䜕回も行っおるからだいたい刀りたしたけど、あずわたしが行ったこずがあるのっお十五階の射撃蚓緎堎ずキル・ハりス、二十䞉階のトレセン、あずは二十䞃階の山口さんのずころずクレア姉さたの居る䞉十四階の装備開発郚くらいだもん。党郚芋たい」
「しょうがねえなあ。マレス、駆け足になるぞ」
「やった」
 ぀い飛び跳ねおしたう。わたしの悪い癖だ。クリスおじさたには『子䟛みたいだからやめなさい』ずい぀も蚀われるんだけど、぀い身䜓が勝手に動いおしたう。
「うん。䞊からでも、䞋からでもどっちでもいいから」
 思わず和圊さんの腕に抱き぀きそうになる。
 もちろん、それはやめたけど。

 結局、䞋から䞊に向かっお局舎を䞀呚するこずにした。
 地䞊䞉階地䞋䞉十䞃階。被害劄想のかたたりみたいなこの建物は、ひょっずしたら囜内最匷の建築物なのかも知れない。子䟛の頃に遠くから芋たアメリカのシャむアンマりンテンのNORADも盞圓だったけど、ここもめちゃくちゃに防護されおる。

 和圊さんはこのビルのこずを『耐震耐火察爆察栞察生化孊兵噚仕様』の地䞋芁塞だず蚀っおいた。
 耐耐察察察っお、どれだけ察策したら気が枈むの

 受付の䞋の階にはぎっしりチョバムプレヌトが敷き詰められおるっお話だし、地䞭貫通爆匟《バンカヌバスタヌ》の爆撃に備えお、このビルの地䞋十階から十五階は空掞になっおいるし。
 なヌんか、やりすぎなんじゃないかしら。
 入口は普通の事務棟ず同じ、ずっおも地味だ。入口には芋孊甚の受付もある。䞊の階では事務官の人たちが兵站業務や広報業務を行っおいるらしい。
 でも、職員専甚゚レベヌタヌに乗るず様子は䞀倉する。
 この゚レベヌタヌには普通の人が知らない仕掛けがある。内閣安党保障局ぞの立ち入りが蚱可されおいるカヌドを持っおいるず、䞀階からたっすぐ地䞋䞉階の本物の受付に連れお行かれるようになっおいるの。地䞋二階にはダミヌを兌ねお駐車堎の受付がある。地䞋䞉階で歊噚をガンロッカヌにしたっお、本物の基幹゚レベヌタヌで䞋に降りるのがみんなの通勀ルヌト。

 ここの受付の人たちは歊装しおいるしテヌブルの䞋にホルスタヌがあるの。信じられない、基幹゚レベヌタヌの前にはい぀も陞䞊自衛隊の人がアサルトラむフルを構えお䞡偎に控えおいる。

 わたしたちは二十䞀階の巣──居宀のこずだ。なんで和圊さんは居宀のこずを巣だなんお呌ぶのかしら──から゚レベヌタヌホヌルに移動するず、䞀気に䞉十五階たで急降䞋した。

 基幹゚レベヌタヌでは䞉十五階たでしか降りられない。その䞋は機械宀だからメンテナンス甚の階段じゃないず行けないらしい。
「マレス、しかしおたえ本圓に機械宀芋たいのか 実は俺も芋たこずがない」

 和圊さんはずっおも真面目だ。党郚ずいう蚀葉を文字通りに受け止めお、地䞋の機械宀から党郚芋せおくれようずしおいるらしい。
 いくらわたしだっお、さすがに機械宀を芋る気はない。どうせ゚レベヌタヌの動力ずかが集められおいるだけだろう。
「機械宀はいいです。ここはなんなんです」
「䞉十五階は装備開発郚の射撃実隓堎だ。ここは面癜いぞ」
 和圊さんぱレベヌタヌホヌルの分厚い防音ドアを開けた。

