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小説集

13
短編などはここに集めておきます。ティーザー版の説明もここに書きます
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#掌編

[SS]手品師

[SS]手品師

 家に帰ってきたら友人が待っていた。
 彼は手品師だ。鍵開けも得意なのでそれできっと忍びこんだのだろう。
 しかも彼は彼女を連れていた。
 勝手にコーヒーを入れて彼女と楽しそうに話し込んでいる。
 しかし、ひとんちでくつろぐってこいつらどういう神経をしているんだろう?
「おう、おかえり」
 雄介は椅子に座ったまま、俺に片手をあげた。
「はじめまして。睦美と申します」
 雄介の彼女が頭を下げる。
 

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【SS】天国の向こう側

【SS】天国の向こう側

「人は死んだらどこにいくのか?」
これは僕の長年の疑問だった。
「いずれわかる」
 と亡くなったじいちゃんは僕に言ったが、死んだ後でじいちゃんは僕に教えてはくれなかった。
 
 死んだらどうなるか? これは教えてくれる人は一人もいない。

 どうせすることもないし、一つ死んでみるか。

 そこで僕は死んでみることにした。
 どうせ死ぬなら痛くない方がいい。
 いろいろ考えたが、確実性を優先して飛び

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【掌編】アシスタント

【掌編】アシスタント

 詳細は省くが妻に逃げられた。
 とにかくある朝ダイニングに行くと「出て行きます」というメモと押印済の離婚届が置かれていたと、まあそういうことだ。

 気がつけば確かに妻の持ち物はすべてなくなっていた。
「まあ、仕方がない」
 僕は誰にともなく呟くと、仕事部屋に戻って今日の執筆を始めた。
 僕は小説家だ。著作もある。ヒット作は特にないが、数が多いのでそれなりに生活は送れている。
 元々ほとんど交渉

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【掌編】写しの泉(改訂版)

【掌編】写しの泉(改訂版)

 その日、Aはやけに羽振りの良さそうな服装で現れた。
「やあ、ひさしぶり」
 5年ぶりに会ったAはパリッとしたスーツに身を包み、いかにも高級そうなピカピカの靴を履いていた。腕には金色の時計、ネクタイも明らかにブランド品。
「今日は俺がご馳走するよ。寿司でもどうだい?」
 Aが連れて行ってくれた店は、僕でも知っている有名な寿司屋だった。
 Aは慣れた様子で「親父さん、何か適当に握ってくれないかな? 

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【掌編】そしてみんな猫になる

【掌編】そしてみんな猫になる

 今となってはその病気の原発地点は判らない。また原因も、また媒介生物あるいは病原体そのものも未分離の状態。それが今日の状態だ。
 ともあれ、ある日を境に世界各地で人間が猫化するという奇病が発生した。
 それも、ほぼ同時多発に。

「とにかく、なんとかせねばならんのだ」
 まだ猫化が進んでいないWHOの局長はドンッと拳で大きな机を叩いた。
 だが、すでに猫化が進んでいる各国の代表の反応ははかばかしく

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