見出し画像

ゴールデンウィークが始まる

福岡も、新型コロナウイルスの新規感染者が、4月28日、過去最高の人数となった。亡くなる方もいる。いくらかはそれが抑えられているのは、医療現場の方々の、命と心を削るような尽力の故なのだろうと思っている。祈ることしかできないが、片時も忘れないでいるつもりだ。
 
なにせわが家にもその一人がいる。ワクチン接種が始まり、実際にワクチンも手にしている。重症化する懸念のある高齢者からそれは始まるが、実のところ医療従事者にもワクチン接種は殆ど進んでいないと言ってよいくらいである。そして接種用シリンジをつくるために、相当な手間と時間、技術と緊張が必要だということを、マスコミは少しも報じない。具体的にどのようにして一人のひとに接種ができるようになるかを報道すれば、口先だけの批評家などはもうこれまでのように煽るようなことは言うことができなくなるに違いない。
 
一年前は、非常事態宣言なるものが初めて発令され、ウイルスなるものにどのように対処してよいか分からなかった段階でもあったために、学校までも閉鎖され、さながら「沈黙の春」を演じていたようなものであった。散歩を日課としていたが、学校の横を通ると、気持が悪いくらいに静かで、死の町という風景をそこに感じた。ただ、カーソンの「沈黙の春」というのは、自然環境の悪化により生物がいなくなるために、春になっても沈黙が続くばかりだという意味での象徴だったが、昨年はそうではなかった。人が表に出ないものだから、鳥たちが街なかを、人を恐れずに大胆に飛び回っていたのである。余計な音も少ないものだから、むしろ鳥の音が大きく響きわたっていた。それは、なんだかほっとするような情景だった。
 
今年も、少しばかり憂鬱な連休の時を迎えることになる。ただ、人々はある程度の対処の仕方を心得た。去年のように、ただ恐れて籠もっている必要はないと学習した。ある意味で、これがよくなかった。ここのところの感染拡大は、もちろん感染力の強い変異株という理由はあるにしても、そればかりではなく、少しばかり敵を知ったが故の、ブレーキの緩みであることは明白だ。「知は力なり」という言葉は、一面の真理を伝えてはいるが、人間の根底がさほどのものではないという場合には、「知は愚かなり」となってしまうことがあることも、証拠立てているようである。
 
初めに、祈ることしかできない、と言った。だが、祈りの文句を唱えればそれでよい、というものではない。それでは、多分に祈っているということにはならないだろう。王に多額の借金を帳消しにしてもらった家来が、その帰りに自分に少額の借金をしている者の首根っこを捕まえて牢にぶちこむ逸話が、新約聖書にある。もちろんイエスは、これを戒めているのだが、キリスト教徒は、祈ることで神の赦しをひしひしと感じるものであるにも拘わらず、祈り終わった瞬間に、感染の危険のあることを平気で行ってしまうとなると、全くこの逸話を実践していることになるだろう。
 
いや、祈るならまだいい。現実に、教会は、疫病退散とは祈るが、医療従事者のためにはもう祈っていない。すっかり忘れている。一時、社会が医療従事者を報道で取り上げている間は、確かに祈っていたが、どうやら流行りが過ぎると、慣れっこになってしまったようである。それを忘れているからこそ、医療従事者を逼迫させるようなことが、できるのだ。
 
オリンピックに何百人と看護師を寄こせ、と政治家が圧力をかけ始めた。主催の責任を果たせと都知事を脅している。メンツだか金だか知らないが、医療従事の現場を知らないことがはっきりと分かる。政治家も、評論家も、コメンテーターも、どうぞ病院にいらして戴きたい。但し、医療の邪魔をしないように見学させてもらうようにしなければならない。
 
被災者の生活の現場に行く皇族が支持されたのは、現場というものを気にかけてもらえたと感じたからだろう。被災地で活動する教会、社会で苦しんでいる人々に接する教会もある。現場で、当事者を知ることにより、初めて分かること、できることに気づかせてもらうことだろう。いま、コロナ禍の中、命の現場というものが中心にある。命を守るための行動が呼びかけられている。もちろん、経済も気になるが、経済全体が崩壊しているようには見えない。むしろ生活者の経済が止められることで、庶民の命が危機的であると言える。その意味で、やはり命が問題なのである。
 
命を支える経済と、そして命を直接救う医療と、私たちはその現場と当事者に、どれだけコミットできているのだろう。コミットしようとしているのだろう。ゴールデンウィークが始まるこの日、医療を崩壊させているのは自分かもしれない、と思う気持ちが必要だと思ってくださらないだろうか。キリスト者であるならば、それが祈るということなのだ、と噛みしめてくださらないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?