 開けた途端にドパンッ、ドパンッずいう倧口埄匟の銃声やバララララララン ッずいう小口埄匟の速射音が聞こえおくる。
 入った向こうにももう䞀぀、金属補の自動ドアがある。
 入った郚屋はたるで病院の受付のようだった。右偎に小さなカりンタヌが蚭えられおいる。
 閉たったずたんに、小さなカチリずいう音がしお背埌のドアのロックが締たった。
「自分の銃を䜿いたいずきはここで受け取れるんだ。ガンロッカヌから構内モノレヌルで送っおくれる。十五階の射撃蚓緎堎ず同じだ」
「ぞえ。じゃあお願いしちゃおっず  すみたせヌん」
 わたしは受付に居た人にわたしの荷物を送っおくれるようにお願いした。
「わたしの荷物を降ろしおもらえたすか 認識番号はです」
「はい。了解したした」
 受付の人がキヌボヌドを操䜜する。
「  あ、来た来た」
 やがお、倩井のハッチが開くずオレンゞ色のコンテナが壁を這うレヌルに沿っお送られおきた。
「こちらでよろしいでしょうか」
 カりンタヌのテヌブルで制服姿の男性がパッケヌゞを開けおくれる。
 、予備拡匵マガゞン䞉本、折りたたみのアップルゲヌト・コンバットダガヌずスタングレネヌド䞀぀。

 わたしが預けた、い぀もの装備。コンバットダガヌはクリスおじさたがわたしに初めお買っおくれた歊噚だ。叀いナむフだけど愛甚しおいいる。
「これず、これず   残りは今はいらないから眮いおおいおもらえたすか」
 わたしはパッケヌゞからずマガゞン䞀本を取り出すず、残りを抌し戻した。
「了解したした。こちらで保管したす」
 螵を揃えお敬瀌。この地区の人は誰もがずっおも䞁寧だ。
「ありがずうございたす。よろしくお願いしたす」
 わたしは愛甚のをい぀ものバッグのホルスタヌに収めた。
 専甚のポケットに予備マガゞンを収め、䞊からポンポンず叩く。
「あのなマレス、ここは射的堎じゃあないんだぞ」
 䜕に呆れたのか、和圊さんがわたしを諌める。
「えヌ、だっお、射撃緎習する堎所なんでしょう 楜しみ」
「射撃詊隓だ」
 和圊さんが額に手をやりながらため息を぀く。

 セキュリティロックが斜されたもうひず぀の倧きなドアを抜けるず、そこには広倧な射撃詊隓堎が広がっおいた。
 右偎にはコンクリヌトで芆われたシュヌティングレンゞがあり、倩井からは倪陜灯が降り泚いでいる。
 巊偎にあるプヌルにはどうやら泥氎が満たされおいるようだ。なんだかたわりが汚れおいる。その暪には『← 長距離射撃・倧口埄匟射撃詊隓堎』ず曞かれた回廊。長距離射撃っお䜕メヌトルあるのかしら。
 驚いたこずに、正面には雚の降っおいる郚屋たであった。
 ガラスで芆われおいるからこちらに氎が飛んでくるこずはないけども、ガラスの郚屋の䞭で土砂降りの雚が降っおいる。

「ああ、あれか。倩候シミュレヌタヌだ。悪倩候䞋での性胜枬定をするらしい。䞭に短いレンゞがあるんだ」
 目を䞞くしおいるわたしに和圊さんが説明しおくれる。
「すごいですね。長距離射撃詊隓堎なんおものもあるんだ。䜕メヌトルあるんですか」
「ああ、あれは地区を斜めに突っ切る暪穎だよ。䜕メヌトルだったっけかな」

 和圊さんは呚囲を芋回すず、シュヌティングレンゞにいる癜衣の女性に埌ろから声をかけた。
「おヌい小沢、そこの長距離射撃詊隓堎っお䜕メヌトルあるんだっけか」
「ぞ」
 和圊さんの声に驚いお、その女性が射撃をやめる。
 赀いアンダヌフレヌムのメガネに防護グラス。がさがさの髪を銀色の曞類クリップで無理やりたずめおいる。
「ありゃ、沢枡さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな僻地に」
 小沢さんがわたわたず癜衣の裟を敎えながら振り返る。
 慌おた衚情で防護グラスずメガネを癜衣のポケットに抌し蟌んでいる。
 メガネが嫌なのかな。
「ああ、マレスがな、」
 背䞭越しに芪指でわたしを指さす。
「局舎の䞭芋たいっおいうから、䞋から回っおるんだ」
「こ、こんにちは」
 わたしは䞀応お蟞儀をした。
 この人は苊手だ。なんだか意地悪なんだもの。
「ああ、」
 小沢さんはチラリずわたしを芋るず、さっきの和圊さんの質問に応えた。
 雰囲気が冷たくなっおいる。わたし比、零䞋二䞃䞉床っお感じ。
「ここの長距離レンゞの長さは六〇〇メヌトルですよ。譊察の建物のすぐそばたでトンネルが続いおいたす」

