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『野獣の青春』:1963、日本

 連れ込み宿“やまだホテル”で男女の死体が発見された。女が無理心中を示唆する遺書を残していた。男は竹下公一、現職の刑事だった。町では水野錠次、通称ジョーが盛り場のチンピラたちを殴り倒した。
 彼は野本興業が仕切るキャバレーに入った。専務の小沢惣一が店内をマジックミラーから見ていると、組員が流れ者に袋叩きにされたとの報告が入った。

 やられた組員の一人が現れ、ジョーを見て「あいつだ」と言った。ジョーは組員たちによって事務室に連行された。幹部の久野正男が銃を構える中、縄張り荒らしの理由を問われたジョーは、「暴れたいから暴れた」と不遜な態度で答えた。
 彼は殴り掛かった久野を捻じ伏せ、銃を奪った。「誰に頼まれたかしらんが、倍出そう」と小沢が言うと、ジョーは「契約金100万、月20万だ。俺はオタクの会社に就職を頼みに来ただけだ」と口にした。

 小沢は「社長に引き合わせる」と言い、ジョーを車に乗せた。社長・野本達夫の邸宅に案内されたジョーは、組員の三波五郎が拳銃を忍ばせていることを見抜いた。
 ジョーは三波と、すぐに仲良くなった。ジョーが「日比谷ホテルをヤサにしているが、金は無い」と言うと、野本は「ホテル代は払ってやる」と述べた。野本はジョーの世話を三波に任せた。

 ホテルへ赴いた三波は帳簿を調べ、ジョーが北海道の網走から来たことを知った。ジョーは、やけに大きなトランクを持って部屋から現れた。三波はジョーを、野本興業が経営するマンションに案内した。
 三波がトランクを気にするので、ジョーは中身を見せた。中には散弾銃が入っていた。触れようとする三波の手を払いのけたジョーだが、「こいつはやるよ」と散弾銃を投げ渡した。

 野本組と反目する関係にある三光組に、シマ荒らしが現れたとの情報が入った。ジョーは藤田不動産に現れ、300万円の証文を書くよう社長を脅していた。
 そこへ三光組の幹部・武智茂が手下を率いて現れた。武智は拳銃をジョーに突き付け、手下に殴らせた。だが、ジョーの指示を受けて外で待機していた三波が武智に銃を向けたため、形勢は逆転した。

 野本の邸宅では、ヤク中の女がヤクを欲しがっていた。ある男が「欲しかったら命懸けで金を稼がなきゃダメ」と、ヤクをチラつかせた。ジョーと三波の車が戻ってきたので、男は慌てて2階へ走り去った。
 気付いたジョーが追うが、部屋には誰もいなかった。野本はジョーに「身許を洗ったが、怪しいところは無い。正式に社員として雇ってやる」と告げた。

 竹下の自宅では法事が行われ、警察関係者が弔問に訪れていた。ジョーが訪問し、未亡人・くみ子に「亡くなったご主人に世話になった者です」と挨拶した。くみ子は編物教室をやっていた。警視庁捜査4課の広川が来たため、ジョーは逆方向から走り去った。
 ジョーは車にデートクラブのチラシが挟んであるのを見つけた。彼はコールガールをホテルに呼び出し、竹下と心中した女の写真が掲載された新聞記事を見せた。同じ店にいたかどうか尋ねるが、その店のコールガールではなかった。ジョーは女を裏口から帰らせた。

 シャワーを浴びたジョーがリビングに戻ると、野本の情婦・三浦佐和子が待ち受けていた。彼女は「あの女を殺して。探し出して殺せばいいのよ」と言う。「どの女を殺すんだ」と訊くと、佐和子は「社長の6番目の女を殺して」と述べた。
 彼女は、「心中事件を起こした女はウチのコールガールらしい。ウチの組織は素人臭いのばかり集めていて、その元締めが6番目の女」と語る。誰も女の姿を見たことが無いが、佐和子は元締めだと見抜いていた。

