野球少年を襲う病魔〜痛くない野球肘がある?〜
野球少年をおそう病魔"その名は上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎"一般的投球障害(野球肘)とは違い、特殊な投球障害に分類され、骨の"病気"として理解しなければなりません。一般的な野球肘とは、球数、強度、投球動作、頻度などいわゆるトレーニング負荷によってホメオスタシス(恒常性)を保つことが出来ず、骨が剥がれたり、靭帯がキレたりするものです。しかし、この"上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎"はトレーニング負荷によって発症するものではなく、骨の病気として考えます。したがって、投球動作や球数は原因ではなく、発症後の増悪因子ということになります。
少し詳しく説明していきたいと思います。
野球肘とは(wikipedia)
"野球肘(やきゅうひじ)は、野球によって肘部に生じる疼痛性運動障害の総称。別名、リトルリーガー肘、リトルリーガーエルボー、ベースボール肘、ベースボールエルボーとも呼ばれる。
スポーツを要因とする反復性損傷は運動種目ごとに特異的固有的なストレインを発生させることがあり、その代表的なものが外側上顆炎にあたるテニス肘や、内側上顆炎にあたる野球肘である。
野球肘は投手に発症することが多い。野球肘は誤った投球動作による投球や投球数の過多などの要因で引き起こされる。10代前半で発症する例が多い"
と記載されています。
私の認識と多少、相違がありますが今回は離断性骨軟骨炎について書いてきますのでここでは相違点については触れません。"野球肘(やきゅうひじ)は、野球によって肘部に生じる疼痛性運動障害の総称"と記載されていますが、これは私も同意したいと思います。これをより正解に近いと判断した場合、野球肘は疼痛性運動障害ということが条件ということになります。しかし、この上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎は初期では痛みが伴わないことが特徴です。この条件では、上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎は一般的な野球肘というカテゴリーに分類化することが出来ないということになります。一般的ではありませんが、小学生時に痛みを認知することは稀なので、知らないうちに発症し、投球や打撃を繰り返すことによって症状は進行し、中学生頃に痛みが出てきます。この時、初めて痛みを伴いますが、痛みが出た時は、不可逆性(元に戻らない)の状態になっていることが多くあり、治療として手術が必要になってきます。痛みがでたとういうことは、疼痛性運動障害という条件をクリアしますので、一般的野球肘に分類化することが出来ます。よって、初期では痛みがなく発症し、投球動作や打撃動作などトレーニング負荷によって症状は悪化し、痛みが出た時は手術も必要な状態にまでジワジワと何年にもわたって症状が進行しているという経過を辿ることから他の野球肘とは違った特殊な野球肘と言えます。我々は別名"野球肘のがん"とも呼ぶほどです。
上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎とは、、、
1:どこに起こるのか
この緑の矢印位置になります。一般的な野球肘は内側になりますが、この上腕骨小頭部離断整骨軟骨炎(外側型野球肘)は外側になります。
レントゲンで病巣部を観察すると、このようにみることが出来ます。赤い矢印の部分が病巣部となり、骨がすけ、黒くなっています(初期)。
CTで病巣部を観察すると、このように見えます。矢印のあたりがボツボツしているのがわかると思います(終末期(遊離期(病巣内期)。
超音波診断装置( エコー)で観察すると、このように二重線になっていたり、凹んでいるような画像を確認することが出来ます。エコーは離断性骨軟骨炎の初期を観察するには非常に有効な判断材料の1つになります(初期)。
2:なぜ起こってしまうのか
この原因については、様々な仮説があげられていますが未だ解明されていません。
※投球動作を含めたトレーニング負荷は原因ではなく増悪因子です。なので肘周りのエクササイズをしたり、投球動作を改善したからといって発症しないということは言えません。
①炎症性反応説
②純外傷説
③外傷性栄養障害説
④持続外傷説
⑤血行障害説
⑥内分泌異常説
⑦遺伝性体質素因説
離断性骨軟骨炎の仮説は古くは1720年に純外傷説を報告したMonroeから現代に渡ります。(参考文献1)
3:いつ頃起こってしまうのか
10ー12歳の第二次性徴期前に起こりやすく、初期は11歳頃が多いようです。
3−1:筆者がみてきた選手達
私が離断性骨軟骨炎の選手を初見時から施術をしてきた数は、カルテをザッと集めると87例。
小学生は55例(予後不良による手術は16例(29%)
中学生は28例(予後不良による手術は16例(57%)
高校生は4例(予後不良による手術は3例(75%)
より早期に対応することが大切だと考えております。
本日はここまで。起こる場所や起こりやすい年齢、原因が不明であることを書いてみました。1つ参考になってくださると幸いです。
4:症状・病態(上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎)
5:診断
6:治療・手術
7:可能な運動と禁止したほが好ましい運動
8:復帰までのプロセス
9:選手体験談
10:保護者体験談
11:指導者体験談
12:まとめ
を今後、書いていこうと思います。
令和元年12月23日 8時
現在、これから、上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎に対し手術をする選手と一緒にいます。この選手は、中学1年生。 小学校5年生で発見し約1年半投球、打撃を禁止しました。数ヶ月、少年野球部を休部をするなど家族含めチームも様々な策を講じておりました。6年生になり病巣部の修復がすすみ投球・打撃の開始が見込まれた時、少年野球チームに復帰。私も日々の施術や投球動作の指導を行い、より肘に負担がかからないよう工夫していました。中学になり、病巣部も小さくなり遠投を含めここ半年は投球制限がない中、経過を観察していました。しかし、12月中旬、送球した際に治りかけていた軟骨下骨が剥がれてしまい、肘の曲げ伸ばしが困難になってしまったのです。(剥がれた骨(関節遊離体)はくっつくことはない)
彼にとって良いクリスマスになりますように。。。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?