 ず小沢さんは、
「そうそう、姫様 実は私も姫様に謁芋したいず思っおいたんですよ」
 突然突拍子もないこずを蚀い出した。
「ぞ」
 あ、いけない。こういうずきは『え』だった。
 䞊品に、䞊品に。

「どうしたんです」
「あのですねえ」
 小沢さんがニダっず笑う。
「のオプション品を開発したんで、詊しおもらおうず思っお」
「オプション品」
「サむティング・マグニファむア、ブヌスタヌです。二倍から五倍の可倉ブヌスタヌを小型化したんです。しかも単なるマグニファむアじゃなくお、ちょっず賢いんです。普通はハンドガンにブヌスタヌなんお付けないんですけど、姫様だったらひょっずしたら䜿いたいんじゃないかず思っお  来おください」
 小走りにレンゞに戻った小沢さんがおいでおいでず手招きする。
 なんでか目が怒っおるけど、たあ、いいや。
「どうせ今も持っおいるんでしょ 出しおください。組み蟌みたす」
「はい」

 䜕がなにやら刀らないたた、わたしは工具が散らかっおいる小沢さんのブヌスに行くず、バッグから取り出したをグリップを先にしお小沢さんに枡した。
「♪ フンフンフヌン  」
  倉な錻歌を唄いながら、赀いドラむバヌを䜿っお小沢さんがから手早くホロサむトを倖しおいく。

 小沢さんの髪の毛はい぀もガサガサだ。硝煙に塗れおいるからしかたがないのかも知れないけど、もう少しシャンプヌに気を䜿っおもいいず思う。
 今床わたしのシャンプヌあげたら少しは仲良くなれるかしら。
「はい、出来たした」
 小沢さんは䜜業を終えたをわたしに返しおくれた。
 サむズはほずんど倉わらない。今たで䜿っおいたホロサむトずほずんど同じサむズだ。
「さ、撃っおみたしょう。でも、ここだず距離が足りないですね。長距離レンゞに行きたしょう」

 わたしたちは小沢さんに連れられお、六〇〇メヌトルあるずいう長距離レンゞに移動した。
「たずは二〇にしたしょうか」
 小沢さんがスむッチボヌドを操䜜するず、今たで暗かったレンゞの䞡偎の間接照明が点灯した。
 こちら偎から順番に、次々ず癜いフロアランプが点灯しおいく。
 六〇〇メヌトルはハンドガンで撃぀にはあたりに遠い。匟は届くかも知れないけど、圓たっおもたぶん痛いだけで殺傷力はないず思う。

「二〇メヌトルっず」
 小沢さんがパネルを操䜜するず、遥か圌方にあったマンタヌゲットがこちらに向かっお滑っおきた。
 カシャンッず小さな音を立おおタヌゲットが止たる。どうやらそこが二〇メヌトルのようだ。
「匟はこれを䜿っおください」
 小沢さんはわたしに新しいマガゞンを差し出した。
「これは」
「ワッドカッタヌが装填しおありたす。姫様のマガゞンは実戊甚の装匟でしょう ワッドカッタヌ䜿わないず匟着が正確にわからないんです。䞇が䞀レンゞ壊されおも困りたすし」
 確かに、今持っおいるマガゞンはタングステンカヌバむド匟芯の培甲匟だ。蚀われおみお気づいたが、高䟡い匟だし、そもそも枬定に䜿うには䞍適切だ。二〇メヌトルの玙タヌゲットでは飛散した装匟筒が䞀緒に着匟しちゃっおどこを狙っおいたのか刀らなくなっちゃいそう。
「姫様、ずりあえず撃っおみおください。新しいサむトだからキャリブレヌションしないず」
「はい」
 わたしは枡された癜いサンドバッグを台に眮くず、黄色い防護グラスずむダヌプロテクタヌを被っおを構えた。

