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アフターコロナに求められるドラマとは【第30回マスクの向こう側】

<まえがき>あなたの思い出のドラマは何ですか?私は「都会の森」です。親に隠れて見ていました。最近はTVを見る人が減っていると言いますが、ドラマは別口。未だに番組改編の時期になると、ついチェックしてしまいます。1本作るのに1千万単位のお金が動くと言われるドラマの制作。相当数の人が時間をかけて生み出すだけに、コロナの影響が懸念されます。今回はその変化について、TV局のドラマ・プロデューサーにお話をお聞きしました。

●プロデューサーってどんな仕事をしているの?
●「コロナ下でこれが大変だった!」どんなこと?
●これからのドラマってどうなるの?

―自己紹介をお願いします。
テレビ局のドラマ班でプロデューサーをしています。一つのドラマができあがるまでには、企画、脚本、キャスティング、スタッフィング、ロケーション、撮影、編集、宣伝etc.様々な工程が必要ですが、その全体管理に取り組んでいます。

―イメージ的には、すごい華やかな仕事ですよね。
いや、泥臭い部分ばかりですよ。ドラマ制作には多くの人、お金、時間が必要になります。それぞれ違う立場で仕事をするわけですから、当然ながらその中で、問題もたくさん起こります。プロデューサーはそれを解決するために、多くの人の間に入り、意見を調整しなければなりません。その点、どちらかと言うと、企業の中間管理職に近いと思います。一人では到底務まらないので、大体はエグゼクティブ、チーフ、アシスタントなど何人かプロデューサーがついて業務を分担しています。その他、放映するテレビ局だけでなく、制作会社からもプロデュ―サーが立つ場合もあります。肩書きは同じプロデューサーでも、立場や役割は色々なんです。

―コロナの影響を実感したのは、いつくらいですか。
3月です。直近に撮影スタートの現場があり、それに向けてキャスティング、スタッフィングを進めていたところ、出演予定の役者さんの事務所から「今の現場がコロナの影響で後ろ倒しになっているので、撮影もできれば後ろにずらせないか」という連絡が入ってきました。当時は、まさかコロナがここまでの事態になるとは想像していませんでした。その撮影シーンだけを後ろ倒しにすればいいと思っていましたが、その後、同様のことが、他でも多発し始めます。コロナを原因として多くの現場が中断し、その余波で、後のスケジュールが押すようになりました。その案件も、気づけば、どんどん後ろにずれていきました。今もその混乱は続いています。

―4、5月、「これは大変だった」ということはどんなことですか。
進行中の案件の調整業務です。プロデューサーの仕事は大きく分けると2つあって、1つは作品をより良いものにするために企画や脚本に深く関わること。言うなれば「クリエイティブ」の部分です。そして、もう1つがスケジュール調整や予算調整など、ドラマ制作をスムーズに行うための「調整業務」です。

これがきつかった…。たとえば、プロデューサーのもとには様々な情報が集約されてきますが、それを踏まえた上で、スケジュールのこと、お金のことなど、その都度、決断を下さなければなりません。時には、周囲にネガティブなことを伝えたり、後ろ向きなお願いをしたりしなければいけないこともあります。関係者と一同に会して共通認識を作ることができないなかで、こうしたコミュニケーションを一つ一つ、電話で積み上げていかなければならない。コロナの期間は、その精神的な負荷が大きかったですね。
その一つの原因として、コロナに対する意識は人それぞれだ、ということがあると思います。「インフルエンザのようにすぐに収まっていくだろう」と思っている人もいれば、「この先のことがものすごく不安」という人もいます。そのため、先に挙げた撮影の後ろ倒しに関しても、同じ内容を伝えているのに受け取り方も反応も様々です。そういうそれぞれの相手と合意を積み上げていかなければならない。事前に分かっていれば対処の仕様があるのですが、初めてのことで共通理解もありません。相手の反応を見ながら、その都度、対応を求められるのは本当にきつかったですね。

―コロナは、ドラマ制作にどのような影響を及ぼすと思いますか。
コロナ前後で、人の世界観が変わってしまったところが少なからずあり、ドラマのシーンもそれに合わせる必要があると思います。これは、過去を描いた作品でも、現在を描いた作品でも同様です。たとえば、20年前の設定で「人が密集している」というシーンがあったとします。「過去のことだからいい」という人もいるかもしれませんが、「密」の状況を見るだけでストレスを感じる人もいるかもしれません。また、そのシーンを実際にどうやって撮影するかという問題も出てきます。視聴者がコロナに気を取られてドラマに集中できないという事態は避けなければいけません。2020年を舞台にしたドラマを描く時も同様です。マスクをつけ、ソーシャルディスタンスを徹底させたリアルな設定にするか、それとも、コロナのないパラレルワールドとして見せるべきなのか。視聴者の見え方に配慮することが求められます。この基準はその時々で変わってくるので、制作段階ではなく、放映時まで考慮して、決めないといけないと思います。

―これから、どんな作品が流行ると思いますか。
緊急事態宣言が出たばかりの頃は、何も考えずに楽しめるホームコメディのようなドラマが支持されたような気がしますが、これからは分かりません。単純にパニックムービーがダメとか、ホラーがダメとかいうジャンルの問題ではないと思います。結局は「価値観がどう変わるか」という問題ではないでしょうか。
たとえば、サラリーマンの仕事終わりの過ごし方一つでも、この自粛期間を経て、大きく変わりました。これまでなら、先輩と一緒に飲み行って、そこで愚痴を言ったり、説教されたり、「色々あるけど明日も頑張ろう」というように「文脈を共にする」ということが職場の人間関係で大事だったりしたと思います。でも、この自粛期間は、誰もがそれとは違う時間の過ごし方をしました。職場の人間と共にする「文脈」の質量が変わってしまった。そんな風に感じています。今後コロナが終息したとして、以前と同じような考え方が戻ってくるのか、それともこのまま廃れていくのか。そしてそんななか、人はどんなドラマを見たいと思うのか。価値感のあり方によって、求められるドラマも変わってくると思います。プロデューサーというのは、闇雲に自分が好きなものを扱うのではなく、そこに時代が求めているものを掛け合わせていく“掛け算”のような仕事です。いいものを作るためにも、これまで以上に、価値感の変化には敏感でありたいですね。

―振り返った時、コロナの期間は、自分にとってどんな位置づけになると思いますか。
どうですかね。まだ終わっていないので、総括はできませんが……「準備期間だった」と思えるようになるといいな、という思いはあります。私はプロデューサーとしてまだまだ未熟で、年間10本くらい企画を出して、1本、形になるかならないかというところです。同世代のプロデューサーが、ヒット作や斬新な作品を世に出して、華々しく活躍しているのを見るたびに焦りを感じていました。この自粛期間、自分にできることが制限されるなかで、一時はその焦りをさらに強く感じたりもしました。でも途中で「もう焦るのはやめよう」と思ったんです。「自分はどんなドラマを作りたいのか」「社会にどういう価値観を提示したいのか」etc.改めて、見つめ直す機会ととらえなおすことにしたんです。行動が制限されていた分、今はエネルギーがたまっているのを実感します。“飢え”というのでしょうか。自分と他人を比べてどうこうではなく、純粋に「いいものを作りたい」という強い思いがあります。矛先がどこに向かうかはまだ分かりませんが、後から振り返ってみた時、コロナがいいきっかけだったと思えるように、これから取り組んでいきたいと思います。(Iさん/テレビ局プロデューサー)

コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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