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『キル・ビル』:2003、アメリカ

 ザ・ブライドは、教会でビルという男から激しい暴行を受けた。妊娠していることを口にしたザ・ブライドに、ビルは銃弾をお見舞いした。

[chapter1-2]
 ザ・ブライドは、車でカリフォルニア州パサディナを訪れた。彼女が訪れた家には、ヴァニータ・グリーンという黒人主婦が暮らしていた。驚きの表情を見せるヴァニータと、ザ・ブライドはいきなり戦闘に入った。だが、スクールバスでヴァニータの娘ニッキーが帰宅したため、ひとまず2人はナイフを隠した。

 ヴァニータはニッキーを2階の部屋へ行かせ、合図があるまで出ないよう指示した。彼女はコーヒーを入れるフリをして、コーンフレークの箱に隠した銃でザ・ブライドを狙う。しかし狙撃は外れ、ザ・ブライドはナイフを投げてヴァニータを殺す。その様子を、ニッキーが目撃していた。ザ・ブライドは「大きくなっても恨んでいたら来なさい」と告げ、その場を去った。

[chapter2:The Blood Splattered Bride]
 田舎町の教会で、エドガー・マッグロー保安官補らが惨殺事件の現場検証を行っていた。そこへ、保安官補の父であるアール保安官がやって来た。「息子1号」と呼ばれた保安官補は、結婚式が襲撃されたこと、新婦と新郎、牧師と妻、オルガン弾きなど9名が殺されたと説明した。
 保安官が教会に足を踏み入れると、ザ・ブライドの死体が倒れていた。名前は不明だという。顔を近付けた保安官は、まだザ・ブライドに息があると気付いた。

 ザ・ブライドは昏睡状態のまま、病院に収容された。そこへエル・ドライヴァーという隻眼の女が現われ、看護婦姿に着替えてザ・ブライドの部屋に入ってきた。
 彼女は点滴に毒を注射してザ・ブライドを殺害しようとするが、そこへビルから電話が掛かってきた。ビルは「あれだけやっても死ななかったのだから、どこまで生きられるか見てみたい」と告げ、殺害を中止させた。

 4年後、ザ・ブライドは意識を取り戻した。男の声が聞こえたため、彼女は慌てて昏睡状態のフリをした。看護師のバックが、男を連れて病室に入ってきた。バックはザ・ブライドが眠っている間に強姦を続けており、今回は金を取って客を連れて来たのだ。
 バックが病室を出た後、ザ・ブライドは体に乗ってきた男を殺害する。病室を出ようとしたザ・ブライドだが、両足が麻痺して動かない。そこへバックが現われたため、ザ・ブライドは彼を殺害し、車のキーを奪った。

 車椅子を使って駐車場へ行ったザ・ブライドはバックの車に体を滑り込ませるが、まだ足が動かない。足に動くよう念じながら、彼女は結婚式を襲撃したビルの部下4人の顔を思い出した。オーレン・イシイ、ヴァニータ、エル・ドライヴァー、バドというメンバーだ。
 4人は、ザ・ブライドも所属していたDeadly Viper Assasination Squadの構成員だ。ザ・ブライドの復讐リストのトップは、最も見つけやすいオーレンになった。

[chapter3:The Origin Of O-Ren]
 オーレンは東京の米軍基地で、日本人と中国系アメリカ人の間に生まれた。9歳の時、彼女は目の前でヤクザの松本組長に両親を殺された。火を放たれた部屋から、彼女は脱出した。
 11歳の時、オーレンはロリコンの松本に近付いて復讐を果たした。20歳で世界トップクラスの殺し屋となり、ザ・ブライドを襲った時は25歳だった。ザ・ブライドは、オーレンに関する思考から現実に戻った。車の中で念じ続け、13時間後には足の感覚を取り戻した。

[chapter4:The Man From Okinawa]
 ザ・ブライドは復讐を始める前に、沖縄へ向かった。彼女は寿司屋に入り、日本刀作りの名人である主人の服部半蔵に会った。ザ・ブライドの目的は、服部半蔵に刀を作ってもらうことだった。
 既に刀作りから引退したことを告げる半蔵だが、ザ・ブライドは「弟子がやったことの責任がある」と告げる。復讐相手が弟子のビルだと知った半蔵は、寿司屋にザ・ブライドを住まわせ、1ヶ月を費やして日本刀を仕上げた。刀を手に入れたザ・ブライドは、オーレンのいる東京へ飛ぶ。

