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<まえがき>コロナをきっかけに様々な分野でリモートワーク化が進められています。「通勤ストレスの減少」「業務の効率化」というメリットのが見込まれる一方、リモートワーク化がこれ以上進むと「商売として成り立たなくなってしまう」という業種も存在します。今回は、事業ゴミの収集をしている方にインタビューしました。

●事業ゴミ収集って、どんな仕事?
●どうしてリモートワーク化すると困るの?
●クイズ!ゴミ40キロ運ぶといくらになるでしょう?

―事業ゴミの収集って、どんな仕事なんですか。
オフィスや飲食店、ホテルなどから出るゴミを収集運搬しています。エリアは東京都内16区、顧客は300社ほど。本当はもっと広げてもいいのですが、ゴミを収集運搬するには区ごとに行政の許可が必要で、しかも2年ごとに更新を受けなければならず、手間がかかります。ドライバーの人手も足りないので最近はあまり手を広げないようにしています。

―自治体の依頼を受けて、ゴミを収集しているということですか。
都内では一般家庭ゴミが無料なので(自治体により異なる)あまり意識されてないですが、事業ゴミを回収してもらうにはお金がかかります。「1キロ当たりいくら」という感じです。長年現場でゴミを持ち上げてきたおかげで、今ではこれは10キロだなとか、15キロくらいだなとか、大体、重さが分かるようになりました(笑)。

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―コロナ前後で、どのような影響が出ましたか。
初めに身近な影響を感じたのは3月です。回収先のホテルのゴミが極端に少なくて「あれ?」と思いました。今考えると、その頃から客足が落ちていたのだと思います。それが4月の緊急事態宣言後、「4月は休むので回収はいらない」という電話がひっきりなしにかかってくるように。お客様がみんな休むなら、うちも休むのですが、1社でも営業しているところがあったらそうはいきません。でも、トラックを出してもゴミはいつもの5分の1くらい、2tトラックで500キロに満たない状態です。1台で広いエリアをカバーしているため、台数を減らすわけにもいきません。緊急事態宣言が明けた6月になると、8.9割のお客様は事業を再開しましたが、肝心のゴミは戻ってきません。キロ当たりでお金をもらう従量制がメインのため、経営もかなり苦しいです。

―ゴミ収集は、感染リスクが高いとも聞きますが。
ゴミの中には瓶・缶・ペットボトルも含まれます。誰かが直接口をつけたものが、むき出しになっているわけですから、感染リスクはかなり高いと思います。最初は、マスクも消毒液も手に入らず苦しかったですね。とりあえず、軍手の下にビニール袋をはめ、事あるごとに手洗いを心がけ、感染対策に務めました。正直、みんなと同じように家に引きこもっていたかったのですが、そういうわけにはいきません。ゴミ収集は公衆衛生に関わる、社会のインフラです。誰かが片付けなければそのまま道に置き捨てられてしまいます。自分がコロナにかかったら色んな人に迷惑がかかってしまうので、必要以外、どこにも出かけないようにしました。テレビでは、医師や看護師がコロナに立ち向かう「エッセンシャルワーク」として注目されていましたが、心のどこかに「俺達だって」という思いがありました。一般家庭ゴミの収集業者が、何かのニュースに取り上げられていた時があって、正直、羨ましかったですね(笑)。

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―これから業界(世界)は、どう変わっていくと思いますか。
今、一番怖いのはリモートワークの推進です。そうなると一般家庭ゴミは増えても、事業ゴミは減ってしまいます。実際、担当している大手企業のオフィスは6月になってもゴミが減ったままです。その他、飲食店もホテルも同じです。いつになったら、コロナが完全に終息するのか。仮に終息したとして、事業ゴミはどうなっているのか、人は戻ってくるのか…考えてもしょうがないことですが、やはり不安になってしまいます。仕事がないなら、人を減らせばいいと思うかもしれませんが、物流業界は人手不足で、後で仕事がもとに戻った時のことを考えると、簡単には切れません。国の施策を利用して、無担保無利子で融資を受けたので資金面では当面の心配いりませんが、この先、世の中の動きに合わせて、自分達もやり方を変えざるを得ないと思います。

―他に、何か伝えておきたいことはありますか。
ゴミ収集って、大きなくくりで言えば、物流業なんです。荷物をちょっと雑に扱うことのできる物流業。でも、その料金形態は全然違います。たとえば、事業ゴミ・燃えるゴミであれば「1キロ40円まで」というように法定で上限が設けられています。そして、私達のような業者みんながこの下で価格競争をします。たとえば、30円で仕事を受けたとして、今度はそこから処分費用も捻出しなければなりません。ゴミを収集した後、処分場に引き取ってもらわないといけないわけです。そのお金が15円だとすれば、差し引きで1キロ15円の利益しか出ないことになります。40キロの荷物を運んだとして600円です。もし、ゴミ収集以外の運送業者に「600円で40キロの荷物を運搬して欲しい」と依頼したら、受けてもらえるでしょうか。絶対断られると思います。

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なぜ、ゴミだけがそんなに安いのか。それは、日本では家庭ゴミなら無料で出すことができるからです。そのせいで、日本はゴミにお金を払う意識が希薄なんです。事業者も「どうしてゴミを出すのにお金がかかるんだ」と思っているから、支払いも一番後回しになります。コロナ後、お金を払ってもらえるのか、倒産未払いされるのではないかという不安もあります。お金に限らず、許可制とか更新制とか、業界のことを色々取り決めた法律が古いものばかりなので、まずは時代を反映するためにも、それらを新しくしてほしいですね。(Iさん/ゴミ収集)

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