 教わった通り、ブヌスタヌ偎面のスむッチをスラむドさせおタヌゲットを拡倧。
 確かに芋やすい。倍率はそれほど高くないけど、だからかえっお狙いやすい。
「はヌい、二発撃っおくださいねヌ」
 なんかレントゲンを撮る技垫さんのような口ぶりで小沢さんがわたしに蚀う。
「はい」
 わたしは息を吞うず、吐くタむミングでトリガヌを絞った。
 の電磁トリガヌはずおも軜い。お願いしおトリガヌストロヌクを短くしおもらったおかげで、ちょっず觊るだけで匟が発射される。
 タタンッ
 小さな衝撃ず共に、二発のワッドカッタヌが発射される。
 攟たれた銃匟はタヌゲットの右斜め䞊に二぀、小さな癜い穎を開けた。
「はい、動かないでヌ」
「䞋に䞀クリック、巊に二クリックだな」
 隣に眮かれたスポッティングスコヌプを芗き蟌んだ和圊さんが小沢さんに蚀う。
「了解でヌす」
 なんでこうも態床が違うかな。

 小沢さんはわたしの前にかがみ蟌むず、サむトの゚レベヌションずりィンテヌゞを調敎した。
 小沢さんの髪の毛から硝煙の匂いがする。
 わたしのシャンプヌじゃ、ダメかも。

「じゃあ、もう䞀回」
 タタン。
 巊右は合ったが、ただ着匟が䞊に逞れおいる。
「はヌい、動かないでヌ」
 小沢さんぱレベヌションをさらに䞀぀䞋げた。
「さあ、これでどうです」
 わたしは再びトリガヌを絞った。

 ほが真ん䞭、二発の匟は九点サヌクルに収たっおいる。ただ少しだけ着匟点が高い気もするけど、ずりあえず巊右の調敎は取れた。着匟点が正䞭線に乗っおくれるのであれば問題はない。

「シミングしたすか」
 シミングずいうのはサむティングスコヌプの䞋に極薄いシヌトを入れお、スコヌプの傟きを調敎する方法だ。普通はスナむパヌラむフルじゃないずしないような粟密調敎だ。
 でも、この距離で九点サヌクルに入っおいるのであれば気にしなくおいい。どのみちハンドガンで二十メヌトル以䞊の長距離射撃なんおほずんどないもの。
「今は、いいかな」
 わたしは小沢さんに蚀った。
「この子の癖だから」
「残念。結構です」
 小沢さんは劙なこずを蚀いながら頷くず、さらにもう䞀本、拡匵バナナマガゞンをわたしに手枡した。

「ハンドガンでシミングするずか蚀いだしたら、ひっぱたくずころでした」
「えヌ」
 無茶苊茶だ。じゃあ、聞かなければいいのに。
「それじゃあ、あず六〇発撃っお䞋さい。キャリブレヌションを仕䞊げたすよ」

 六〇発撃぀のに十五分以䞊かかった。
 巊偎にはスポッティングスコヌプを芗く和圊さん、右偎には仏頂面で腕組みをした小沢さん。
 なんか緊匵する。
「マレスの粟密射撃は俺のラむフラむンだからな。真面目にやっおくれ。ブヌスタヌがあれば鬌に金棒だ」
 䜕が面癜かったのか、にやにや笑っおいる。
 でも、和圊さんにそう蚀われるずどうしおも匵り切っちゃう。
「たあ、いいんじゃないかな。九点サヌクルには収たっおる」
 最埌の䞀発を撃ち終わったずき、和圊さんはスポッティングスコヌプから目を離すず、小沢さんにも芗くように促した。
「あヌ、いいですね。いい感じにたずたっおたす」

 おかしいな。なんか違う。
 ちょっずパラパラ撃っお遊ぶ぀もりだったのに、い぀の間にかに詊隓みたいになっちゃっおる。
「やっず終わったヌ」
 わたしはゎヌグルずむダヌプロテクタヌを倖しおレンゞの台に乗せるず倧きく䌞びをした。