[chapter4:Showdown At House Of Blue Leaves]
 オーレンは現在、日本のヤクザ社会の総長になっていた。ハーフで日本語も拙い彼女がトップに立つまでには、ある出来事があった。彼女は小澤組長、本田組長、弁田組長、大神組長、小路親分が集まった会合で、反発する田中組長を惨殺し、その恐ろしさを見せ付けたのだ。
 オーレンの配下には、通訳のソフィー・ファタールや女子高生の殺し屋のゴーゴー夕張、ジョニー・モーを始めとするカトーマスクの殺し屋集団“クレイジー88”がいる。

 オーレンは配下の面々を引き連れ、大きな料亭“青葉屋”に足を踏み入れた。一味が宴を開いているところへ、ザ・ブライドがやって来た。彼女は電話をするため席を外したソフィーを捕まえ、オーレンを呼び出した。
 ザ・ブライドはソフィーの肩腕を斬り落とし、オーレンに宣戦布告する。他の客が逃げ出した後、ザ・ブライドはオーレンが差し向ける配下との戦いを開始した…。

 監督&脚本はクエンティン・タランティーノ、製作はローレンス・ベンダー、製作協力は前田浩子&ディード・ニッカーソン、製作総指揮はエリカ・スタインバーグ&E・ベネット・ウォルシュ&ボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン、撮影はロバート・リチャードソン、編集はサリー・メンケ、美術は種田陽平&デヴィッド・ワスコ、衣装は小川久美子&キャサリン・マリー・トーマス、アニメーション監督は中澤一登、アニメーション・キャラクターデザインは石井克人&田島昭宇、アニメーション美術監督は西田稔、音楽はRZA。

 出演はユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ヴィヴィカ・A・フォックス、ダリル・ハンナ、デヴィッド・キャラダイン、マイケル・マドセン、ジュリー・ドレフュス、栗山千明、千葉真一、ゴードン・リュウ(リュー・チャーフィー)、マイケル・パークス、マイケル・ボーウェン、國村隼、大葉健二、風祭ゆき、ジェームズ・パークス、佐藤佐吉、ジョナサン・ローラン、森下能幸、島口哲朗、北村一輝、田中要次、高橋一生、山中聡、真瀬樹里、麿赤兒、大門伍郎、菅田俊、チャン・ジンチャン、フー・シャオフイ、アンブロジア・ケリー他。

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 オタク監督のクエンティン・タランティーノが、好き放題にやりまくったヴァイオレンス映画。
 元々は1本で完結するはずだったが、あまりに尺が長すぎたため、2つに分けて公開された。そのため、この1本目は『キル・ビル Vol.1』と称されることもある。
 タランティーノとユマ・サーマンは、『パルプ・フィクション』の頃にザ・ブライドのキャラクターを考えたそうだ。そのユマ・サーマンの妊娠により、撮影の予定が1年ほど延期されている。

 オーレンの回想シーンは劇画調のアニメーションになっており、少女オーレンの声を前田愛(声優の方ね)が担当している。
 アニメ製作はProduction I.Gが担当しているが、これはタランティーノが『Blood The Last Vampire』を見てオタク魂を揺り動かされたから。また、『Blood The Last Vampire』はゴーゴー夕張のモチーフにもなっている(それと『A KITE』がモチーフ)。

 ザ・ブライドをユマ・サーマン、オーレンをルーシー・リュー、ヴァニータをヴィヴィカ・A・フォックス、エル・ドライヴァーをダリル・ハンナ、ビルをデヴィッド・キャラダイン、バドをマイケル・マドセン、ソフィーをジュリー・ドレフュス、ゴーゴー夕張を栗山千明、服部半蔵を千葉真一、ジョニー・モーをゴードン・リュウ(リュー・チャーフィー)が演じている。

 他に、保安官をマイケル・パークス、バックをマイケル・ボーウェン、田中組長を國村隼、半蔵の弟子を大葉健二、青葉屋の女将を風祭ゆき、保安官補をジェームズ・パークス、小澤組長を麿赤兒、本田組長を大門伍郎、弁田組長を菅田俊が演じている。北村一輝が小路親分&クレイジー88の構成員、田中要次がクレイジー88の構成員として出演している。
 北村一輝は、タランティーノが来日した時に直談判して役を貰ったらしい。

