ゆきはら

ねこが好き。小説が好き。パンやお菓子作りが好き。 30年とちょっと、高校で国語を教えて…

ゆきはら

ねこが好き。小説が好き。パンやお菓子作りが好き。 30年とちょっと、高校で国語を教えてきましたが、2024春で区切りをつけました。

最近の記事

疱瘡(ほうそう)の姫君―花折る少将異聞―第三話

六  数日の後、少将は透子姫の邸にむかっていた。前回の訪問の時は、月明かりが満開の桜を照らし出していたが、今宵は闇夜である。桜もすっかり散って葉桜になっていた。  邸の近くまできたところで琴の音に気がつく。おかしいな、今までにこんなことはなかった。姫は雨の日にしか琴を弾かない。しかも戸を立て切って。こんなところまで音が聞こえてくることなど今までなかったのだ。  広縁に腰を下ろし、しばらく琴に聞き入る。曲が終わったところで、 「めずらしいですね。琴の音色で迎えてくれるとは

    • 疱瘡(ほうそう)の姫君―花折る少将異聞―第二話

      五  少将の訪問から七日ほど経った雨上がりの午後、透子はある人を待っていた。雨を十分に吸った土の匂いと草木の息吹が庭から部屋の中へと流れてくる。春の生暖かな空気の中、透子はいつになく緊張していた。かつて、五節の舞姫に選ばれた時、透子の後見として、宮中での作法から舞の所作に至るまで全てを教えてくれた弁内侍様がいらっしゃるのだった。実に七年ぶりの再会である。都に疫病神が現れた七年前、透子はその禍をもたらした疱瘡の姫君だと噂され、それ以来人目を避けて隠れるように暮らしている。弁内侍

      • 「疱瘡(ほうそう)の姫君―花折る少将異聞―」第一話

        【あらすじ】 時は平安、人目を避けて隠れ住む透子姫のもとには、花折る少将と世間で噂される貴公子が通っていた。透子はかつて帝への入内が決まりながら疫病流行の元凶だと濡れ衣を着せられた姫君だった。帝に新たな姫君が入内することになり、透子は女房として出仕する決心をする。帝に複雑な思いを抱える少将は透子の出仕を阻止するため、入内予定の姫を盗み出すが、盗んだはずの姫は尼である姫君の祖母だった。尼君や周囲の者達の助けを借り二人は堂々と生きる道をつかむ。 第一話 一 ほの白い光に包まれて

        • 逃げてはいけないという呪い

          早期退職するにあたって、参考にした本が2冊ある。 『魂の退社』稲垣えみ子著(2016年 東洋経済新聞社)と『幸福な退職―「その日」に向けた気持ちいい仕事術―』スージー鈴木著(2023年 新潮新書)である。 稲垣氏の『魂の退社』は、私の退職したいというはやる気持ちを一旦収めてくれた。退社後に自分に起こることがリアルに想像され、自分の覚悟や退職後の生活の試算等の甘さを痛感させてくれた。結果的にこれを読んだ年は、退職の申し出を見送ることとした。スージー鈴木氏の著作もやはり自分に

        疱瘡(ほうそう)の姫君―花折る少将異聞―第三話

          言葉が一人歩きするとき。〜柔道からの連想

          まもなくパリオリンピックである。 先日、テレビで柔道の父と呼ばれる嘉納治五郎の特集を見た。 柔道は明治期にこの方によって創設されたものだったのか。 意外と新しいことに驚く。もちろんそれまでに柔術というものがあったらしいが、私たちが日本の伝統と思っているものは意外と明治期に生み出されたものが多い。 柔道には思い出がある。 教師になって最初の赴任校には柔道大会というものがあった。 季節は冬、1・2年生の男子生徒がクラス代表として団体戦を行う。女子生徒は応援だった。現代の視点から

          言葉が一人歩きするとき。〜柔道からの連想

          草刈デビュー

          55歳にして新たにできるようになったこと。 それは草刈機の操作である。しかも2台。 公園や河川敷で、丸い円盤型の草刈機を両手で持って、左右に動かしながら草を刈る姿を目にしたことはないだろうか。刈り払い機ともいうらしい。1台目がこれである。 2台目は、ガソリンで動く自走型草刈機である。自走型と言っても、全自動で運転してくれるわけではなく、イメージとしてはマニュアル車。まずチョークを引っ張ってエンジンを動かし、左手でクラッチ、右手でアクセルを握り、両手で進む方向を定めて動か

          草刈デビュー

          シジュウカラに誘われて

          3月末に無事退職してはや3ヶ月。55歳の早期退職である。公立高校の教員を33年勤めていた。33年も働いたのか。「お疲れさん」と自分に声がけして、4月からは教育系出版社の外部委託の仕事を始めた。憧れのフリーランス。在宅勤務。実働5時間くらい。華麗なる転職である。まあ現実はそう甘いものではなく、仕事が遅いから世にいう最低賃金スレスレ、いやそれを下回ることもしばしば。それでも前職の経験を活かせる貴重な仕事だし、何よりやっていて楽しい。いわゆるコスパなどというものは度外視して時間をか

          シジュウカラに誘われて

          気がつけば12月。

          早期退職までの道のりを書いていこうという意気込みで始めたというのに、書いたら愚痴noteになってしまいそうで、ためらっているうちに3ヶ月も経っていた。 さて、最近ハマっているのが、「いちばん好きな花」。 昨日の冒頭のシーン、『嫌いなポジティブワード』。 「他人は変えられないけど、自分は変えられる。」 「死ぬ気で頑張れ。頑張っても死なないから。」 どっちも学校でよく聞くやつ。そして、私もどこかで言ったことがあるやつ。 夜々ちゃんの言う「ポジティブな人怖いね」という台詞もはっ

          気がつけば12月。

          学校のトイレをなんとかしたい。

          私は公立高校で教員をしています。 学校のトイレをなんとかしたい。そのために声をあげること。 それがいま私が未来のためにできることです。 財政状況の地方公共団体は、建物の長寿命化計画を進めており、目標使用年数を100年にしているとのこと。トイレの老朽化は進むばかりです。 春に入学したばかりの男子生徒が、「この学校のトイレは刑務所よりひどい」と嘆いていました。男子トイレの小便器は、ハイタンク方式といって、時間になると一斉に洗浄されるようになっています。逆に言えば、使用後洗浄さ

          学校のトイレをなんとかしたい。

          私が早期退職を決めた七つの理由

          私が退職を決断した理由をとりあえず箇条書きにまとめてみました。 ちなみに私の家族は、夫と、社会人の子ども二人、二人とも独立して別々に暮らしています。それから猫二匹。保護猫にゃんずはまた別の機会に紹介します。 子供達が独立して経済的に楽になったということが退職決断の前提としてあるのは事実です。 さて、決断の理由は以下のとおりです。 1 国語の先生という仕事は好きだけれど、教員文化・風土には30年経っても   馴染めなかった。 2 公務員の定年延長により、私の定年は65歳に。

          私が早期退職を決めた七つの理由

          はじめまして。

          はじめまして。ゆきはらです。 地方の公立高校で国語を教えています。 来春で辞めることを決意、55歳の早期退職です。 9月に入って校長に伝え、人事調書に退職希望と記入して昨日提出してきました。 もっとドキドキするのか、感慨深いものなのか、と思っていましたが、今のところ、全くそんなこともなく。 自分でも驚きです。 これから退職までの日々をあれやこれやと綴っていきます。よろしければお付き合い下さい。 #自己紹介 #早期退職

          はじめまして。