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放送大学で心理学を学んだ証を学位授与機構で手に入れた話 -科目対応付き-


▼はじめに

 この記事は、社会人学生として放送大学に入学した筆者が卒業した上で、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構を利用し、心理学区分で文学の学士号を取得するまでを振り返ったものです。
 私は、2005年に大学院の修士課程(工学)を修了し技術系職種で就職しました。社会人になってからも学習欲が冷めやらず、大学の公開講座から興味のある講座を探しては単発で受講していました。
 社会人として経験を積み上げる中、同僚たちの中には大学院で学ぶ者もいて、私も再び大学で学びたいという気持ちが強くなりました。そこで、通信教育課程の大学説明会にも参加して複数の大学を見比べた結果、幅広くいろいろなことを学びたいと思った私は、放送大学への入学を決めました。

▼放送大学での学修

 2018年10月、放送大学の全科履修生として、心理と教育コースに3年次編入しました。
 4年間で卒業しようと、1学期あたり2~3科目の放送授業と、1学期あたり1科目の面接授業を履修することにしました。履修科目を選ぶ際には、放送大学のサイトでも紹介されている認定心理士の資格取得に必要な科目を意識しつつ、導入科目から順に専門科目へと移行し履修していきました。

(1)放送授業の進め方

 通勤時間を利用して印刷教材を読んでから放送授業を受け、通信指導まで終わらせるという流れで、1回の放送授業あたり1時間程度かけて取り組んでいました。
 放送大学は通信制の大学で自主性が求められるため、最初は学修のペースを掴むのが難しかったのですが、X(旧Twitter)で放送大学の皆さんがどのように学修を進めているのか様子を知ることができ、ペースを掴んでいきました。
 そして、単位認定試験前には、過去問2~3回分を解きながら理解を深めていきました。

(2)心理学実験の進め方

 認定心理士の資格を取得するためには、心理学実験の科目4単位が必要になります。シラバスによると、心理学実験を受講するにあたり、心理学系の科目を4単位程度履修していることが望ましいとされています。実際に、実験内容の理解やレポート作成にあたり、心理学概論、心理学研究法、心理学統計法の知識は必要でした。さらに、振り返ってみると、実験の内容に即した社会・集団・家族心理学や、知覚・認知心理学についても前もって履修していると、実験内容の理解が深まり考察もしやすかったという心象です。

(3)履修した科目

放送大学の印刷教材から一部を抜粋

 心理と教育コースの科目のほかにも、幅広くいろいろなことを学びたかったことから、主に3つの分野について学修しました。所属するコースのほかにも柔軟に履修科目を選べるのが放送大学の魅力だと思います。
・心理学系の科目(心理と教育コースの科目)
 認定心理士の資格取得のために、心理学に関する科目を、導入科目から履修をはじめ、領域ごとの科目を履修していきました。
・医療系・健康科学系の科目(生活と福祉コースの科目)
 もともと工学系の大学院で医療工学に関する研究を行っていたことから、医療系に関する科目にも興味がありました。のちに、学位授与機構の申請にも使用することとなりました。
・情報学系の科目(情報コースの科目)
 技術系職種として働いているため、情報化社会へのキャッチアップを求められています。放送大学の授業では、面接授業も含め初学者向けの内容を学ぶことができたのが良かったです。情報学系の科目も、のちに、学位授与機構の申請にも使用することになりました。

▼卒業研究は・・・履修を断念

 順調に単位を取得し続け、2021年1学期を終了する時点で卒業も見え始めました。そこで卒業研究についてテーマ設定や担当教員の相談にあたり質問箱を利用したところ、届いた答えは「あなたの現状では準備不足で卒業研究をできるレベルにありません」というものでした。テーマ設定、データ収集の方法、研究の方向性いずれをとっても不足しているとの回答でした。
 ここで、卒業を1年遅らせて卒業研究を履修することも考えたのですが、卒業までの修得単位数も残り少なかったことから卒業研究は断念し、編入学から4年後の2022年9月に卒業研究なしで卒業し、学士(教養)を取得しました。

▼認定心理士の資格取得

 卒業後に「日本尻学会 認定心理士申請システム」を利用し、認定心理士の資格取得のための手続きをしました。放送大学のサイトから、「18 認定心理士資格取得の手引き」を参照できます。

 申請には、成績・単位修得証明書および卒業証明書のほか、履修科目のシラバスが必要になります。認定心理士の資格取得を考えている方は、ご自身が履修した学期のシラバス、特に、心理学実験といった面接授業のシラバスを予め用意しておくとスムーズに手続きができます。
 2022年12月、「認定心理士」の資格を取得しました。