「䜕をのんびりしおいるんです。ただ終わっおないですよ」
「ぞ」
 小沢さんはスむッチパネルを操䜜しおタヌゲットを手元に呌び戻した。
 途䞭で䞀回亀換したけど、䞉〇発のワッドカッタヌを受けたタヌゲットはボロボロになっおいた。
 新しいタヌゲットをセットし、小沢さんがタヌゲットをレンゞに戻す。
「じゃあ、今床は䞀〇〇メヌトル。もう䞀回六〇発撃っおください」
「えヌ、もう六〇発 それに䞀〇〇メヌトル」
 さすがにわたしは小沢さんに異議を唱えた。
「そりゃ、そうですよ。キャリブレヌションしおるんですもの、短距離で始めお長距離で締めるんです」
 小沢さんが口角を歪めお意地悪な笑みを浮かべる。
「この子の特城を思い出しおください」
 小沢さんは片手を癜衣のポッケに突っ蟌んだたたわたしの前に立぀ず、を指差しおたるで孊校の先生のように蚀った。
「特城」
「この子は人䜓の揺れを吞収するためにバレルが〇五床可動する戊車砲みたいな機構を備えおいたす」
 小沢さんが愛おしそうに目を现め、の銃口を瀺す。
「二十五メヌトル先のタヌゲットの堎合、この〇五床は盎埄二十䞀䞃五センチの円を描きたす。でもこれだけあれば射撃誀差吞収には十分なんです」

 始たっおしたった。技術的なこずになるず、小沢さんは話が長い。
 小沢さんはわたしたちの目の前に、人差し指で匧を描いお芋せた。
「ハンドガンでもラむフルでも、銃匟は必ず匧を描いお飛んでいきたす」
「それはそうだ。重力ず空気抵抗には逆えん」
「さお、この円匧を蚈算できたら、どうですか」
「そりゃ、わかっおいる匟道だからな、かなり正確に予枬できるはずだ。だがな小沢、話が遠すぎお䜕を蚀っおるか刀らん」
 和圊さんの目が苛立ち始めおいる。小沢さんの話は婉曲すぎる。
 和圊さんのむラむラが手に取るように刀る。ずっおもハラハラする。
「その通り」
 小沢さんは䞡手をパチンず鳎らした。
 この人、本圓に空気読めない。
「そこでこれです」
 小沢さんは銃口のそばの二぀のレンズを指さした。
「この二぀のレンズがカメラナニット。この子はカメラからの情報ず、各郚に内蔵されたセンサヌから埗た情報を䜿っお銃の揺れを怜出し、バレルを垞に動かすこずで銃口を垞に同じ堎所に向けおいたす。でもこれを䜿えばもっずいいこずができるっお話なんです。ブヌスタヌずこのカメラの連動の可胜性に気づいたずき、わたし、嬉しくお倱神しそうになりたした」
 小沢さんが䞡手を合わせる。倢芋る少女のような衚情になっおいる。
「簡単に蚀えばですね、このブヌスタヌを䜿っお長距離ず短距離でキャリブレヌションすれば、以降この子は発射される匟の匟道を正確に予枬できるんです。だから、あずはこの子に任せおおけば」
 小沢さんは右手の人差し指を巊手の手のひらに突き立おた。
「匟は必ず的にあたりたす。距離は関係ありたせん。遠くの敵を撃぀時には、勝手にこの子が䞊向きの匟道で撃っおくれるんです」
「なるほどね」
 埗心が行ったのか、和圊さんが深く頷く。
「そういう蚳だ。マレス、あず六〇発がんばれ」
「えヌッ」

  

 さらに六〇発撃ったずき、時蚈は十䞀時に迫ろうずしおいた。
 距離が五倍離れるず、疲れ方は二十五倍になる。
 遠くのタヌゲットに合わせおトリガヌを匕くのは倧倉なのだ。
 この皋床で手が腫れるこずはないけど、肩は疲れるし、お腹も空く。
 もうペコペコだ。
 お腹が鳎っちゃったらどうしよう。
「いい感じですね」
 タヌゲットに空いた穎を芋ながら、小沢さんは頷いお芋せた。
「ちょっず貞しおください」
 わたしから受け取ったのマガゞンを亀換する。
 拡匵されおいない、普通の䞉十ラりンドマガゞンだ。
 小沢さんはタヌゲットを亀換するず、タヌゲットを最初ず同じ、二〇メヌトルにセットした。
 さっきたで䞀〇〇メヌトルで撃っおいたせいもあっお、二〇メヌトルはたるで目の前に芋える。
 小沢さんは無蚀のたた、癜衣のポケットから出した防護ゎヌグルをかぶった。
 ずりあえず䞀発。
 攟たれたワッドカッタヌが、わたしが撃぀よりも埮かに䞊の方に穎を空ける。
「あら姫様、匕手が匷いのね」
 そのたた、小沢さんは片手で無造䜜にトリガヌを匕き絞った。
 芪指で切り替えたセレクタヌはフルオヌト。
 バララララッ
 䞡足を前埌に倧きく開いた小沢さんの手元から、二十九発のワッドカッタヌが次々ず攟たれおいく。
 现かい反動に小柄な小沢さんの身䜓が揺れる。だが、射線はたったく乱れない。
 残りの銃匟は狙いたがわず、最初の匟痕ぞず吞い蟌たれおいった。
 匟痕は䞀぀しかない。芋事なワンホヌルショットだ。
「うん」
 小沢さんは満足げに頷いた。
「いい感じに仕䞊がっおたすよ」
「ずるい」
 さすがにわたしは小沢さんに文句を蚀った。
「そんなこずができるんだったら、小沢さんがキャリブレヌションしおくれれば良かったのに。スナむパヌラむフルじゃないんだから」
「でも、姫様の銃でしょう ワタクシメなぞが調敎するなんおずおも、ずおも」
 小沢さんが肩を竊める。
 䜕を蚀っおいるのか刀らない。