 翌日、ジョーは武智たちに捕まり、組へ来いと脅された。ジョーは散弾銃を手にして形勢を逆転させ、三光組の事務所へ赴いた。会長の小野寺信介は銃を向けられて怯え、「野本の倍出す」と持ち掛けた。
 ジョーは組員を事務所から追い払い、「野本興業はこっちを潰すために武器を買い集めている。スパイとして情報を流してやる。野本は元子分じゃねえか。先手を取って野本興行を潰すんだ」と持ち掛けた。武智は密かに覗き込んで撃とうとしたが、ジョーはお見通しだった。

 ジョーは三波にコールガールの元締めについて尋ねるが、何も知らないという答えだった。「お前はマヌケ野郎だ」と罵ると、怒った三波は、「元締めは女じゃねえ、社長の弟のヒデ、オカマみたいな野郎だ社長の屋敷に行った時に会っただろう、ウチのことで知らないことは何も無い」と告げた。邸宅でヤクをエサにコールガールを釣っていたのは、野本の弟・秀夫だったのだ。

 ジョーは秀夫が仕切る紫クラブに赴き、「お前の相棒はどこにいる?」と脅した。そこへ野本が現れ、ジョーを捕まえて拷問した。依頼人を吐くよう脅され、ジョーは佐和子のことを明かした。サディストの野本は、佐和子を鞭で暴行した。ジョーは久野から「2時に社長の家へ来い。ヤクの取引がある」と告げられた。
 ジョーは小野寺を呼び出し、「一千万のヤクの取引がある。取引が終わるのを待ってヤクの卸屋を襲って金を取り上げろ」と指示した。ジョーは「ヤクには手を出すな。金を奪ったのは野本たちの仕業だと思わせるんだ」と作戦を教え、武智に自分の車を追跡するよう指示した。

 広川を目撃したジョーはバスに逃げ込むが、すぐに追い付かれた。広川はジョーに「どのツラ下げて竹下の法事に出て来たんだ。野本興業に入ったろ。竹下も泣くに泣けないだろうよ。お前、神戸へ行ってから性根まで腐ったな」と告げた。
 かつてジョーは神戸で刑事をしていた。公金を横領したとの投書があったことで同僚の竹下に問い詰められ、「捜査費にしただけだ。証拠が不充分で、俺の勘だけで動いたから、部長のハンコは貰えないだろうと思った」と釈明した。

 ジョーは「投書は桜組の奴らが書いたもんだ。しばらくの間、これを握り潰しておいてくれ。首を懸けて桜組を挙げる」と竹下に告げた。竹下は承諾し、手紙を無視した。
 その晩、ジョーは桜組の代貸を捕まえて痛め付けた。だが、やりすぎたために、相手は喋るどころじゃなかった。そのため、ジョーは暴行や公金横領で刑務所行きになった。それを彼は広川に説明した。

 ジョーは「刑務所に入っている間、竹下は肺病の妻の世話もしてくれた。借りを返すために、竹下を殺った奴を挙げる」と言う。彼は「お前も4課なら石山洋介を知ってるだろ。麻薬の大物だ。奴が神戸から東京へ移った途端、竹下も東京の4課に異動した。竹下は簡単に尻尾を出さな石山を挙げるために脇から固めていった」と語る。
 「犯人が野本興業にいるのか」と問われ、ジョーは「刑務所にいた時に竹下に挙げられた奴がいて、野本興業のいい顔だった」と告げた。

 広川は警察に任せるよう説くが、ジョーは「目には目を、歯には歯を。殺した奴は殺す」と言う。広川が銃砲不法所持で警視庁へ連行しようとするので、ジョーは殴って失神させた。
 既に約束の時間を過ぎていたため、彼は慌てて三波たちと合流し、麻薬商人・柴田勝との取引現場へ向かった。近くで待機していた武智たちは、取引を終えた柴田の車を襲って一千万円を強奪した。

 野本は石山に呼び出され、改めて代金を支払うよう要求された。「やったのは私たちではありません」と野本は無実を訴えるが、石山は「嫌なら、以後、貴方との取引を止めるだけだ」と冷淡に告げた。
 その時、柴田はジョーが刑事だと思い出した。神戸時代に、警官姿のジョーを見ていたのだ。ホテルの部屋に戻ったジョーは野本たちに捕まり、指を痛め付けられた。

