見出し画像

報われない男。昇進の話。新品のミンティアをゴミ箱に捨てた夜。

\オフィスでダンス第5弾/
昇進とはルールがあるようでない。ビジネスにおける昇進について、一人の男の様をお届けする。彼はなぜ新品のミンティアをゴミ箱に捨てたのか。

↓エピソード1、前作から読みたい方


筆者の自己紹介↓

1.プロローグ

今夜は宇治木さんの話だ。彼は、ミンティアを胸ポケットに常備していて、ストレス緩和の薬と言って笑いながら口に運ぶ、温厚な男性だ。

人間性でいうと、「明日は全員直行だけど、全体朝礼あって上の人の目に触れるし、俺も直行したいけど、一回オフィスに寄った方が、悪目立ちしないよね」と言って、誰にも知られることなく、一人、部署のために客先直行を取りやめる、そんな男だ。

目立つことは好まない、俺なんか上に立つ器じゃないよなんて言って、いつも得意なブラックジョークで、昇進の話を避けてきた男だ。年は私の10個上くらいだろうか。この話の時には、38歳くらいであったと思う。

そんな男の、昇進の話。彼は新品のミンティアをゴミ箱に投げ捨てた。

2.「今夜、一杯いいかい?」 溢れ出す。

「昨日さ、ミンティアが切れちゃって、新しいミンティアを買ったみたいなんだけど、ポケットに入ってるのは、空箱のミンティアなんだよね。はなちゃん、今夜、一杯いいかい?」

なんとも分かりづらいと思うのだが、これは、普段、飄々としている彼のわずかなアラートなのだ、これは何かあった。絶対何かあった。私は二つ返事で客先提案が終えたら、そこから直帰して待ち合わせた居酒屋に向かった。

しばらくたわいもない話、ブラックジョークを交わした後、ハイボールを追加で頼み、本題に入った。「俺、昨日部長と2時間喧嘩し続けたんだ。昇進の事で。」

3.「俺、昨日部長と2時間喧嘩し続けたんだ。昇進の事で。」

部長とはエピソード4に登場する成山部長のこと。彼と宇治木さんは、いつも解決のためのアプローチが違う。
成山部長は荒削りにどんどん進めてくタイプで、宇治木さんはみんなの調和を大事にしながら淡々と進めるタイプ。
お互いがお互いのやり方はできなかったので、協力して実施するのではなく、役割分担して実施する事が二人の最適解になっていた。

問題になっていたのは、2年前から始まった宇治木さん課長化計画である。
鶏が先か、卵が先か。という言葉があるが、昇進も同じようなもので、実績が先か、昇進が先か。という断面がある。

どういうことかと言うと、課長や、一つ上の階級に昇進させる場合、この人を昇進させても良いという上申するためにエビデンスが必要になってくるのだ。

昇進させるという事は、会社としての役職手当がつくし、一度昇進させた、人間を下げる事はほぼない。任命責任にもつながる。そのため、昇進させるか否かは、彼ならどうして昇進に匹敵すると言えるのか。という多方面からの問いに完全解答するから必要がある。

そのため、宇治木さんは2年前から、実績づくりのため、実質的な部署の管理を任され、メンバーのミスを叱責され続けていた。もちろん役職はないので、管理しているメンバと同様な給与で、である。

その中で、今回の昇給の対象から、漏れる可能性があることが浮上したのである。

4.塚本さんは対象なのに?宇治木さんが対象から漏れる?なんで?

そのタイミングでの昇進対象者はうちの部署から2名いた。 

一人は、新卒入社の塚本さん。宇治木さんより、3つ年下だった。管理経験も特にない。
塚本さんとの決定的な違いは、新卒入社か中途入社かの違いだった。

新卒入社のメンバは、管理されているため、時が来ると、各部署に今期昇進対象の可能性があるメンバとして、連絡が入るのだが、中途入社は部署で採用を進めているため、部署からのノミネート制になっている。

また、新卒のメンバは、新卒時代から会社の行事にたくさん参加しているので、上の役職(昇進の評価を実施する側)のメンバに存在とキャラクターが知られているケースが多いが、中途入社のメンバはそこを部署努力で補わなければならない。

そのため、宇治木さんには、課長化計画を実施していたということである。

だが、実績不十分でノミネートを見送ろうと思うという成山部長からの話があったらしい。なんとキツい。

宇治木さんは部長との喧嘩の帰りに、新しいミンティアを購入し、古いミンティアを捨てたつもりだったそうだが、朝見たら、新しいミンティアの方を捨ててしまっていたということだったそうだ。宇治木さんらしい、独特な怒りの表現の仕方である。

5.「実績が足らへんねん、だから推薦できひん」

私は後日、居ても立っても居られなくなり、やんわりと成山部長に話をしてみた。
成山部長も、「俺も悩んでんねん。言わんでな。」と言いながらことの顛末を教えてくれた。

宇治木さんが対象から漏れる可能性が出たのは、営業実績について。
宇治木さんは元来の性格から、案件化が難しいそうなものを引き受け、案件化が見込めるものはメンバーに渡していたし、管理職の仕事をしていたから、自分の営業案件は案件化の難しいもの以外は手放していたのであった。

その結果、宇治木さん単体の評価としては、ここ2年間、目立った営業成績なし。という評価になってしまい成山部長も推薦できなくなってしまったらしい。

昇給なしで、メンバを取りまとめ、メンバのミスを庇いながら、仕事を進めていた彼の報われない瞬間であった。

流石に、それはないと、私も思ったが、確かに状況は分が悪いとも思った。
会社は、残念ながらアピール合戦な側面は少なからずあって、周りに見えるように仕事をする事を心がけることは一つ自分の身を守ると私は思っている。

宇治木さんは見えない努力をして、目立たないようにする性格が悪さして、彼の良さは、見えない何かとして、評価の対象にならなかったのである。

成山部長は多くを語らず、「俺が頑張らなあかんところやと思ってるから。」と言っていた。

6.宇治木課長が誕生した

成山部長がどのように奔走したかは、彼も自分の努力を語らない人だから真相はわからない。
でも、おそらく、実績やエピソードなどをまとめて、何人かの評価者を回って、人事を調整して、ノミネート対象にしてもらったのだと思う。

そして、論文や面接などの試験をくぐり、宇治木さんは晴れて課長になり昇進したのである。

7.オフィスでダンス

ルールとは、やはり人の上に、成り立っているのだなと思った。特に昇進などと言ったデリケートな話のルールでは、ルールよりも運用する側が強くなる気がする。

いくらルールがあっても、それを盾にするだけではどうする事もできない事も多いのではないか。
ルールを自分に適応してもらうためには、少なからず周りの協力が必要だ。

企業で働く中で、仕事が少なからずアピール合戦の毛色を帯びるのは、周りへの理解を促す為、と言う側面もあるのでは無いかと思った。
ようこ部長の有言実行で事にあたるという考え方がよぎった瞬間でもあった。

終わり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?