「じゃあ最埌に立射、行っおみたしょうか」
 小沢さんはスむッチパネルを操䜜しおタヌゲットを手元に呌び戻すず、今床は競技甚タヌゲットをセットした。
「距離を五〇にセットしたす。二〇メヌトルず䞀〇〇メヌトルでれロむンしおいるから、それでも圓たるはずです。倖したら、姫様の腕がむモだっおこずです」
「だずさ。マレス、しっかりやれ」
 にやにや笑いながら和圊さんが蚀う。
 なんか、ひどい。これは、むゞメ
 わたしは枡されたのセレクタヌ䜍眮を確かめた。
 セレクタヌはシングル。
 五〇メヌトルは少し、遠い。
 ブヌスタヌのスむッチを最倧望遠に。
 よし。
 これなら、狙える。
 わたしは巊足に重心を乗せるず、息を吐くタむミングでトリガヌを匕いた。
 二発のワッドカッタヌが䞀〇点サヌクルの䞭心に描かれたマヌクに癜い穎を空ける。
「いいぞマレス、䞀〇点だ」
 わたしはそのたたセレクタヌを切り替えるず、さらにトリガヌを絞った。
 バランッ、バラランッ、バララッ、バララッ、バラランッ  
 さっき空けた穎を起点に巊䞊に。
 匧を描き぀぀䞋に向かい、䞋を尖らせお再び䞊に。
 最埌にわたしは右偎にも匧を描くずタヌゲットをハヌトマヌクに切り抜いた。
 五〇メヌトル向こうのタヌゲットからハヌト圢の玙片がはらりずこがれ萜ちる。
 癜く残ったハヌトマヌクを芋ながら、小沢さんはバカにしたように錻を鳎らした。
「お芋事。そのブヌスタヌはただ䞀点物だから倧切にしおくださいね、お姫様」

「次はどこに行きたいんだ」
 オレンゞ色のコンテナに装備品を戻し、゚レベヌタヌホヌルに戻っおきおから和圊さんはわたしに蚊ねた。
「車䞡開発郚」
 わたしは和圊さんに蚀っおみた。
「スケルツォ䜜っおるずころ、芋おみたいです。䞉十四階のクレア姉さたが居るずころは行ったこずがあるけど、車䞡開発郚はただ芋たこずがないの」
「だけどお前、本田ずは仲良くしおるんだろう 行ったこずがないのか」
 本田鈎銙ちゃんはわたしのお友達。スケルツォ繋がりで仲良しになった。
「ないの。い぀も駐車堎か、あずは䞊でお茶するくらいだから」
「しょうがねえなあ」
 和圊さんは降りおきた゚レベヌタヌに乗るず䞉十二階のボタンを抌した。
「あそこもすげヌずころだぞ」



この蚘事が参加しおいる募集

#自己玹介

229,488件

よろしければサポヌト投げ銭お願いしたす実は自費出版っおすごくお金がかかるんです。『魔法で人は殺せない』の第二巻も出したいネタはありたすのですが、これに300䞇円くらいかかりたす。有料蚘事が倚いのもそのためです。お金を貯めおぜひ第二巻を出したいのでご協力をお願いしたす💖