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『ワイルドバンチ』:1969、アメリカ

 兵士に化けた強盗団のパイクたちは、南テキサス鉄道管理事務所を襲撃した。鉄道会社の保安主任を務めるハリガンは、向かいの建物の屋上からその様子を観察していた。賞金稼ぎのリーダーであるソーントンはハリガンから「奴らか?」と問われて「そうだ」と答え、仲間のコッファーやTCたちに「出て来るまで撃つな」と指示した。
 パイクは手下のエンジェルに外の見張りを指示し、金の入った袋を回収する。エンジェルが禁酒同盟の面々が行進して来るのを目撃すると、パイクは相棒のダッチに「参加しよう」と告げた。

 パイクは向かいの建物から狙っている面々がいることに気付き、クレイジー・リーに人質の監視として留まるよう指示した。パイクが所員1名を事務所から突き出すと、賞金稼ぎの面々は一斉に発砲した。強盗団は迎撃しながら、繋いである馬へ向かう。
 巻き込まれた大勢の人々が命を落とす中、強盗団は馬で逃走した。ハリガンはソーントンに「こんなやり方をするなら、お前を殺す」と非難され、「パイクを逃がしたな」と告げた。

 クレイジー・リーは逃げ出した人質に発砲するが、賞金稼ぎに撃たれて死ぬ。ハリガンは町長から「町を戦場にしたから大勢の死傷者が出た。アンタに償いをさせるからな」と糾弾されても、「無法者を捕まえるためだ。裁くのは我々だ」と正当性を主張した。
 バイクは目を撃たれた仲間のバックから「もう馬に乗れない。楽にしてくれ」と言われ、その場で射殺した。これで残るメンツはパイク、ダッチ、テクターとライルのゴーチ兄弟、エンジェルの5人だけになった。

 ハリガンは賞金稼ぎたちに、「殺したのは下っ端だけだ。10分後に追跡を開始する。裏切ったら千ドルの賞金でお前たちを殺させる」と告げる。彼はソーントンに、「裏切るなよ。またパイクと組みたいだろ」と言う。
 ソーントンが「自分の仕事を誇れるのか。囚人を使って殺しをやらせるなんて」と責めると、ハリガンは「最高だ」と不敵に笑った。ソーントンは嫌悪感を抱くが、ハリガンは「30日の猶予だ。監獄へ戻るのが嫌なら、元の仲間でも容赦するな」と述べた。

 強盗団はメキシコへ渡り、馬番をしていたフレディーと合流する。ゴーチ兄弟は見張りのエンジェルと馬番のサイクスが同じ取り分であることに不満を抱き、パイクに「同じ額をやるのは不公平だぜ」と訴える。しかしパイクから凄まれると、「同じ額でいい」と引き下がった。
 パイクたちが袋を開けると、中身は鉄の輪だった。すぐにパイクは、ソーントンの策略だと確信する。彼は仲間たちに、「アグアベルデへ3日で行ける。様子を見て戻ろう」と持ち掛けた。

 パイクはダッチたちに、「銀行か鉄道を襲う。違う生き方をしたい。銃の時代は終わる」と告げる。「次は何を狙う?」とダッチから質問されたパイクは、「アメリカ軍が国境に駐屯してる。兵隊の給料を狙う」と述べた。パイクとソーントンは、それぞれ一緒に組んでいた頃のことを回想した。
 仕事を成功させた2人は、部屋に女たちを呼んで楽しんでいた。ドアがノックされてソーントンが警戒した時、パイクは「注文したシャンパンが届いたんだ。俺を信用しろ」と軽く告げた。しかし入って来たのは政府の連中で、ソーントンは肩を撃たれて捕まった。その間にパイクは、部屋から逃走した。

 翌日、強盗団が砂漠を移動していると、斜面で馬が転倒した。テクターがサイクスに「貴様のせいだぞ。足手まといだ、始末する」と凄むと、パイクが「今こそ前のように団結が必要だ」と諭す。馬に戻ろうとしたパイクが足を踏み外すと、ライルは「あのボスとサイクスは、ここらが見切り時かもしれねえ」と言い、テクターは「馬にも乗れねえで指揮が出来るのか」と語る。
 一行が再び出発すると、サイクスはパイクに「孫は町で役に立ったか?クレランス・リーだ」とパイクに尋ねた。「なぜ黙ってた?」とパイクが驚くと、彼は「心配させたくなかった。特別扱いなんて駄目だ」と述べた。