 警官時代の写真を見せられたジョーは、「3年前に刑務所にブチこまれた刑事だということも覚えておけ」と怒鳴り散らす。野本たちは汚職事件があったことを確認し、ひとまずジョーの疑いは晴れた。
 ジョーは野本に、「取引現場の近くの鉄橋で三光組のチンピラを見た。あいつが仲間に知らせたんだ。名前は知らないが顔は覚えている」と告げた。

 野本興業はチンピラを捕まえて拷問し、「俺たちがやった」と白状させた。チンピラは「武智の命令でやった。武智がどこから情報を仕入れたかは知らない」と語る。下っ端のチンピラは、ジョーがスパイだと知らないのだ。小沢は「武智を捕まえろ」と組員に指示した。
 ジョーは組員の石崎、そして三波の3人で武智のアパートへ向かった。武智はおらず、情婦の桂子が留守番をしていた。三波は桂子に一目で惚れ込み、「この女と一緒にいたい」とワガママを言って、交代で見張りをすることも拒んだ。

 ベランダに出たジョーは、アパートの外に戻ってきた武智を目撃した。ジョーは「ニゲロ」と書いたマッチを落とした。しかし武智は逃亡せず、銃を構えて乗り込んできた。
 桂子が置いてあった散弾銃を取ろうとして、それを奪い取った三波は彼女を射殺してしまう。撃ち合いの末、武智と石崎も死んだ。三波は武智に撃たれて重傷を負った。警官がアパートに現れたため、ジョーは三波を連れて逃走した。ふと見ると、くみ子の編物教室の看板があった。

 ジョーはくみ子に家を提供してもらい、三波の弾丸を摘出した。ジョーは自分の素性と現在の行動を全て明かし、警察に電話せずに黙っていてほしいと頼んだ。ジョーは野本に電話を掛けて武智が不意討ちを掛けてきたことを説明し、「向こうは殴り込みの準備をしている」と吹き込んだ。それから小野寺に武智が殺されたことを伝え、「向こうは殴り込みの準備をしている」と吹き込んだ。
 ジョーはくみ子に、「三波を目撃しているから、一緒に来てもらわないといけません。目撃者を生かしておいたら俺が野本に怪しまれる。でも、助けますから大丈夫です」と告げた。

 くみ子の家へ、野本が直々にやって来た。ジョーが「女を連れてった方がいいでしょう」と言うと、彼は「これから殴り込みだというのに邪魔だ。騒ぎ立てなきゃ心配は無い」と口にした。ジョーが邸宅へ戻ると、野本興業の面々は三光との戦いに備えていた。
 組員が出動する中、野本はジョーに「お前は行かなくてもいい。行っても高みの見物するつもりだろ」と告げて拘束した。ジョーの目的を、野本は全て知っていた。ジョーは誰が野本に教えたのかを悟り、ハッとした…。

 監督は鈴木清順、原作は大藪春彦、脚本は池田一朗&山崎忠昭、企画は久保圭之介、撮影は永塚一榮、編集は鈴木晄、録音は中村敏夫、照明は大西美津男、美術は横尾嘉良、擬斗は高瀬将敏、音楽は奥村一。

 出演は宍戸錠、渡辺美佐子、川地民夫、信欣三、清水将夫、金子信雄、香月美奈子、平田大三郎、郷鍈治、上野山功一、小林昭二、木浦佑三、星ナオミ、河野弘、江角英明、玉村駿太郎、鈴木瑞穂、山田襌二、阿部百合子、木宝郁子、柳瀬志郎、青木富夫、木島一郎、三木正三、花村彰則、久松洪介、野村隆、三浜元、黒田剛、光沢でんすけ、二階堂郁夫、緑川宏、漆沢政子、山口吉弘、赤司健介、糸賀靖雄、高緒弘志、織田俊彦ら。

