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【ゾッとする話】「ヒョウ柄おばちゃんが来る」がある幸せ

ある年の夏休み、妻と一緒に、尾道を旅行したときの話です

海辺を散歩し、観光地を巡り、商店街をぶらぶら・・・日常の喧騒を離れて、のんびりと流れる時間を堪能していました

このとき、まさか、あんな恐ろしいことが起ころうとは・・・



「どこもいっぱいだね、予約しておけばよかったな」

まだ18時過ぎにもかかわらず、商店街にあるご飯屋さんはどこも満席で、妻と自分はいわゆる「夕ご飯難民」状態

「あれっ、こんなところにお好み焼き屋さんあったっけ?」

尾道好きで、ほぼ年に1回旅行していましたが、コロナ騒動の間に尾道に来られなかったためか、商店街の入り口に見たことがないお店ができていました

お店を覗き込むと、店内はカウンター席のみで、お客さんは誰もいない

「広島のお好み焼き食べたかったから入ろうよ」

広島出身の妻は、「大阪風」ではない「広島風」のお好み焼きが大好き

ネットを見るもののお店の情報はあまりなく、多少の不安はあるものの、他に入れるお店もなかったので、妻にややせっつかれる形で入店しました



「いらっしゃいませ」

背が高くて線の細い店主が出迎えます

店内を見渡してもこの店主しかいない、独りでお店を回しているようでした

メニューを見て、お好み焼き、サイドメニュー、ドリンクを頼みます

カウンター席のみのお店は店主と対面する形になるので、店主の良し悪しが非常に重要

気難しい店主に当たってしまった日には美味しさ半減・・・どころか直ぐにでも店を出たくなる性分の自分

おそるおそる店主に話しかけてみると

「お客さんはどちらからいらしたんですか?最近、観光客が増えてましてね、ここら辺、夕食食べるところ少ないからお店探すの苦労されたんじゃないですか?」
・・・と、とても気さくで良い店主じゃないか!