 賞金稼ぎチームが国境に近付くと、コッファーがソーントンに「この先はメキシコです。最も近い町はアグアベルデで、革命派と戦っているマパッチ将軍の司令部があります」と説明した。するとソーントンは、「戻って待機だ」と指示した。
 強盗団はエンジェルの故郷の村に到着し、村長と会った。村長はパイクに、マパッチ将軍配下の政府軍が村を襲ったこと、エンジェルの父を含む7人が殺されたこと、馬や牛や穀物が奪われたことを話した。

 エンジェルが恋人であるテレサのことを訊くと、村長は「マパッチの女になって、笑って村を出て行った」と話す。他の面々が宴を楽しむ中、エンジェルだけは「マパッチはどこだ?」と強い怒りを示す。
 パイクが「早く忘れてしまえ。さもないと置いておくぞ」と言うと、彼は「アンタと一緒に行く」と述べた。翌日、強盗団は村人たちの歌に見送られて出発し、アグアベルデへ向かった。町に到着した彼らは、政府軍が集まっている様子を目にした。

 エンジェルはテレサがマパッチと仲良くしている姿を目撃し、耐え切れずに声を掛けた。「村を捨てたな」と言われたテレサは、「そうよ。あんな貧しい村は嫌いよ。ここに来て幸せ」と悪びれずに告げる。彼女はエンジェルに見せ付けるように、マパッチに体を密着させた。
 カッとなったエンジェルがテレサを射殺したため、兵隊が強盗団を包囲した。銃を向けられたパイクは、慌てて「狙ったのは将軍じゃなく、女だ。婚約してた。嫉妬したんだ」と釈明した。

 マパッチ将軍の顧問を務めるドイツ帝国陸軍のモール参謀は、強盗団がアメリカ軍の軍用拳銃を携帯していることに気付いた。「民間人は合法的に入手できない」とモールが指摘すると、パイクは「政府とは不仲でね」と言う。モールはマパッチに、彼らを食事の席へ招待するよう促した。
 パイクたちは政府軍のザモラ補佐官たちから、アメリカ軍の列車を襲撃して銃と弾薬を奪う仕事を依頼される。1万ドルの報酬を提示されたパイクは、「特別な装備が要る」と言う。するとザモラは、「必要な物は主計官に請求しろ」と告げた。

 パイクたちは風呂に入りたいと要望し、ゴーチ兄弟は女を用意するよう求めた。ザモラは部下のヘレラに女を用意させ、パイクたちは浴場に案内された。エンジェルが「列車は襲わない。奪った銃で村人が殺される」と反対すると、ダッチは「銃の強奪と関係なく、奴らは村を襲う」と告げる。
 エンジェルは「村人は丸腰だが、銃があれば勇敢に戦える」と言い、銃をくれるなら列車を襲うと持ち掛けた。そこでパイクは銃と弾薬の入った箱1つを分け前として渡すと約束し、エンジェルは承諾した。

 ソーントンは強盗団がアメリカ軍の列車を襲う情報を入手し、ハリガンに知らせた。彼は「護衛は役に立たん。腕利きを20人ほど頼む。あんな馬鹿どもじゃダメだ」と、近くにいる賞金稼ぎの面々を扱き下ろした。ソーントンが警戒する中、強盗団は列車を襲撃して連結を切り離した。
 パイクたちは武器の入った箱を馬車に積み、その場から逃走する。アメリカ軍と賞金稼ぎの連中が追って来ると、彼らは橋を爆破して行く手を塞いだ。賞金稼ぎの連中がアメリカ軍に発砲したため、ソーントンは激怒した。

 マパッチは軍を率いて革命派と戦っていたが、弾薬が不足して窮地に追い込まれていた。そこへサンアントニオから電報が届き、列車強盗の成功が伝えられた。マパッチはヘレラに「アグアベルデへ行って銃を奪え。抵抗したら殺せ」と命じ、軍を撤退させた。
 ソーントンは4人の賞金稼ぎを率いて強盗団を捜索するが、岩場で足跡を見失った。しかし彼はパイクたちが隠れて観察していることを察知しながらも、捜索活動を続行した。