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 大藪春彦のハードボイルド小説『人狩り』を基にした作品。ただし内容は原作と全く違っているらしい。
 ジョーを宍戸錠、くみ子を渡辺美佐子、秀夫を川地民夫、小野寺を信欣三、石山を清水将夫、小沢を金子信雄、佐和子を香月美奈子、柴田を平田大三郎、武智を郷鍈治、久野を上野山功一、野本を小林昭二、桂子を星ナオミ、三波を江角英明、広川を鈴木瑞穂が演じている。

 対立する2つの組織の両方に雇われて、その中で自分の目的を遂行しようとするという大枠は、黒澤明監督の『用心棒』と同じ。
 1961年の二谷英明主演作『ずらり俺たちゃ用心棒』も『用心棒』かモチーフになっている感じだったし、活劇としては使いやすい素材ってことなんだろうな。
 「そんなに簡単にパクっていいのか」と思うかもしれないが、いいんだよ。日活のアクション映画って、西部劇なんかは平気でパクッていたし。それもOKな時代だったってことだよ(ホントはダメだけど)。

 鈴木清順は「難解な作品を撮る監督」という印象が強いが、それは代表作『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』から来るイメージだろう。最初から分かりにくい映画ばかり撮っていたわけではない。
 日活にいた頃の彼は、クビを宣告されるきっかけとなった『黒い刻印』はともかくとして、それ以前はプログラム・ピクチャーをキッチリと作っている監督だった。
 プログラム・ピクチャーの枠の中で自分の色を出すための実験を色々とやっていて、日活を離れたことで、完全にアートの世界へ行ってしまうのだ。

 だから、この映画には難しいところなど何一つ無い。ハードボイルド・タッチに染められた、真っ当なプログラム・ピクチャーである。
 ただ、内容に分かりにくいトコロは無いけど、タイトルと内容は全く合ってないよなあ。何がどう青春なのかはサッパリ分からない。
 原作とは大幅に内容が異なるので、『人狩り』というタイトルを使わないのは理解できるが、だからって「青春」は無いぞ。

 タイトルロールでは、オーケストラ・ジャズによるBGMが流れる。唸るトロンボーンがリズムを刻む楽曲はカッコ良くて、ちょっとスタン・ケントンっぽい。
 この時代の活劇映画では、BGMにオーケストラ・ジャズが使われることが多かった。それは映画界の風潮ということよりも、一般社会でジャズが流行していたというのが大きいんだろう。

 連れ込み宿のシーンはパートカラーで、花瓶の花だけが赤い。他は白黒。男の死体の顔の後、激しいジャズが流れ始め、喧騒の町の様子が映し出される。引いたカメラが盛り場のチンピラたちを殴り倒す謎の男を捉える。
 ジョーがキャバレーに入ると、マジックミラーから店内を見ている小沢たちが映し出される。店内の様子を見せたい時には、「マジックミラーの側から窺っている」という形なので、無音になる(防音設備があるので)。事務室の様子を描く時には、こちらの音声が聞こえる。そういう演出を施している。

 野本の邸宅へ案内されたジョーは、三波がハジキを隠しているのに気付いて「手を離してもらおうか」と告げる。「じゃあ一緒に」と三波が言うので拳銃を捨てると、三波は自分の銃を捨てた瞬間に、隠し持っていた別の銃を出す。「こういう駆け引きはまだまだ若いね」と彼が笑うと、ジョーは帽子に隠している別の銃を見せる。クールだぜ。
 で、そこで三波は怒らず、「なかなかやる奴だ」という反応を示す。その後、トランクの中の散弾銃を触ろうとして「触るな」と拒まれると声を荒げるが、ジョーに「こいつはやるよ」とプレゼントされると、と嬉しそうに握手する。
 この三波のキャラはイイねえ。

 ジョーは「桜組の代貸を捕まえて痛め付けた。やりすぎて相手は喋るどころじゃなかった。その後、暴行や公金横領で刑務所送りだ」と説明しているが、そりゃ桜組が罠を仕掛けたんだろうけど、それって、どう考えても本人がバカなだけだよな。
 あと、三波が武智の情婦に一目惚れする件とか、上手く消化できていない部分が幾つかある。結局、竹下が追っていた石山の存在は放置されたままだし。終盤は激しい銃撃戦が展開されるが、ジョーは関わっていないし、取って付けたような感じ。
 まあプログラム・ピクチャーだし、最後は派手な銃撃戦が無いとね。

