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海太郎、海を行く #6 イワシの大群

海太郎が海中をユラユラ移動していると、なにやら後方から騒がしい声があがり始めた。

「おい!あれを見ろ!」

「なんだあれは!」

「もしかして!あれは…」

振り返ると、イワシの大群が大騒ぎしていた。

「未確認海洋遊泳物体だ!」

「ほんとだ!未確認海洋遊泳物体、U.K.Oだ!」

「U.K.Oだ! U.K.Oだ!」

イワシの大群は完全に怯えきっており、大きく口をパクパク、右へ左へ大パニックに陥っている。

「今すぐ国防総省と将軍様に連絡をとれ!」

「U.K.Oがやって来た!ついに我々が恐れていたこの日がやって来た!」

「ぎゃー!」

U.K.O? 海太郎は、恐れ慄くイワシたちの視線の先に目をやった。そこには…

どこからか流れてきたペットボトルが、海面で日差しを浴びながら、キラキラぷかぷか浮かんでいた。

イワシたちの言うU.K.Oとは、ただのペットボトルであった。

海太郎は、パニックに陥っているイワシたちに呼びかけた。

「みなの者!静まれ!静まれ!ええい、静まらんか!これは、ただのペットボトルである!人間の私が言うのだから、間違いないのである!」

イワシのパニックはピタリと収まった。

すると、イワシの大群の中から、いかにも仕事が出来そうな、隊長らしき一匹が現れ、海太郎の前までやって来た。そして質問を始めた。

「ペットボトル…とな? なんだペットボトルとは?」

「ペットボトルとは…、我々人間が作った、美味しいジュースを入れておく容器である。したがって、あれはU.F.O…もとい、あなたたちの言うU.K.Oではない!つまり、怖くない!」

隊長らしき一匹は、海太郎の顔をマジマジと見ている。まだ心を許している様子は見受けられない。

「そのほう、今、人間と申したな? 名は何と申す?」

なんだか厄介事に巻き込まれそうな予感しかなかった海太郎は、咄嗟に偽名を答えた。

「拙者こと…、チャールトン・ヘストン」

「チャールトン・ヘストン…とな? 覚えておこう。ところで…、ヘストン殿」

「なんだ?」

「おぬしが人間であるならば、あのペットボトル?とやらに記されている文字が読めるであろう?」

「ああ、読めるとも」

「ならば今すぐ読んで聞かせてくれまいか?」

お安い御用だ。海太郎は、海面を漂うペットボトルのラッピングラベルに書かれている文字を読み上げた。

「フレッシュな野菜果汁… 100パーセントだ!」

海太郎が、そう読み上げた瞬間、固唾を飲んで成り行きを見守っていたイワシたちから、一斉に悲鳴や怒声があがった。

「人間だ!人間だ!こいつは間違いなく人間だ!」

「U.K.Oの文字を読めたから人間だ!」

「あの悪名高い人間だ!」

イワシの大群は、再び右へ左へ大パニックに陥った。

「ええい!こやつを引っ立てい!」

隊長らしき一匹の号令により、海太郎は柔らかいワカメでグルグル巻きにされてしまった。

「ヘストン殿。大変気の毒ではあるが、おぬしが人間であると証明された以上、我々は黙って見逃すわけにはいかない。悪く思うな」

なんなんだこの急展開は…。まったく呑み込めていない海太郎に、隊長らしき一匹は冷ややかに告げた。

「ヘストン殿には、このあと我々の将軍様に会っていただく。そして、おぬしを軍法会議にかける!みなの者、連れて行けい!」

ぐ、軍法会議!? よくわからないが、いよいよ大ごとになってきた。

わけもわからないまま、海太郎はイワシの大群にワッショイワッショイされながら、海の中を連行されていった。

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