 パイクはダッチにマパッチの兵を見張るよう指示し、爆薬の確認に向かった。パイクマパッチが自分たちを殺して武器を奪うつもりだと見抜いており、爆薬を仕掛けることにしたのだ。しばらくするとヘレラが部隊を率いて現れ、武器の引き渡しを要求した。
 待ち受けていたパイクはダイナマイトや機関銃を見せて脅しを掛け、「明日、商談に行くと将軍に伝えろ。裏切ったら銃は渡さない」と通告した。パイクが本気だと感じたヘレラは、承諾して退却した…。

 監督はサム・ペキンパー、原作はウォロン・グリーン&ロイ・N・シックナー、脚本はサム・ペキンパー&ウォロン・グリーン、製作はフィル・フェルドマン、製作協力はロイ・N・シックナー、撮影はルシアン・バラード、美術はエドワード・カレル、編集はルイス・ロンバルド、音楽はジェリー・フィールディング。

 出演はウィリアム・ホールデン、アーネスト・ボーグナイン、ロバート・ライアン、エドモンド・オブライエン、ウォーレン・オーツ、ハイメ・サンチェス、ベン・ジョンソン、エミリオ・フェルナンデス、ストローザー・マーティン、L・Q・ジョーンズ、アルバート・デッカー、ボー・ホプキンス、ダブ・テイラー、ホルヘ・ルセク、アルフォンソ・アラウ、チャノ・ウルエタ、ソニア・アメリオ、アウロラ・クラヴェル、エルサ・カルデナス他。

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 『昼下りの決斗』『ダンディー少佐』のサム・ペキンパーが監督&脚本を務めた作品。共同で脚本を担当したウォロン・グリーンは、これが映画デビュー作。
 パイクをウィリアム・ホールデン、ダッチをアーネスト・ボーグナイン、ソーントンをロバート・ライアン、サイクスをエドモンド・オブライエン、ライルをウォーレン・オーツ、エンジェルをハイメ・サンチェス、テクターをベン・ジョンソン、マパッチをエミリオ・フェルナンデス、コファーをストローザー・マーティン、TCをL・Q・ジョーンズ、ハリガンをアルバート・デッカー、リーをボー・ホプキンスが演じている。

 「この映画が西部劇映画に終止符を打った」と言われることもあるが、ある意味では正解で、ある意味では間違いだと言える。この映画が公開された当時、西部劇映画の時代は実質的に終焉を迎えていたのだ。そのことを本作品は、多くの人々にハッキリと認識させたのだ。
 西部劇の衰退には幾つかの理由があるが、マカロニ・ウエスタンの流行も一因だ。マカロニ・ウエスタンでは西部劇より過激な暴力描写が盛り込まれ、善玉とは呼べない男が主役になることも多かった。その影響を受けてハリウッドの西部劇映画も変質していき、それが昔からのファンを離脱させていった。そんな「マカロニ・ウエスタン的な西部劇」の代表格が、この作品だ。

 パイクの率いる強盗団は、のっけから卑劣な行動を取っている。「悪人だけど美学がある」とか、「強盗だけど弱者である庶民に危害は加えない」とか、そういう「善玉としての強盗団」ではない。賞金稼ぎから逃走する時は、平気で事務所の所員を犠牲にしている。
 禁酒同盟の行進が近付いているのを分かった上で逃走計画を実行するので、当然のことながら大勢の人々が巻き添えになる。発砲を受けると、近くにいた人を盾に使って自分を守る。見事なぐらい卑劣なクズどもだ。

 強盗団を追い掛けるハリガンは「悪党を退治しようとする正義の男」ではなく、こちらはこちらで卑劣極まりない冷徹非道な男だ。なのでパイクたちは「立派なヒーローに追われる悪人ども」ではなく、「卑劣な権力者に追われる悪人ども」ということになる。
 追い掛ける側の親玉を不愉快な奴にしてあるので、間違っても観客が彼に肩入れしてしまうことは無いと断言できる(手下であるソーントンは好感の持てる男だが)。ただし、だからって「パイクたちがクズでもOK」ってわけではない。

