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クラブ活動と私#10:初夏の夜の夢 -ユーレイに魅入られて-

※前回までのお話※

たまには部室で活動してみる?

これまでのお話はこちら。


前日譚的なものはこちら。


私にはひとつクセがある。
ふいに職場などで誰かと目が合った時、
「どうかしました?何かご用でも?」
といった風に首を傾げる仕草をするのだ。

どちらかというとこういう不思議そうな顔ではなく
ちょっとした挨拶っぽくにこやかな感じで。

これが何やらパートのオバおねえさん方からは
「可愛い」と思われてた時期があり、そこから
何がどう拗れたのか”オネェ疑惑”にまで発展した。

・・・何でそうなるの?


時は遡って入部間もない高一の春。

私たちをメタルフィギュアで釣り上げた部長の
BAN太さんを中心にTRPGリプレイを制作する為の
グループ編成が始まった。

ゲームマスターはそのままBAN太さん。
プレイヤーはBAN太さんが釣り上げた私、K君、
たく、みーくんの同じ中学出身の4人と
2年になってから入部してきたHAさん。
そして「折角なら女性プレイヤーも欲しいよね」
とBAN太さんが引っ張ってきた2年のMさん。

それぞれ自己紹介していく中でMさんの
ペンネームが『紺野玉三郎』だと知った。

そのペンネームには見覚えがあった。

入学当初、クラブ見学で最初にこの部室に
訪れた時に見たイラスト。
夏をテーマに展示されていた作品の中に
幽霊を描いた水彩画があった。
怖いというより美しいという印象が強い、
髪の長いキレイな女性の幽霊。
そこには達者な筆使いで作者の名前が
添えられていた。
それが『紺野玉三郎』というペンネームだった。

この人が描いたのか。
何故だか妙に印象に残る、青が基調のあの1枚。

実は『紺野玉三郎』というペンネームは
あのイラストのイメージから他の部員に
名付けられたもので、あの達筆なサインも
文化祭用に書き足したものだと後から耳にした。


「呼びにくいから”玉ちゃん”で」
K君がそう言い出した。
当の本人はそもそも『紺野玉三郎』という
ペンネーム自体、気に入っていない様子だったが
結局K君のひと言でその呼び方が定着した。

女性プレイヤーと卓囲むのは初めてやなぁ。
ちょっと楽しみかも。

この時はまだ、そんな風にしか思っていなかった。


梅雨明けの頃、通学経路にある駅の近くの
公園でお祭りがあると聞いて、部員総出で
遊びに行く事になった。

普段電車で通学しているメンバーが続々と
集まってくる。
玉ちゃんはいつもは自転車通学だ。
その日も自転車で現れるのかと思っていたら、
集合時間より少し遅れて駅から降りてきた。

なるほど、そりゃ自転車じゃ来れないわな。

玉ちゃんは紺色の浴衣姿だった。

その様子を見た氷子先輩がキャーキャー
言いながら玉ちゃんに駆け寄っていた。
「カワイイ!めっちゃ似合ってるやん。」
ベタ褒めしながら使い捨てカメラの
シャッターを切っている。
まだお祭りも始まっていないのにフィルムを
使い切りそうな勢いだ。

それから花火が始まるまでの時間、少人数に
分かれて思い思いに屋台を巡っていた。

この頃の私はというと、中学の頃の失恋を
いまだに引き摺っているところがあり、
もしかしたらどこかに彼女がいるかもしれないと
ずっと幻を追い掛け続けていた。

そんな風に辺りを見渡しながらK君たちと
屋台を廻っていた時、視界に玉ちゃんの
姿が映った。

「あ・・・」

団扇を仰ぎながら氷子さんたちと歩く玉ちゃん。
その姿は屋台からの水銀灯の灯りや角度など
色々な偶然が重なって、まるで彼女が描いた
あの幽霊のイラストそのものに見えた。

どれくらい見惚れていたのだろう。
数分なのか、数秒なのか。

玉ちゃんがこちらの視線に気づいた。
そしてにこやかに、首を傾げる。

玉ちゃんにはひとつクセがある。
誰かとふいに目があった時、
「どうしたの?」
と首を傾げる仕草をするのだ。

とりあえず何か反応しないと。
そう思い慌てて手を振る。

玉ちゃんも笑いながら手を振り返してくれた。


この日この後見た花火は、何よりキレイに見えた。


その日から、私は幻を追い掛けるのをやめた。
ユーレイに取り憑かれてしまったから。


ねぇ先輩
ぼく、あなたのしぐさが好きだった
ふいに目が合った時、首をかしげるしぐさ 
みんな面白がってマネしてたけどさ
ぼくがそれを真似たのは
あなたの気を惹きたかったからだよ
きっと気づいてなかったよね
もう、クセになっちゃって抜けないんだ
大好きだった、あなたのこのしぐさ

こちらの詩をパクr参考にさせて頂きました。
いやこれほほネタバr


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