「優しそうな店主でよかったね」

ホッと一安心しましたが、心配なことがもう1つあります

優しい店主だからと言って美味しいものを提供するとは限らない・・・

広島で食べるお好み焼きって、大体どれも美味しい

しかし、過去1度だけ、フラッと入ったお店で激マズお好み焼きを食べたことがあり、そのときの光景がフラッシュバックします

ちぎれて焦げた小麦粉の塊ような見た目に、全く深みのないソース・・・お好み焼きって、極めてシンプルな料理なのに、どうやってあそこまで下手に作れんたんだろう



「お待たせしました!」

そんな過去の記憶に捉われていた最中、ドリンクとサイドメニューが届きます

砂ずりとキャベツを炒めたもの

1口いただくと・・・

美味い!シンプルなのに、とても奥深い

横目で鉄板を見ていましたが、ただ焼くだけではなく、お酒を振って蒸したり、砂肝を丁寧にコテで返したり・・・とっても繊細に作られていました

「いつからこのお店始められたんですか?」

店主曰く、開店から間もないようでしたが、以前は、近くの行列店で働いてたとのこと

そんな有名店で働いていたとすれば間違いない

優しい店主に美味しい料理

さっきまでの心配が杞憂に終わります



そんないい雰囲気になってきたころ、老夫婦が入店

それから間もなく、大学生ぐらいのカップルも入店

それぞれ、お好み焼き、サイドメニュー、ドリンクを注文します

カウンターが満席になり、店内が自然と賑わってきました



「ここら辺は良く来るんですか?」

妻と自分は他のお客さんに話しかけたりしないタイプですが、珍しく左隣りの老夫婦に話しかけます

「いえ、初めて来て、どこかよい場所があったら教えてください」

そんな会話をするうちに、その老夫婦のドリンクが空になります

・・・あれっ、何かがおかしい



続けて、右隣に居た大学生カップルもドリンクが空になります

・・・やはり、間違いない




このお店は、店主のワンオペ

そして、決して大きいとは言えない鉄板が1枚あるのみ

極め付きは、店主の丁寧過ぎる料理

・・・全然、お好み焼きが出てきません



そこからしばらくして、やっと老夫婦、大学生カップルの前にお好み焼きが並びます

・・・と、その瞬間

「お好み焼き、持ち帰りできる?」

そのお客さんは、跨っていた自転車をお店の横に停めて、入口から入ってきます

強めのパーマに、金縁の眼鏡、濃い目の口紅に、真珠のネックレス、そして、ヒョウ柄の洋服を身にまとった、まるで「ガキの使い」に出てきそうな典型的な関西風おばちゃん

ちょっと恐そうな感じです



「スペシャル焼き2つ、どれぐらいでできそう?」

店主は、既に店内の注文を捌くので手一杯

この状況で、注文を受けるのか・・・固唾を飲んで店主の回答を伺います



すると、店主

「えっと・・・結構待っていただきますけど、いいですか?」

眼鏡の奥にあるヒョウ柄おばちゃんの目が細くなり、怒って帰るかと思ったその瞬間



「構わんよ、焼いてる間、買い物してこようか?」

意外にもニコッと優しい笑顔

「40分はお待ちいただきますけど、いいですか?」

40分は長い・・・しかし、この店内の様子だと妥当な時間

「ええよ、いくらになる?最近、土地売って儲かったから高くてもええよ」

金持ちジョークを繰り広げた後、ヒョウ柄おばちゃんは再度自転車に跨って颯爽と商店街に消えていきました

「あのおばちゃん、どんだけ儲かったんですかね」

店主と笑いながら話していると、待っていた料理がが次々と出来上がります

老夫婦、大学生カップル、うちら夫婦、それぞれが追加メニューを頼み、店の雰囲気が最高潮になったそのとき・・・



「あっ、いけね・・・」



店主の小声が小さな店内に響き渡ります




「テイクアウト、忘れてた・・・」



店内の全員が一斉に壁に掛かっている時計に目を向けます



背筋がゾッとします 

何ということでしょうか

あと10分でおばちゃんは来てしまう



急いで店主がお好み焼きを焼き始めます



しばらく店主の邪魔をしてはいけない・・・

このタイミングでの追加オーダーはご法度

老夫婦とうちら夫婦は状況を察してにジッと店主を見守ります

大学生カップルはこの状況を察することができるだろうか

心配になったそのとき

「お会計お願いします!」

その状況に耐えられなくなったのか、お店を出ようとする大学生カップル

「バカヤロー、店主にお会計してる余裕はないぞ!」


・・・と、怒鳴りたいところですが、グッと堪えて

「いくらですか?店主お忙しそうだから後でお支払いしておきますよ」

普段、他のお客さんに話し掛けたりしない自分からの意外な提案

大学生カップルの女の子が「何でこのおっさんが会計すんの?」と言わんばかりに、不審な目を自分に向けますが、これも店主のため

きっちりおつりを渡して大学生カップルを笑顔で送り出します



「ありがとうございます!」

店主にお礼を言われるも

「いいんですよ、気にしないでください、それより、テイクアウトのお好み焼きを早く焼いてください!頑張って!」

店主との妙な一体感が生まれるも、約束の時間は来ます



「少しでも遅れてこないかな・・・」

その願いもむなしく、キキーっと激しいブレーキ音が鳴り響きます



改めて背筋がゾッとします

完成度は5割、出来上がりまではまだ時間が掛かりそう

「40分も待たされてできていなかったら、ヒョウ柄おばちゃんは怒るだろうか・・・」

ガラッと入口の戸が開き、ヒョウ柄おばちゃんが入店

「できた?」



ということで、いかがだったでしょうか

お化け話とは違う意味で背筋がゾッとした話でした

ちなみに、そのヒョウ柄おばちゃん、さらに15分のほど店内で待たれていたのですが、全く怒らず笑顔で帰っていきました

尾道の人が温厚なのか、金持ち喧嘩せずなのかわかりませんが、優しい人でよかったー

この夏休みは予定があって行けないのですが、また尾道行きたいなー

予定が空いている方は尾道いかがでしょうか?

ではまた!


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