 強盗団は決して一枚岩とは言えず、些細なことで何度も言い争いや対立が起きる。しかし、その反目は長く続かず、あっさりと元に戻る。例えば強奪した袋の中身が鉄輪だと分かった時、ライルはパイクを「アンタのせいで死に掛けた。こんな鉄クズのために。最後の仕事のつもりだったのに。準備に金を使い果たした」と非難する。それに対してパイクは「何が準備だ。町で女を買ってたくせに」と反論し、現場には険悪な雰囲気が流れる。
 普通に考えれば、そのままチームの団結にヒビが入るだろう。しかしパイクが少し間を置いて「俺も女を買ってりゃ良かった」と漏らすと、ライルが「アンタが準備してる間、たっぷり楽しんだ。1人に女2人だぜ」と言い、そこで全員が笑い出す。ピリついていた空気が、あっさりと緩和に変化するのだ。

 エンジェルの故郷の村を訪れた時、ゴーチ兄弟は若い娘と遊んで童心に帰り、パイクは自分たちが強盗団と気付いている長老と話して大いに笑う。夜になって宴が始まると、ダッチやゴーチ兄弟は村の女と音楽に合わせて楽しく踊る。彼らが悪人だということは、すっかり忘却の彼方になっている。冒頭シーンでは大勢の市民を犠牲にしていたが、そんなことを完全に忘れさせてしまうような描写だ。
 そんな中でエンジェルだけは怒りを燃やしているが、「復讐心を抱く男」としての描写であり、共感を誘うようなキャラになっている。また、その直前には砂漠の移動で反目が起きていたが、それもいつの間にか忘れ去られている。

 アメリカ軍の列車を襲撃するエピソードに入ると、もはやパイクたちは完全に「応援したくなる主人公グループ」としてのポジションを確定させている。アメリカ軍の列車を襲って武器を奪うんだから、もちろんパイクたちの行為は紛れも無い犯罪であり、本来は否定されるべきことだ。
 ただ、襲撃する相手はアメリカ軍なので、強盗団は「政府という巨大権力に反抗するアウトロー」という立場になるってのが大きい。それによって、観客は何の引っ掛かりも持たず、強盗団の味方をすることが出来る。

 ただし、そのままだと強盗団は、「マパッチのためにアメリカ軍から武器を奪った男ども」ってことになる。マパッチはメキシコの政府軍であり、貧しい村人たちを惨殺して略奪を行った卑劣な悪党だ。そんな奴の協力者という立場ではマズい。
 しかし、ちゃんとマパッチが「強盗団を殺して武器を奪おう」と画策してくれるので、パイクたちは「卑劣なマパッチの政府軍と対決するアウトロー」という立場になる。そのように「権力に対抗するアウトロー」としてのポジションが続くことで、冒頭シーンで見せていた「何の罪も無い市民を平気で盾に使う卑劣な連中」としてのイメージはすっかり消え去ってしまう。

 しかしサム・ペキンパーは、強盗団の罪を「無かったこと」にするわけではなかった。彼は自分で冒頭に「卑劣な真似をする連中」として描いた責任を、ちゃんと果たしている。
 クライマックスには、「捕まってリンチを受けているエンジェルを助けるため、パイク、ダッチ、ゴーチ兄弟がマパッチ軍の元へ乗り込み、激しい戦いが繰り広げられる」という展開が用意されている。ここでサム・ペキンパー監督は、パイクたちに犯した罪のケジメを付けさせている。

 その激しい戦闘は「デス・バレエ(死の舞踊)」と称されることもあり、本作品を象徴するシーンとして位置付けられている。そういう暴力描写こそが、西部劇を衰退させた大きな要因だと捉える批評家もいる。
 それはともかく、その戦闘の中で、パイクたちは敵軍だけでなく女や子供にも撃たれて命を落とす。その前には「娼婦に金を払わない」とか「また敵に撃たれそうになって女を盾にする」という行動も取っているので、分かりやすい因果応報なのである。

(観賞日:2017年4月27日)

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