▼「学士号取得」という新しい目標

 放送大学の放送授業はリニューアルされ、面接授業も興味深い授業が多いので、卒業後の2022年10月から選科履修生として学修を継続することにしました。このとき、いつものようにXを眺めていると、学位授与機構の存在を知りました。
 学位授与機構から学位取得に向けて「新しい学位への途」という冊子が発行されています。

 この冊子を調べてみると、放送大学の単位修得と併せて学修成果を作成し、学位授与機構に心理学区分で申請すれば「文学」の学士号を取得できることが分かりました。卒業研究を断念したため大学院進学をどうするか迷っていたところ、心理学の分野で大学院進学を目指すときに、学修成果は卒業研究に代わる実績を示すうえで利用できると考えました。
 基礎資格について「大学の学生として2年以上在学し62単位以上を修得している」という第3区分にあたる要件を満たしていました。そして、心理学区分で文学の学士号を取得するには、放送大学の心理と教育コースで開講されている専門科目をさらに6単位修得する必要がありました。
 こうして、2023年4月から、不足分の単位を積み上げ、学修成果を作成するという新しい目標ができました。

▼学位授与機構への学修成果を作成するには

 学修成果は、大学等における単位の修得の成果が「学士の水準の学力」すなわち大学卒業者と同等以上の学力として身についていることを総合的に判断するための資料として、作成・提出することが求められています。

学修成果を作成するにあたり参考にした科目

(1)テーマ設定にあたり

 心理学区分での学修成果を作成するにあたり、心理学の授業の中で一番興味深かった「社会・集団・家族心理学」の印刷教材を読み直してみると、「社会心理学が扱う問題は私たちの日常生活や現実に起こった事件などと密接に関係している」との記載があります。そこで、普段の仕事で疑問に思っていた点を考察することを目標にし、「社会的勢力」と自分自身の仕事とを関連付けて学修成果を作成することにしました。

(2)学修成果の構成を決定するにあたり

 「日本語リテラシー」の授業では、先行研究はどのように調べるのか、文章の書き方はどのようにするのか、レポート全体としてどのような構成とするかが解説されています。さらに、先行研究調査を行う際には、インターネットのほかにも、放送大学図書館のサイトを利用するのが有用と分かりました。先行研究からどの点まで明らかになっているのか調査をし、インターネットでデータの収集をし、結果をまとめたところ、考察しようとする点も次第に明らかになってきました。

(3)心理学区分での学修成果を作成するにあたり

 学位授与機構の学修成果は、申請した心理学区分で大学卒業者と同等以上であるかどうか審査されます。そのため、心理学区分で執筆されている一般的な論文と同様の体裁をとる必要があると考えました。そこで参考になったのが、「心理学実験」のレポートでした。心理学実験のレポートは、講師によっては添削をした上で返却してもらえます。添削された点として、レポートの章立て(目的→方法→結果→考察→結論→今後の課題)、引用文献の提示方法、考察のために参考とする文献の適否、テーマに即した考察、文体の統一といった点が挙げられ、これらの点を学修成果を作成するにあたり反映しました。

▼ついに学位授与機構で学士号取得

 2023年の1学期に単位の積み上げをしながら学修成果を作成し、2023年9月に学修成果を提出、2023年12月に小論文試験を受験しました。小論文試験は、学修成果に基づく問題が2問、心理学区分の研究に関する一般的な問題が1問出題されました。小論文試験は持ち込み不可であり、90分で3問に筆記により回答するのは時間ギリギリといった状況でしたが、学修成果に沿った回答となるように意識し、全問に回答しました。
 2024年2月、学位記が届き心理学区分で申請した「文学」の学士号を取得できました。学修成果を学部レベルの水準に達していることを評価していただいた点が何よりも嬉しかったのです。放送大学の卒業から1年半をかけ、放送大学で心理学区分の学修をした証を手に入れたのです!

学位授与機構から届いた学位記

▼おしまいに

 この記事では、社会人学生として放送大学に入学した筆者が卒業した上で、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構を利用し、心理学区分で文学の学士号を取得するまでを振り返りました。
 学修成果を作成してみると、データをもっと広く集めればよかったとか、考察から新たな課題が見つかったりとか、将来の大学院進学に向けて研究計画を立てる上でのヒントが得られました。そして、卒業論文の断念から学位授与機構での学位取得まで遠回りはしたものの、心理学の分野で学修成果を残せたことが自信になりました。
 このように、興味の赴くままに学修を進めるのは楽しいことで、得られた知識を「形」として残すことは、まとめの意味だけではなく、次の学びのステップへと進むきっかけにもなりそうです。
 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