 この映画のテーマ曲として有名になった布袋寅泰の曲は、元々は日本の映画『新・仁義なき戦い』に使用されたものだった。それを聞いて気に入ったタランティーノが、「だったら新しくテーマ曲を作ろう」という布袋の申し出を辞退し、そのまま転用している。
 また、青葉屋ではTHE 5.6.7.8'Sが演奏しているが、タランティーノが日本で聞いて気に入ったために参加を要請したそうだ。

 サニー千葉は剣術のファイト・コレオグラファーも担当しているはずなのだが、実際の殺陣のシーンでは呼ばれていない。実際に現場で殺陣の指導をしたのは、クレイジー88として出演もしている“殺陣俳優集団 剣伎衆かむゐ”リーダーの島口哲朗だ。
 マーシャルアーツ担当のユエン・ウーピンと共同で格闘シーンを指導したが、ラストのザ・ブライドとオーレンの殺陣は全て島口の振付によるもの。
 ちなみに剣伎衆かむゐには、サニー千葉の娘・真瀬樹里も所属している(彼女もクレイジー88として出演)。

 エンドロールではSpecial Thanksの後、“And R.I.P.”として数名の映画人6名の名が記されている(「R.I.P.」はRest in Peaceの略、つまり「安らかに眠れ」の意味)。
 その6名は、チャールズ・ブロンソン、チャン・チェ(張徹、『五毒拳』などを撮ったショウ・ブラザースの監督)、深作欣二、ロー・リエ(羅烈、『キング・ボクサー/大逆転』の主演俳優)、勝新太郎、ウィリアム・ウィットニー(西部劇を中心に活動したアメリカのB級映画監督)である。

 タランティーノ監督お得意の「時系列の組み換え」が、本作品でも行われている。映画ではオーレンとの戦いがラストになっているが、劇中でザ・ブライドが語るようにオーレンは復讐相手のトップだ。
 つまり時系列で並び替えると、結婚式での襲撃→病院でザ・ブライドが目を覚ます→沖縄で日本刀を入手→オーレン一味と戦う→ヴァニータとの戦闘、という順番になる。

 配役からして、タランティーノ監督のオタク魂が窺える。
 ビル役が、TVシリーズ『燃えよカンフー!』と映画『サイレント・フルート』のデヴィッド・キャラダイン。服部半蔵が、言わずと知れたサニー千葉。ジョニー・モーが、かつてショウ・ブラザーズの看板俳優だったリュー・チャーフィーだ。
 他に、栗山千明は『バトル・ロワイアル』を見て、國村隼や風祭ゆきや菅田俊は『殺し屋1』を見て、それぞれ起用が決まったらしい。

 タランティーノは衣装にもオタク的こだわりを持っていて、ゴーゴー夕張の服装もスタッフが「セーラー服の方がいいのでは」と勧めたにも関わらず「でも日本の女子高生はブレザーが主流じゃん」ということでブレザーにしたらしい。その一方で、オーレンの衣装を着物ではなく当初は男子の学ランにしようと思っていたらしい。
 いやいや、それは違うぜタランティーノ。
 『香港発活劇エクスプレス 大福星』のディック・ウェイじゃあるまいし。

 この映画には、タランティーノが影響を受けた作品、好きだった作品のネタが幾つも盛り込まれている。
 幾つか例を挙げていくと、まずオープニングでは香港のショウ・ブラザースのロゴマークが表示される。
 ザ・ブライドが復讐相手に会うと『鬼警部アイアンサイド』のテーマ曲が流れるが、これは映画『キング・ボクサー/大逆転』で主人公が怒ると同曲が流れたことを真似ている。
 ヴァニータのモデルは、パム・グリア姐御がブラックスプロイテーション・ムービーで演じていたキャラクター。

 ブライドが復讐を果たすとサニー千葉の言葉が聞こえるが、その内容はTVシリーズ『柳生一族の陰謀』のオープニング・ナレーションと同じ。
 保安官が保安官補を「息子1号」と呼ぶのは、映画『チャーリー・チャン』シリーズから。
 ジョニー・モーを筆頭とするDIVAS(毒蛇暗殺団)の設定は、映画『五毒拳』からの着想。