 清順監督は、本作品で大胆なジャンプ・カットを何度か使っている。
 例えばジョーが武智たちの車で襲われるシーン。ジョーが逃げて車が通過すると、次のカットでは三光組の奴に背後から銃を向けられている。次のカットでは、もうジョーは背後を気にしながら歩いている。「歩け」と指示されるような行動を省いているのだ。
 さらにシーンが替わると、もう身体検査を受けている。組へ来いと脅されて拒否すると車に押し込まれるが、反対側のドアから脱出して散弾銃を構える。ここはイマジナリーラインを無視している。

 紫クラブの場面では、ジョーに「お前のお袋はパンパンらしいな」と挑発された秀夫が、隠し持っていたカミソリで襲い掛かる。ジョーの背中越しに、カミソリを押し付ける秀夫の顔が写る。
 だからジョーが頭でも切られているのかと思いきや、カットが切り替わると、足元で秀夫の腕が椅子に押し付けられている。カミソリが落ちてジョーが拾い、形勢が逆転する。
 何がどう動いた結果としてそうなったのかは良く分からないが、とりあえずジョーが逆転したことだけは分かる。

 ジョーは野本に捕まり、「誰に頼まれた?」と訊かれる。で、「どんなことがあっても、この秘密だけは喋るか」と強情を張っているので、どうやって危機を脱出するのかと思っていたら、シーンが切り替わると情婦が野本に鞭でシバかれている。で、ジョーはヘラヘラとした態度で「俺の疑いはもう晴れたんだろ」と言っている。
 つまり、ジョーは簡単にゲロったわけだ。

 せっかく色々と省略することでテンポの良さを出しているのに(たぶん、そういう狙いがあるんだと思うが)、警官が武智のアパートに来たのでジョーが三波を連れて逃走し、パトカーから身を隠すという展開で時間を費やすのは、どうかと思うんだが。
 ただ、それが無いと、偶然に編物教室の看板を見つけて、くみ子の家に三波を運び込むという展開は、やりにくかったのかな。

 その、くみ子だが、三波を運び込むシーンまでに、あと1度ぐらい登場させておかないと、あまりにも存在感が薄すぎる。「夫を殺された哀れな未亡人で、おとしやかな淑女」というイメージを強く示しておいてこそ、終盤の展開も映えるわけだし。
 あと、そこでジョーが自分の居場所を野本に教えて、「くみ子を目撃者として一緒に連れて行かなきゃいけない」という状況に持って行くのは、終盤の展開に向けての無理があると感じる。くみ子を本気で守りたいと考えていたのなら、野本に教えたりはしないはずだ。

 ラストシーン直前にも、大胆な省略がある。
 秀夫を昏倒させてくみ子から話を聞いていたジョーは、彼女が同情を誘う話で命乞いをしたため、廊下に出る。その後、ジョーは再びドアを開け、くみ子に秀夫の母親のことを言う。すると、くみ子は黒人相手の娼婦をやっていた秀夫の母親を、「クロンボ相手のパンパンしてたのよ、40幾つにもなりながら」とバカにしたように言う。
 その様子を、カメラは廊下側から、つまりジョーの背中越しにくみ子が写るアングルで捉えている。

 その時、くみ子がドアに隠れた部屋の右側に視線をやって、顔を引きつらせる。外に逃げようとするのをジョーが阻止し、くみ子を部屋に押し戻してドアを閉める。カットが切り替わると、カミソリを握る手だけが写る。それはジョーに失神させられていたが意識を取り戻し、母をコケにされて怒った秀夫の手だ。
 カミソリを持った手が振り下ろされると、カメラは切り替わってジョーを写す。くみ子が殺されるシーンを省略し、悲鳴さえ聞かせない。そして、ジョーが警視庁に電話を掛けるシーンへと繋いでいる。
 決して大団円のハッピーエンドではなく、主人公が目的を果たしたにも関わらず、苦味を帯びた終幕が待っている。

(観賞日:2010年2月22日)

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