▼付記1:申請科目対応一覧

 放送大学のホームページに、「13 放送大学を利用して大学改革支援・学位授与機構で学士の学位取得をめざす方へ」というパンフレットがあります。

 このパンフレットでは、学位授与機構の心理学区分で学位を取得するにあたり、放送大学で開講されているどの科目が申請に利用可能かを確認できます。
 第3区分での申請にあたり、これまで取得していた単位を全て申請するところ、申請の単位数は余裕を持った方がいいのではと考え、最初に卒業した他大学の教職科目についても利用しました。ちなみに、放送大学の単位のみでみると、専門科目A群42単位、専門科目B群4単位、関連科目24単位の合計70単位を申請に利用していたことから、放送大学の単位のみで修得単位の要件はクリアしていたのではと推測しています。そして、上記の放送大学のパンフレットでは、B群(実験・実習科目)について空欄となっていたものの、心理学実験といった放送大学の面接授業でカバーできたものと考えられます。しかし、申請に際しては、学位授与機構発行の「新しい学位への途」におけるQ&Aにも記載のとおり、修得単位の審査は個々に判断されるため、同じ科目で受理されるかを保証するものではないことをご承知おきください
 なお、カッコ【】を付した科目は、認定心理士の申請にも利用した科目です。

「新しい学位への途」から引用 心理学区分で申請に必要な科目

専攻に係る授業科目の区分

専門科目(40単位以上)

【A群(講義・演習科目)】(30単位以上)
A群の区分のうちから「心理学に関する基礎的・概論的な科目」の区分を含み4区分以上にわたること
〇心理学に関する基礎的・概論的な科目
 【心理学概論】、【心理と教育へのいざない】、教育・学校心理学、【心理学研究法】、【心理学統計法】
〇知覚・学習心理学に関する科目
 【錯覚の科学】、【学習・言語心理学】、【知覚・認知心理学】、より良い思考の技法、【生理心理学】、【比較認知科学】
〇教育・発達心理学に関する科目
 【発達心理学概論】、【乳幼児心理学】、他大学教職関連科目から4単位
〇人格・臨床心理学に関する科目
 【認知行動療法】、【臨床心理学概論】、【今日のメンタルヘルス】、【人格心理学】、他大学教職関連科目から2単位
〇社会・集団心理学に関する科目
 【社会・集団・家族心理学】、【産業・組織心理学】、進化心理学、危機の心理学、他大学教職関連科目から2単位
【B群(実験・実習科目)】
〇心理学に関する実験・実習科目(2単位以上)
 【心理学実験1(面接授業)】、【心理学実験2(面接授業)】、【心理学実験3(Web)(面接授業)】、【心理検査法基礎実習(面接授業)】

関連科目(8単位以上)

♢情報科学に関する科目
 【身近な統計】、情報学へのとびら、人工知能入門(面接授業)、基本統計学-理論と分析実習-(面接授業)、表計算プログラミングの基礎(オンライン授業)
♢比較文化に関する科目
 申請科目なし
♢社会学に関する科目
 申請科目なし
♢生態学に関する科目
 他大学教職関連科目から4単位
♢医学に関する科目
 感染症と生体防御、リハビリテーション、睡眠と健康、疾病の回復を促進する薬、人体の構造と機能、運動と健康、【障害者・障害児心理学】、食と健康、健康と運動の生理学(面接授業)
♢哲学に関する科目
 申請科目なし
♢教育学に関する科目
 他大学教職関連科目から8単位
♢言語学に関する科目
 申請科目なし

▼付記2:学位取得者数

 学位授与機構発行の「機構ニュース」によると、2023年度10月期に学位を取得したものは約2200名にのぼりました。
 心理学区分は筆者1名でしたので、放送大学からすでに1万3千人の認定心理士が誕生していることを考慮すると、学位授与機構の存在感はまだまだ薄いのかなという心象です。認定心理士に申請に必要な単位の修得を目指しつつ、プラスアルファの単位を修得することにより、心理学区分で「文学」という学士号も得られるので、学位授与機構での学位取得を新たな選択肢の一つとして考えてみるのもいいのではと思います。

学位取得者数1 機構ニュース第252号から引用
学位取得者数2 機構ニュース第252号から引用

▼付記3:謝辞

 学位授与機構での学位取得を知るきっかけとなったnoteを書いていたのは、放送大学の卒業生lumpsuckerさんでした。卒業研究を断念した私のモチベーションを、学位授与機構での学位申請へと向かわせてくださったことに感謝しております。おかげさまで学位取得までたどり着けました。lumpsuckerさんの記事では、学位授与機構での学位取得の流れについても詳細に記載されていますので、ぜひ参考になさってください。

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