 半蔵の弟子が師匠に言う「ハゲじゃなくて剃ってるだけだ」というセリフは、大葉健二が映画『コータローまかりとおる!』で演じた天光寺輝彦のセリフから。
 彼が演じているのは、TVシリーズ『影の軍団IV』の便利屋がま八と同じ役。
 服部半蔵がザ・ブライドに刀を授けるシーンで言う「旅の途中で神と出会えば~」というセリフは、映画『魔界転生』で柳生十兵衛が言ったセリフ。

 オーレンのモチーフは『修羅雪姫』で、同作品に主演した梶芽衣子の『修羅の花』を挿入歌、『怨み節』をエンディング曲に起用している。
 また、オーレン・イシイという名前は、TVシリーズ『影の軍団』で志穂美悦子が演じたお蓮と、タランティーノが好きな日本の監督の苗字(石井輝夫、石井隆、石井聰亙、石井克人)から付けている。
 名前といえば、ゴーゴー夕張はTVアニメ『マッハGo!Go!Go!』と、タランティーノ監督の初来日となったゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭の舞台である夕張から付けている。

 クレイジー88が着用しているマスクはTVシリーズ『グリーン・ホーネット』の助手カトーが付けていたもので、テーマ曲もオーレンたちが高速道路を移動するシーンで流れる。
 ゴーゴー夕張の武器は、『片腕カンフー対空とぶギロチン』の空とぶギロチンを真似ている。
 他にも、まだまだ様々な映画やTV作品から拝借したネタが盛り込まれている。

 様々な作品からネタを拝借しているが、これはパロディー映画ではない。拝借したネタを、ギャグにしているわけではないのだ。
 実際、この映画で笑うような箇所は、サニー千葉が登場するchapter4ぐらいのものだ。
 何しろタランティーノ監督が自分の好きな映画のネタをそのまんま持ち込んでいるだけなんだから、そりゃあ笑いになろうはずがない。

 監督がハシャいでいることは間違いないが、コメディー映画ではない。過去の映画のネタで構成された映画というだけで、そのネタに何か別の方向性を与えるための加工は行われていない。
 そこにある意識はパロディー化ではなくオマージュだ。
 普通ならオマージュというのは一部分に限られるが、この映画はオマージュだけで全編が構成されているのだと解釈すればいい。

 二次使用のコラージュ、再構築によって出来上がっている作品なので、「リミックス映画」と称するのが、ふさわしいように思える(内容としては「スプラッター時代劇」かな)。
 ただし、元ネタを知らなければ楽しめないかというと、そうではない。オタク魂、B級映画魂さえあれば、タランティーノ監督のセンスと共鳴して、それなりに楽しめると思う。

 この映画には、普通の感覚で見れば、おかしな描写が幾つもある。
 例えば、ザ・ブライドは昏睡状態だったのに、目覚めてすぐに4年間の眠りだったことを理解している。日本の飛行機やバイクには、日本刀を置くための刀ホルダーが用意されている。ザ・ブライドが青葉屋の襖を開けると庭が白一色の雪景色になっているが、そこは2階だ。
 そんな風に、ツッコミを入れようとすれば、色々とツッコミ甲斐のある箇所はある。
 しかし、「果たしてツッコミを入れるべきなのか」と、少し考えてみよう。

 例えば手品を見る時に、大きく分けて2つのスタンスがあると思う。1つは、どんなトリックなのか解き明かそうというスタンス。もう1つは、深く考えずに、驚きの現象を単純に楽しもうというスタンスだ。
 この映画は、後者に似たスタンスで見るべきだと思うのだ。
 野暮なツッコミを入れようとすれば幾らでも入れられるが、その意識を捨てて、荒唐無稽を全て受け入れて単純に楽しもう。

 ここまでぶっ壊れている、トンデモなくギークな映画が製作され、ヒットするアメリカってのはスゴい国だな。そういう意味では羨ましい。
 でこういうオタク魂溢れる映画を作っても、あまりヒットしないんだよな。だから三池監督が職人監督みたいになっちゃう。
 オタクな映画ばかり作っていても、それだけじゃあ、おまんまが食べられないもんな。

(観賞日:2007年9月26日)

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